料理とお茶が「合う」とは?正解を探して見えてきた、静岡茶の多様な魅力。【静岡茶フードペアリング研究会】
公開日:
2026年10月13日
最終更新日:
2026年10月13日
.png)
「料理とお茶が合う」とは、どういう状態を指すのでしょうか。
美味しい料理と美味しいお茶を組み合わせれば、それだけで美味しい食事になるはず。しかし、それが必ずしも良いペアリングとは限りません。では、何をもって「合う」と判断するのでしょうか。
10月5日(月)、静岡市の老舗料亭「浮月楼」にて、第2回「静岡茶フードペアリング研究会」が開催されました。今回 の研究会では、9品の和食とさまざまな静岡茶を組み合わせ、料理とお茶の相性を探りました。
参加者は、茶業従事者や料理関係者から、SNSを見て興味を持ってくださった一般の方までさまざま。静岡茶という一つのテーマに、異なる立場の人たちが集まりました。
私自身も料理とお茶を味わいながら、参加者の方々にお話を伺いました。そこで見えてきたのは、料理とお茶の組み合わせに対する多様な考え方。そして、それぞれの好みに合わせて選べる、静岡茶の奥深さでした。
静岡の歴史と食文化をつなぐ、浮月楼

研究会の舞台となった浮月楼は、JR静岡駅北口から徒歩3分の場所にある料亭・催事場です。江戸幕府第15代将軍・徳川慶喜公が大政奉還後に約20年間を過ごした屋敷跡に、明治24年(1891年)に開業しました。
街の中心部にありながら、敷地内には池泉回遊式庭園が広がり、歴史を感じさせる落ち着いた空間が迎えてくれます。
冒頭の挨拶では、支配人の森さんから、はやくも次回の研究会に向けたお話がされました。夏のビアガーデンで提供していたおでんや、静岡名物の黒はんぺんなど、静岡らしいメニューも取り入れていきたいという構想です。
浮月楼ならではの料理と地域の食材、そして静岡茶を掛け合わせながら、静岡茶の魅力をさらに広げていきたい。今回限りの取り組みではなく、こうした試みを継続していくことへの意欲も語られました。
9品の和食と静岡茶をペアリング

前回は7品の和食と静岡茶を組み合わせ、参加者が自由に相性を探りました。第2回では料理を9品に増やし、それぞれにおすすめのお茶が用意されました。
茄子摺り流し寄せ / 深蒸し煎茶
生湯葉鰻甲餡掛け / 普通煎茶(やまかい)
柚子味噌豆腐 / 紅茶(香風)
海老カダイフ揚げ / 茎ほうじ
いくら丼 / ウーロン茶
茶ぶり海鼠ポン酢和え / 茎茶
和牛ローストビーフ / 微発酵茶(香駿)
秋刀魚肝焼き / 水出し山椒緑茶
零余子信田巻き / 普通煎茶(香風)
料理長からは、静岡の地のものを使うことにもこだわったとお話がありました。徳川家康に献上されたと伝わる折戸なすや、静岡を代表する山葵など、地域ゆかりの食材が取り入れられています。
おすすめのお茶は、あくまで組み合わせを探すための出発点です。参加者は料理を味わいながら、気になったお茶を自由に試し、感想を記録していきます。同じ料理でも、合わせるお茶によって、味わいが変わっていくことが印象的でした。

お茶の香りが際立つこともあれば、料理の旨みが強く感じられることもあります。今回の研究会では、そうした変化を楽しむだけでなく、参加者同士で意見を交わす時間も設けられていました。
▼参考:老舗料亭・浮月楼で愉しむ、静岡茶×和食のフードペアリング研究会【静岡県静岡市】
そもそも、料理とお茶が「合う」とは?
実際にペアリングを体験するなかで、私には一つの疑問がありました。それは、何をもって料理とお茶の相性が良いと判断するのか、ということです。ペアリングしたときの味わいの違いは、はっきりと感じられます。
しかし、その変化が良いものなのかどうか、私には判断が難しかったのです。料理とお茶は、それぞれ単体でも美味しい。それだけでは、ペアリングとしての相性が良いとは言えないと思いました。
そもそもペアリングとは、料理と飲み物を組み合わせ、互いの風味や魅力を引き立て合うことで、食事の美味しさや楽しみをより豊かにする考え方です。例えばワインでは、似た香りや味わいを持つもの同士を組み合わせて調和を生み出したり、対照的な特徴を持つものを合わせて互いの良さを引き立てたりする方法があります。
THE CELLAR「ワインペアリングとマリアージュの違いは?」
では、実際に料理とお茶のペアリングを手がける方は、どのようなことを大切にしているのでしょうか。

研究会には、レストランなどにボトリングティーをペアリングとして提供している方も参加されていたため、その考え方を伺いました。
教えていただいたのは、料理とお茶がそれぞれ美味しいだけでは「1 + 1=2」の状態であり、良いペアリングとは、組み合わせることで「1 + 1=3」になったり、掛け算になったりするような状態だという考え方です。
つまり、互いの良さを引き立て合い、単体では得られない美味しさが生まれること。お話を伺って頭に浮かんだのは、「ビールに唐揚げ」のような相性です。「この料理を食べると、無性にこのお茶が飲みたくなる」。そうした関係も、ペアリングの理想形の一つなのだと感じました。
ただ、ここでもう一つ疑問が生まれます。料理の味を引き立てるとは、具体的にどういうことなのでしょうか。料理の旨みを長く感じられることなのか。それとも、後味をすっきりさせることなのか。その答えを知りたくて、お話を聞いてみることにしました。
肉の脂は流すべきか、余韻を残すべきか。
特に印象的だったのが、ローストビーフとお茶の組み合わせについての話です。肉料理を食べた後、お茶を飲むことで口の中がすっきりする。これは一つの良いペアリングだと考えられます。

私自身、脂ののった肉を食べた後には、口の中をさっぱりさせてくれるお茶が好みです。
しかし、別の視点に立ってみると、必ずしもそれが正解とは限りません。
例えば、上質な和牛の旨みや脂の余韻を、じっくり楽しみたい人もいるでしょう。その場合、お茶によって脂をすっきり流してしまうよりも、肉の旨みを引き立て、余韻を長く感じられる組み合わせの方が好ましいかもしれません。
さらに、料理を提供するお店の立場から考えてみると、また違った見方ができます。お客様に肉をたくさん食べてもらいたいお店であれば、口の中をすっきりさせ、次の一口を食べやすくするお茶が適しています。
一方、一皿の料理をゆっくり味わってもらいたいお店であれば、肉の旨みや余韻を大切にする組み合わせが適している可能性もあります。同じ料理とお茶であっても、食べる人の好みや、お店が提供したい体験によって、求められる相性は変わってくるのです。

私は最初、どの組み合わせが最も美味しいのか、正解を探そうとしていました。ですが、さまざまな方の意見を聞くうちに、そもそも一つの正解を求めること自体が違うのかもしれないと感じるようになりました。
それぞれの立場に立って考えてみると、それぞれに異なる正解がある。これは今回の研究会で得た、大きな発見でした。
お茶を飲むタイミングによっても、味わいは変わる。
もう一つ、興味深かったのがお茶を飲むタイミングについての話です。料理とお茶のペアリングを体験する際、私はいつお茶を飲めばよいのか迷っていました。
料理を食べる前なのか。料理を口に含んでいるときなのか。それとも、食べ終わった後なのか。

そこで、茶業関係者の方に尋ねてみました。すると、「そもそもお茶を飲むタイミングは人によって異なるため、どのタイミングでも美味しく感じられることが大切」というお話を伺いました。
その方自身も、ペアリングを確かめる際には、食前・食中・食後の3つのタイミングでお茶を飲むようにしているそうです。確かに、料理を口に含んだ状態でお茶を飲むのと、食べ終わった後に飲むのとでは、感じ方が変わります。
同じ料理とお茶でも、飲むタイミングという視点が加わることで、ペアリングの可能性はさらに広がるのです。
評価が分かれた組み合わせから見えてきたこと。
今回の研究会では、参加者が料理とお茶を味わいながら、感想を記録しました。なかでも比較的好意的な意見が聞かれたのが、茄子摺り流し寄せ、生湯葉鰻甲餡掛けの組み合わせです。

茄子摺り流し寄せでは、出汁の優しい味わいとお茶の調和が評価されていました。また、生湯葉鰻甲餡掛けでは、わさびの辛みや料理の旨みと、お茶の苦みがゆっくり続くことで、一体感が生まれるという感想もありました。
料理とお茶がそれぞれ独立しているのではなく、互いの味わいを引き立て合っている。教えていただいた「1 + 1=3」のような状態に近いのかもしれません。
一方で、いくら丼や和牛ローストビーフ、秋刀魚肝焼き、茶ぶり海鼠ポン酢和えなど、味や香りの主張が強い料理については、相性を難しく 感じる意見もありました。料理の味にお茶が負けてしまうことや、魚介特有の風味とお茶がうまく調和しないこともあるようです。
なかには、魚介料理であれば、お茶よりもお酒の方が合わせやすいのではないかという意見もありました。一方で興味深かったのは、評価が分かれた組み合わせにも好意的な感想があったことです。

例えば、いくら丼とウーロン茶。全体としては相性を難しく感じる意見もありましたが、私自身は美味しいと感じました。記録にも少数派ですが、好意的な感想が見られました。
同じ組み合わせを味わっていても、感じ方は人それぞれです。誰かにとっては相性が良くない組み合わせでも、別の誰かにとっては好みの味わいになることがあります。
こうした違いを知ることも、ペアリング研究会の面白さだと感じました。
お茶の淹れ方を変えることで、新たな可能性も。
参加者からは、お茶の淹れ方をあえて変えてみるという意見もありました。例えば、お茶を単体で美味しく飲むのであれば、その茶葉の良さを最大限に引き出す淹れ方を考えます。
しかし、料理とのペアリングでは、必ずしも同じ淹れ方が最適とは限りません。あえて長時間抽出して苦みを強くしたり、反対に薄く淹れたり。水出しにすることで、味わいを変えることもできます。

お茶単体では少し苦すぎると感じても、料理と合わせることで、その苦みが良いアクセントになるかもしれません。つまり、お茶そのものの美味しさを追求することと、料理との組み合わせで美味しさを追求することは、必ずしも同じではないということです。
また、「次回はお茶の種類を絞り、淹れ方の違いによる変化を検証してみてはどうか」という提案もありました。同じ茶葉でも、お湯で淹れるのか、水で淹れるのか。抽出時間や温度を変えることで、料理との相性も変わってきます。

産地や品種だけでなく、淹れ方という視点からもペアリングを考えられることに、静岡茶の奥深さを感じました。
多様だからこそ、自分だけの美味しさを見つけられる。

今回の研究会を通じて感じたのは、静岡茶の魅力の一つは多様性にあるということです。
静岡茶と一口に言っても、産地や品種、製法によって味わいはさまざま。同じ茶葉でも、淹れる温度や時間によって香りや旨み、苦みが変化します。さらに、料理との相性も、食べる人の好みや求める食体験によって変わります。
研究会には、茶業の専門家や料理に携わる方、SNSをきっかけに参加した方など、さまざまな方が集まりました。私自身、参加者の意見を聞きながら味わうことで、自分とは異なる美味しさの捉え方に出会うことができました。
当初は、料理とお茶のペアリングには正解があると思っていました。ただ、実際に体験してみると一つの正解を探すこと以上に、それぞれが自分なりの美味しさを見つけていくことに面白さがあると感じました。
同時に、これほど多様なお茶を「静岡茶」という一つのブランドで伝えることの難しさも感じました。産地ごとの個性を埋もれさせず、淹れ方や料理との組み合わせも含めて、その魅力をどう届けていくのか。
今回の研究会は、静岡茶の可能性だけでなく、その伝え方についても考える機会になりました。これからもさまざまな視点から、静岡茶の魅力を探っていきたいと思います。

イベント協力
(公社)静岡県茶業会議所
徳川慶喜公屋敷跡・浮月楼
HONEインターン/森
ほねろぐとは
AIの急速な台頭により、私たちの世界は、目紛しい変化を遂げています。効率化が進むその影で、古きよき日本の文化や風景、人との繋がりが失われつつあるのも、悲しい現実です。
そんな時代だからこそ、我々株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録します。
いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。
町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。
忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。
気づけば、地方が近くなる。
現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。
HONEについて

HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。
大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。
学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。
自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。
誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。


.png)
.png)
