一輪の花が、日常になるまで。「花のあるくらし」を広げるということ。_花のあるくらし研究所【静岡県静岡市】
公開日:
2026年10月8日
最終更新日:
2026年10月8日
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花を買うのは、誕生日や記念日、誰かに贈り物をするとき。日常的に花を飾る習慣がない人にとって、祝い事やきっかけがなければ、花屋は少し遠い存在かもしれません。
静岡市にある「花のあるくらし研究所」は、花を販売するだけでなく、普段は花を買わない人にも楽しさを知ってもらい、「花のあるくらし」を広げることを目指しています。
街中で花を配ったり、手に取りやすい商品を考えたり。その取り組みを追っていくと、花をくらしに根づかせるためには、届け方だけでなく、自分たちのあり方まで考える必要があることが見えてきました。
今回は所長の中村将史さんに、花との出会いから現在の取り組み、そして「花のあるくらし」を広げるために考えていることを伺いました。

偶然出会った花と20年

中村さんと花との出会いは、意外にも学生時代のアルバイトでした。大学生の頃、居酒屋をはじめ様々なアルバイトを経験するなかで、生活を少し変えたいと思い、たまたま見つけた花屋の求人に応募されたそうです。
最初から花に強い思い入れがあったわけではなく、「花屋で働いていたらモテるかも」くらいの気持ちだったそうです。しかし、働くうちに花の仕事にのめり込み、大学を辞めて花の道を選びました。
とはいえ、すぐに花束をつくらせてもらえたわけではなかったと、中村さんは言います。最初の約2年間は花にほとんど触れず、掃除や店頭に並ぶ花の手入れをしながら仕事を覚えていきました。
傷んだ部分を取り除き、毎日のように花の状態を見る。繰り返すうちに、どこが傷んでいるのか、どんな状態なら店頭に出せるのかが少しずつわ かるようになり、制作も任されるようになっていったそうです。

アルバイトから始まった花の仕事は、その後20年以上続いていきました。そしてコロナ禍に独立を考えたとき、中村さんは改めて「自分は花を通して何をしたいのか」と向き合うことになったと話します。
「花のあるくらし」を研究する
中村さんが独立を考えていた頃、業界では家庭に花を飾る人が減っていました。ただ、お客さんと接するなかで感じていたのは、花に興味がないから買わない人ばかりではないということでした。

特に若い世代には、花を飾ってみたいと思っていても、飾り方がわからなかったり、始めるきっかけがなかったりする人もいます。そこで中村さんは、「花のプロとして、花を飾りたい人たちと花をつなぐ役割を担いたい」と考えるようになったそうです。
そんな想いから生まれたのが、「花のあるくらし研究所」です。目指したのは、花を販売して終わるのではなく、その先にある「花のあるくらし」を広げること。一度手に取ってもらうだけでなく、日々の習慣として楽しんでもらいながら、事業として続けていくことまで考えられています。

その考えを形にした取り組みの一つが、定期的に花を楽しめるサブスクリプションサービスです。このサービスは、550円で売られているミニブーケを1日1回、月に何度でも受け取ることができ、普段あまり花を買わない人でも、くらしに取り入れやすい入口がつくられています。
一度花を買って終わるのではなく、定期的に花を受け取ることで、花を飾ることが少しずつ日常になっていく。サブスクリプションという仕組みにも、「花のあるくらし」を習慣にしてほしいという考えが表れています。
約20年前、中村さん自身も、たまたま見つけた求人をきっかけに花と出会いました。今は花屋として、誰かのくらしに花が入るきっかけをつくる側になっています。そして、そのきっかけは店の中だけに留まりません。
店の外にも、花と出会うきっかけを

花のあるくらし研究所が、これまで行ってきた取り組みの一つに、まちなかで花を無料で配る「花、だれに渡そう」という企画があります。きっかけは、「花を飾ったり、誰かにプレゼントしたりする楽しさを、もっと知ってもらいたい」という中村さんの想いでした。
▼「花、だれに渡そう」の様子はこちら
https://www.instagram.com/reel/DWaMshWkyBT/

花の魅力を言葉で説明するよりも、まず実際に手に取ってもらう。受け取る人だけでなく、企画するスタッフ自身も楽しめるものにしたいと考え、少しゲリラ的な形で始めたそうです。
中村さんが当時を振り返って印象に残っているのは、花を手にしたお客さんと同じくらい、スタッフが楽しんでいたことだと話します。
イベントを企画しても、参加への温度感はスタッフによって異なります。しかし、この企画では多くのスタッフが自然と参加し、花を配る時間そのものを楽しんでくれたそうです。自分が届けたいと思っていた花の楽しさを、まず身近なスタッフが感じてくれた。それが嬉し かったと中村さんは言います。

さらに企画後には、花を受け取った人がSNSに写真を投稿するようになり、しばらくすると企業から「自分たちの会社でもやってほしい」と声がかかりました。その後は、行政との取り組みにも活動が広がっています。
企業や行政との連携まで、最初から計画していたわけではありません。自分たちが面白いと思う方法で花に触れる機会をつくった結果、その体験を別の場所でもやりたいという声が生まれ、活動する場所が少しずつ増えていきました。
普段から花屋へ足を運ぶ人だけを待っていては、花を買う習慣のない人とはなかなか出会えません。だからこそ、自分たちから店の外へ出て、まず一輪を手にしてもらう。
花のあるくらし研究所にとって、日々行われている企画は、商品を知ってもらうためだけのものではなく、「花っていいかもしれない」と感じてもらう入口にもなっています。
「広げる」と「続ける」を両立させる
花のあるくらしを広げようとすると、商売として考えなければならないことも増えていきます。日頃から花を買い、その価値をよく知っているお客さんには、珍しい品種や価格の高い商品も選んでもらいやすくなります。花屋を経営していくうえで、そうしたお客さんはもちろん大切な存在です。
ただ、「花のあるくらしを広げる」というコンセプトまで考えると、まだ花を買う習慣がない人との接点も欠かせません。

数千円の花束を買うことには迷っても、手に取りやすい価格なら一度試してみようと思える かもしれない。何を選べばいいかわからなくても、店側から季節の花を提案してもらえれば、最初の一歩は踏み出しやすくなります。
花に詳しいお客さんにより高い価値を届けることと、まだ花に馴染みのない人に入り口をつくること。中村さんは、その両方をどう成り立たせていくのかについても、研究していると教えてくれました。
「花のあるくらしを広げたい」と掲げるだけなら簡単です。しかし、本当に広げ続けるためには、その活動を支える事業も続けていかなければなりません。理念と商売を別々に考えるのではなく、届けたいものを守るために、どう商売として成立させるのか。
「研究所」という名前には、花の楽しみ方だけでなく、理想を継続できる形にしていく試行錯誤まで含まれているように感じます。
花が、くらしの「きっかけ」になる
ここまで「花のあるくらし」を広げるための取り組みを聞いてきましたが、そもそも花を買わない人は、花屋で何を選べばいいのでしょうか。店内には、色も形も価格も異なる花が並んでいます。花に詳しくなければ、どれを選べばいいのか迷ってしまいます。

でも、最初から特別な知識が必要なわけではありません。好きな色や見た目で選んでもいいし、店員さんに相談してもいい。花束ではなく、気になった一輪から始めることもできます。
そこで、普段は花を飾らない私も、実際に花のあるくらしを初めてみることにしました。
選んだのは、5つの蕾がついた一輪のユリです。花瓶すら持っていなかったため、使っていない水筒に挿すところから始まりました。
切り花は、飾れば終わりではありません。茎の先端を切って水につけ、数日ごとに水を替える。その際に再び茎を切り、新しい切り口をつくることで、水を吸いやすい状態を保ちます。
中村さんたちに教えてもらったのは、こうした花の手入れを、く らしの別の習慣と結びつけるという考え方でした。水を替えるついでに、近くにあるゴミを捨てる。花を飾る場所を整えるついでに、テーブルも拭く。
「部屋がきれいになったら花を飾ろう」ではなく、先に花を置いてみる。人を家に呼ぶ予定ができると部屋を片付けるように、花を迎えることが、くらしを整える理由になるかもしれません。
では、実際に花を置いたら部屋はきれいになるのでしょうか。結論から言えば、ユリを飾った途端、劇的に変わることはありませんでした。ただ、私の場合は、花が咲き終わってから汚部屋に変化が現れました。

床に落ちた花びらを拾い、枯れた部分を片付けていると、その周りにあるものまで気になり始めました。花を片付けていたはずが、いつの間にか部屋も少し整っていました。花を見て心が豊かになり、掃除をしたみたいな、出来すぎた綺麗な話ではありません。
花びらが落ちたから拾い、そのついでに近くにあったゴミも片付ける。一輪の花がくらしに入ったことで、それまでなかった小さな行動が生まれ、その先の行動にもつながっていきました。
花がくらしを変えるとしたら、こうした小さな「きっかけ」からなのかもしれません。
一輪から始まる、花のあるくらし
取材前、「花のあるくらし研究所」という名前を見て、なぜ花屋が「研究所」なのだろうと思っていました。ただ、お話を聞いていくと、研究しているのは花そのものだけではありませんでした。

普段花を買わない人との接点をつくること。手に取った一輪を、一度きりではなく日々の習慣につなげること。その取り組みを事業として続け、店舗が増えても花研らしさを届けられ る組織をつくること。
花のあるくらしを広げようとすると、考えることは店の外、そして組織の内側にも広がっていきます。中村さんも、学生時代にたまたま見つけた求人をきっかけに花の世界へ入りました。それから約20年。今度は花屋として、誰かが花と出会い、くらしに取り入れていくきっかけをつくっています。
取材前の僕にとって、花は「飾るもの」でした。でも実際に一輪を持ち帰ってみると、花を飾ることだけでなく、その前後にいくつもの行動が生まれることに気づきました。
花を選ぶ。持ち帰る。飾る。水を替える。枯れた花を片付ける。その一つひとつが、少しずつ日常に入っていく。
「花のあるくらし」を広げるというのは、花をたくさん売ることだけではなく、こうした小さなきっかけを増やしていくことなのかもしれません。
僕のユリは、もう枯れてしまいました。でも、一輪の花から始まった小さな変化は、少しだけくらしの中に残っています。
花のあるくらし研究所

静岡市葵区を拠点に、「お花を飾る楽しさをより多くの人に伝えたい」という想いから生まれた花屋。通称「花研」。季節の花束やアレンジメントの販売、お花の定期便、ブライダル・空間装花などを手がけています。記念日だけでなく、花を日常の習慣として楽しむ「花のあるくらし」を広げることを目指しています。
本店(上足洗)〒420-0841 静岡県静岡市葵区上足洗4丁目6-1 ひまわりハイツ102号営業時間:10:00〜19:00定休日:日曜・月曜電話:054-395-6803
人宿町店|2026年10月1日オープン 静岡県静岡市葵区人宿町営業時間:11:00〜19:00(予定)定休日:月曜・火曜(予定)

HONEインターン/森
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