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金沢駅東広場の「やかん体、転倒する。」が愛される3つの理由とは。【石川県金沢市】

公開日:

2026年11月2日

最終更新日:

2026年11月2日

金沢駅東広場の「やかん体、転倒する。」が愛される3つの理由とは。【石川県金沢市】

金沢駅周辺で行き先に迷っていたとき、Googleマップで偶然見つけたのが、『「やかん体、転倒する。」三枝一将』でした。Googleマップには181件のクチコミがあり、評価は4.1でした(2026年10月29日時点)。どんなものなのか気になって、行ってみることにしました。



金沢駅東広場で出会った、倒れたやかん


駅の東口を出ると、高さ13.7mの鼓門が目に入ります。金沢の伝統芸能・加賀宝生の鼓をイメージしたそうです(金沢駅の掲示物より)。


鼓門
鼓門

そんな駅前に、倒れたやかんがありました。大きなやかんが倒れていました。そばにはフタが置かれています。やかんにしか見えないのに、なぜか駅前で転倒していて、「わかるけれど、わからない」というのが、最初の感想でした。


「やかん体、転倒する。」三枝一将
「やかん体、転倒する。」三枝一将

説明書きを探して周りを一周してみると、書いてあったのは「金沢・まちなか彫刻作品・国際コンペティション2006最優秀賞」だけです。


金沢・まちなか彫刻作品・国際コンペティション2006最優秀賞「やかん体、転倒する。」三枝一将
この看板の他に案内は無し

なぜこのような作品が、駅前に存在しているのでしょうか。その答えは、金沢のまちの歴史にありました。



伝統工芸と現代アートが共存するまち、金沢


金沢は、加賀藩前田家のもとで、伝統工芸が育まれたまちです。前田家は藩主の威信を高めるために、美術品の収集や職人の育成に力を入れました。その技は、金沢箔や金沢漆器などとして今も受け継がれています。


日本の箔は金沢で作られている
日本の箔は金沢で作られている(箔のこと|箔座株式会社より)

一方で、2004年には「新しい文化の創造」と「新たなまちの賑わいの創出」を目的に、金沢21世紀美術館が開館しました。2005年には、金沢駅東広場も完成しています。この2つを記念して、金沢市がまちなかに置くパブリックアートを募集したのが、「金沢・まちなか彫刻作品・国際コンペティション」です。2004年と2006年の2回開かれ、2006年の最優秀賞に選ばれたのが、「やかん体、転倒する。」でした。


伝統工芸を育てたまちが、現代アートの美術館もつくった。私が見た金沢の芸術は、どちらも「まちを守り、さらに繁栄させようとする」点でつながっているように感じました。



やかんが注目される3つの理由


181件ものクチコミは、それだけ多くの人が、この場所で足を止めて感想を残したということです。ここでは自分なりに親しまれる理由を3つ考えてみました。


1つ目は、容易に出会えることです。「やかん体、転倒する。」は、金沢駅の東口を出てすぐのところにあり、マップを使わなくても迷わず見つけることができました。


2つ目は、一度見たら忘れにくいことです。やかんの形をしているのに、駅前で大きく倒れていて、そばにはフタも置いてあります。この「ありそうでない」姿が強く印象に残りました。ただ、私が今までそうだったように、知らなければ通り過ぎてしまうかもしれません。知らなければ見過ごしてしまうものが、存在や由来を知ったとたんに、行ってみたい場所に変わることがあります。知っている人だけが、作品の面白さに気づき、秘密を共有するような感覚も人を惹きつけているのかもしれません。


3つ目は、人によって様々な楽しみ方があることです。行く前にクチコミを読むと、地元金沢の方と観光客との見方の違いがわかってきました。金沢の人は、やかんを待ち合わせの目印にしているようです。東京で言えば、渋谷のハチ公前のような存在でしょうか。一方、観光客は「なぜやかん?」「隠れた名所」「転倒するというより埋もれている」など、それぞれ感じたことを書いています。ところが私の訪れた日は雨で、待ち合わせをする人も写真を撮る人も見かけませんでした。日照率が低く、雨が多いのも金沢の特徴です。「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるほどです。クチコミのなかには、「雨天時の待ち合わせに屋根があると良いですね。」という声もありました。雨の日でも、ここで待ち合わせをしたい人がいるのかもしれません。


金沢・輪島・東京の日照時間(気象庁)
金沢・輪島・東京の日照時間(気象庁)

同じ作品でも、誰が、どんな場面で出会うかによって、受け取り方が変わります。だからこそ、クチコミで話題になるのだと思います。



駅から美術館まで、作品でつながるアートストリート


やかんなどコンペの作品は、金沢駅東広場と金沢21世紀美術館を結ぶメインストリート沿いに置くパブリックアートとして募集されたものです。駅から美術館へ向かう道中で、「やかん体、転倒する。」をはじめとするさまざまな作品に出会うことができます。


マップ
Googleマップを筆者が編集

その終点にあるのが、金沢21世紀美術館です。美術館内で完結せず、駅を降りたところからアートが感じられ、訪れた人の心は自然と美術館へ向かいます。


金沢21世紀美術館
金沢21世紀美術館(ホームページより)

金沢は、伝統工芸を受け継ぎ、新しい文化のために美術館をつくり、作品でまちをつなぎました。こうした積み重ねが、「アートのまち」という言葉に説得力を持たせているのだと思います。



おわりに


「やかん体、転倒する。」は、地元の人にとっては日常の待ち合わせ場所で、観光客にとっては面白い観光スポットでした。同じものでも、誰が、どんな場面で出会うかによって、見方が変わります。


私の地元・静岡には、静岡駅の南口に、組み立て前のプラモデルの部品を模した「プラモニュメント」があります。静岡市は、プラモデルの国内製造品出荷額の8割以上を占め、「模型の世界首都」とも呼ばれています。下の写真は、「No.011自販機&ベンチプラモニュメント」です。高校生がベンチで休む姿や、会社員の方が飲み物を買う様子をよく見ます。一方で、観光客が写真を撮り、近くにある駿河屋でプラモデルを購入していくときもあります。



けれど、静岡市が持つプラモデルの背景を知らなければ、ただの大きなオブジェとして通り過ぎてしまうかもしれません。


金沢のやかんも、静岡のプラモニュメントも、地域の特色を、人が足を止める形にしたものです。そして、その価値は、知る人、訪れる人によって、さまざまに変わります。

みなさんの地域にも、見慣れた景色が、誰かにとっての「わざわざ行きたい場所」になっていることはありませんか。身近にあるものを少し違った視点から見てみてはいかがでしょうか。新しい発見があるかもしれません。



参考情報:

戦国時代〜江戸時代/金沢市公式ホームページ いいね金沢

加賀藩と前田家の文化政策 検索詳細 | 地域観光資源の多言語解説文データベース

金沢の伝統工芸紹介 | 金沢伝統工芸ネット

コンセプト | 美術館について | 金沢21世紀美術館

金沢・まちなか彫刻「走れ!」 : 風の旅人

金沢市街はパブリックアートの宝庫!あなたはいくつ見たことがありますか? - GajaLife



HONEインターン/石井



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