【アトツギ甲子園プレピッチ壁打ち会】伝統と革新が交差する。静岡のアトツギたちが描く「家業の未来」
- 森勇人

- 1月24日
- 読了時間: 9分

2026年1月20日、静岡市コ・クリエーションスペース(コクリ)にて「アトツギ甲子園プレピッチ壁打ち会」が開催されました 。来週1月26日に控えた関東ブロック大会に向け、静岡を代表する若き後継者たちが、自らの家業に新たな命を吹き込むビジネスアイデアを携えて集結しました 。
会場を包んでいたのは、単なるプレゼンの練習という枠を超えた、圧倒的な熱量と覚悟です。日本の伝統を守りつつ、それを現代の形へとアップデートしようともがくアトツギたちの姿から見えた、「変えるべきもの」と「守り抜くべきもの」をレポートします。
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目次
地方大会登壇者による実戦ピッチ
未来のチャレンジャーたちの萌芽
アトツギの声に気づかされた、私たちの日常
ゲストセッション:側島製罐 石川さん×桜井が語る「信頼と覚悟」
「ルールを捨て、善意を信じる」組織論
桜井との対話から見える「アトツギの挑戦」
審査員による魂のフィードバック
継承と一新の狭間で

現在、日本の事業承継は「2025年問題」という大きな壁に直面しています 。中小企業経営者の高齢化が進み、経営者の64%が70歳を超えるなど、深刻な社会問題となっています 。後継者不在による廃業リスクを抱える企業は127万社にものぼると言われ、黒字であっても貴重な技術や地域経済が失われるリスクにさらされています 。
今回登壇したアトツギたちは、こうした側面を一身に引き受けながらも、家業が持つ有形無形の経営資源をベースに、リスクや障壁に立ち向かい新規事業に挑戦する「ベンチャー型事業承継」を体現していました 。アトツギの皆さんが活用するのは、長年培ってきた「ニッチな技術・ノウハウ」、アイデアを形にするための「実装現場・アセット」、そして「強固な経営基盤」です 。
伝統を守ることと変化させることは相反するものではなく、「変化し続けることこそが、伝統を未来へ繋ぐ唯一の手段である」という強い意志が、どのピッチからも溢れていました。
静岡の躍進。アトツギたちの熱狂

今回のプレピッチ会は、第6回「アトツギ甲子園」関東ブロック大会への出場権を手にした4名を筆頭に、次世代のチャレンジャーたちが、実戦さながらのピッチ(発表4分・質疑6分)を行う極めてタイトな形式で進められました 。
特筆すべきは、静岡県勢の勢いです。関東ブロック大会出場者15名のうち、実に4名が静岡県のアトツギであり、2年連続で地域別最多の出場数を記録しています 。この数字は、静岡にアトツギが挑戦する文化が根付いていることの裏付けでもあります。
地方大会登壇者による実戦ピッチ

すでに地方大会を勝ち抜いた4名は、それぞれの業界が抱える課題を解決するプランを披露しました。
伝統と祈りの継承(有限会社稲垣塗装所 稲垣亘佑さん)
仏壇離れが進み、日本人の祈りの文化が失われつつある現状に立ち向かいます 。そんな仏壇を手のひらサイズにリメイクすることを提案。
お墓問題への新提案(有限会社アルゴダンザ・ジャパン 市川岳さん)
死生観の変化に伴う墓じまいなどの課題に対し、遺骨をダイヤモンドに変える“ダイヤになる終活”で新たな形を提示。
建設業の人材革命(株式会社天竜組 山田桃江さん)
「3K」のイメージを「新3C」へとアップデートし、女性アトツギの視点から現場をチームで支え合う仕組みを構築。
町工場×フィットネス(杉村精工株式会社 杉村岳さん)
製造業の魅力を広めるため、自社の加工技術を活かした「鉄下駄」での運動習慣化を提唱し、労働災害防止と健康増進を掛け合わせて提案。
未来のチャレンジャーたちの萌芽

さらに、次期大会以降のエントリーを見据えた4名のアトツギも、それぞれの家業の強みを活かしたアイデアを発表しました。
多々良大吾さん(タタラ商店株式会社)
農業の全工程を近所で体験できるサービスを通じ、子供たちの「原体験」作りと市街地にある耕作放棄地の利活用を目指す。
寺田いくみさん(有限会社寺田シート店)
トラック用シートなどの「端切れ」を活用し、防水性・耐久性に優れたアップサイクル小物を制作。かつて曾祖父が和紙で傘を作っていた歴史をなぞり、傘への展開も。
田中彰さん(有限会社ハギワラ)
地域の金物屋同士の信頼関係をネットワーク化し、職人が全国どこでも「掛け(信頼取引)」できるプラットフォーム構想を提案。
長澤玲奈さん(長澤瓦商店株式会社)
鬼瓦職人としての造形技術を活かし、瓦の吸水性を利用したアロマストーンなどの「瓦小物ブランド」を展開。瓦を身近な存在に変え、本業の瓦工事へと繋げている。
アトツギの声に気づかされた、私たちの日常

アトツギの皆さんの話を聞きながら、ふと自分自身の生活を振り返ってみました。
確かに最近、街を歩いていても瓦屋根の家を見かける機会は随分と少なくなったように感じます。そして私自身の家を思い返してみても、仏壇は備えられていません。生活する中で、全く意識していませんでしたが、「祈りの文化を守る」「瓦の良さを知ってほしい」という熱いピッチに触れ、自分の暮らしの中から「祈る」という行為や、それを取り囲んでいた伝統的な景色が静かに消えつつあることに、改めて気づかされました。
アトツギが必死に守ろうとしているのは、単なる「古いもの」ではなく、私たちが忘れかけている「心豊かな時間」なのかもしれません。
ゲストセッション:側島製罐 石川さん×桜井が語る「信頼と覚悟」
採点集計中には、側島製罐の石川貴也さんと弊社代表の桜井によるトークセッションが行われました。

石川貴也さん
創業100年を超える老舗缶メーカー、側島製罐の代表取締役。
事業承継を契機に指示命令、決裁、マネジメントなどをすべて廃止し、給与と役割を社員が自分で決める「自己申告型報酬制度」を導入するなど、人間の魅力や生きがいが発揮されるような自律分散型の組織づくりを進め、新しい時代の中小企業の在り方に挑戦しています。
「ルールを捨て、善意を信じる」組織論

石川さんは、創業100年を超える老舗企業の6代目として入社後、売上減に苦しむ中で断行した「自律分散型組織」への変革について語りました 。 「経営者がまず社員を信頼しなければ、信頼は返ってこない」という信念のもと、指示命令や決裁、マネジメントをすべて廃止 。当初は反発から一部の社員が去る苦難を経験しながらも、結果として「自分で考え、自分で動く」組織を作り上げ、参加者の胸を打ちました 。
桜井との対話から見える「アトツギの挑戦」

セッションでは、地方企業のブランディングや新規事業開発を支援する桜井と、現場で改革を続ける石川さんが、事業承継後の組織づくりや地方の発信について、深く語り合いました 。
石川さんが強調したのは、「正しいことをやっていれば、結果は必ずついてくる」という強い信念です。目標数値に縛られるのではなく、目の前にある課題を一つひとつ片付けていった結果が今に繋がっているという話は、経営の本質を見つめ直す貴重な機会となりました。
また、桜井からはマーケティングの重要性についても触れられました。どれほど素晴らしい技術や思いがあっても、それが正しく伝わらなければ価値は生まれません。「地方に骨のあるマーケティングを実装する」というミッションを掲げる桜井の視点は、アトツギたちが自らの事業を「誰に、何を、どう届けるか」を再考する大きなヒントとなったはずです 。
審査員による魂のフィードバック

今回のイベントで特筆すべきは、審査員陣による妥協のない、それでいて愛に溢れたフィードバックです。
伊達善隆さん(株式会社鳥善): 老舗料亭の6代目として「創業150年のベンチャー企業」を掲げる視点から、伝統産業におけるイノベーションの重要性を説きました 。
小松元気さん(株式会社カネス製茶): アトツギ甲子園静岡県アンバサダーとして、プレゼンの「言葉の抑揚」や「エビデンスの説得力」など、全国大会で勝ち抜くための実践的な助言を贈りました 。
井出雄大さん(株式会社静岡銀行): 地方創生の立場から、地域に挑戦者が溢れるエコシステム構築の重要性を語り、金融・ネットワークの両面からの支援を約束しました 。
先輩アトツギや支援者からのアドバイスは、単なるスキルの指摘にとどまりません。「自分を信じること」「静岡から必ず優勝者を出すという執念を持つこと」といった、メンタル面でのエールが登壇者たちの背中を強く押しました。
静岡から「アトツギ」の新しい波を

今回のプレピッチ会を終え、本日の1位には仏壇リメイクを提案した稲垣亘佑さんが選ばれました 。しかし、順位以上に印象的だったのは、イベント終了後のネットワーキングで、登壇者同士が互いのピッチについて熱心に議論し、改善案を出し合っていた光景です。
アトツギたちは孤独になりがちです。しかし、この「壁打ち会」のような場があることで、ライバルでありながら同志としての繋がりが生まれます。既存の資源を「枯れたもの」と見なさず、新しい解釈で価値を再定義する。この思考は、停滞する日本経済、そして地方の生き残り戦略における最も強力な武器になるでしょう。
来週1月26日、東京の舞台に立つ4名のアトツギたちが、静岡の風を巻き起こしてくれることを確信しています。 静岡から、日本の未来を切り拓く。 アトツギたちの挑戦は、まだ始まったばかりです。
今後のスケジュール
関東ブロック大会:2026年1月26日(月) 13:00-18:00(TODA HALL & CONFERENCE TOKYO)
決勝大会(FINAL):2026年2月27日(金)(大手町三井ホール)
皆様もぜひ、オンラインや現地でアトツギたちの勇姿を応援してください!
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インターン / マーケター見習い 森勇人
静岡生まれ、静岡育ち。 大学3年次、1年の休学をして全国36都府県を巡る。山形県西川町では3ヶ月の地域おこし協力隊インターンを経験。 復学後、ご縁があり株式会社HONEにてインターン/マーケター見習いとして奮闘中。








