アトツギ甲子園ピッチとスタートアップピッチの違いとは? - 評価軸と配点を軸に考察 -
- 桜井 貴斗
- 20 時間前
- 読了時間: 13分

1/16にアトツギ甲子園(中四国大会)、静岡のプレピッチ大会を傍聴していて、後継者向けピッチ(アトツギ甲子園)と、スタートアップの投資家向けピッチは前提が異なるなぁと感じました。
前提とは何か?というと、前者(アトツギ甲子園)は「家業の経営資源×新規事業」という前提があり、後者(スタートアップ)は「限られた資源で非連続に伸びる勝ち筋」を示すことが求められていると認識しています。だからこそ、話す内容がズレると「良いことを言っているのに刺さらない」状態が起きてきます。
この記事では、2つを感覚論ではなく、公開されている審査基準や過去のVC/アクセラレーターのコメントや記事を手がかりにどんな違いがあるのかを整理しました。ぜひ最後までお読みいただけたら嬉しいです。
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目次
アトツギ甲子園とはなにか
アトツギ甲子園の審査基準
【資本】の違い
【制約】の違い
【期待値】の違い
アトツギの場合
スタートアップ起業家の場合
ピッチは目的到達のための「手段」
ピッチとはそもそもなんなのか?というところから私見をお話させていただくと、ピッチとは単なるプレゼンの上手さを競うものではなく、ピッチをする相手の意思決定(例えば投資、支援、採択、紹介、次の面談など)を前に進めるための手法だと思っています。
そのため、意思決定の条件が違えば当然評価ポイントも変わります。また金融機関・補助金・自治体・事業会社・VC…と相手が変われば、同じ事業でも「刺さる切り口」は変わって来るはずです。
そのため、
自分はピッチでどんな目的を到達したいのか
相手にどんなアクションを起こして欲しいのか
そのためにピッチはどんな手段として位置付けているのか
を整理した上で臨むのが良いと思っています。

アトツギ甲子園は「5つの評価項目」
アトツギ甲子園の評価項目を説明するにあたり、まずはアトツギ甲子園とはなにか?から説明していきます。
アトツギ甲子園とは
アトツギ甲子園とは、中小企業庁が主催する、39歳以下の後継者(アトツギ)向けのピッチコンテストで、既存の経営資源を活かした新規事業アイデアを競い合います。
後継者の経営能力向上や早期の事業承継を促進するため、全国から集まった後継者がプレゼンテーションを行い、事業化を目指すものです。
※アトツギ甲子園ホームページより抜粋

アトツギ甲子園の審査基準
アトツギ甲子園の応募書類には、審査基準として5つの評価項目が明記されています。

①新規性、②持続可能性、③社会性、④承継予定の会社の経営資源活用、⑤熱量・ストーリー、の5つです。
通常のピッチと異なるのは「熱量・ストーリー」が評価項目として公式に設定されています。
またもう1つ特徴となっているのが「④経営資源活用」です。スタートアップなどの多くの起業家はゼロから資源を集めますが、事業承継者(アトツギ)は家業の有形無形の資源(技術、設備、顧客基盤、信用、人材、地域ネットワーク等)をどう活用にするかが問われます。
言い換えると、アトツギのピッチは「資源の棚卸し」「資源を勝ち筋に変換する設計」を求められているとも言えます。
さらにアトツギ甲子園の応募書類の記載項目には、「なぜ自分が家業を継ぐのか」「自分でなければならない理由」などが求められているようにも感じられるため、場合によっては綺麗事だけでなく、泥臭い悩みや現状を発信する余地があると思います。
とはいえ持続可能性や経営資源の活用といった事業面で審査する旨も明記されており、ストーリーだけでは評価が完結しないことも読み取れます。
スタートアップの投資家向けピッチで大切なのは「投資判断の材料集め」
投資家向けピッチの型は多様ですが、ベーシックなのは投資家に向けて「投資判断に必要な材料が揃っているか」ということです。
Sequoia Capitalでは投資家向けピッチの基本構成を以下の通り定義しています。

Company purpose(何者か)
Problem(顧客の痛み)
Solution(解き方)
Why now(なぜ今か)
Market(市場)
Competition(競争と勝つ計画)
Business model(どう伸びて儲けるか)
Team(どんなチームで勝つか)
Financials(財務状況)
Vision(5年後)
という流れで構成されています。
ここで重要なのは、独自性(Solution)を語るだけでなく、Why now(なぜ今か)やCompetition(代替や競合と勝つ計画)、Business model、Teamまでセットで問われる点です。独自性がどんなに強くても、「なぜ今なのか」「どう勝ち続けるのか」が弱いと投資判断になりづらい側面もあります。
またSeed(初期)では、エグゼクティブサマリーに「vision、product、team、traction(採用や売上などの勢い)、market size、最低限のfinancials」などを入れるべきだ、という整理も一般的です。
投資家が見ているのは、熱量より(熱量はある前提)、「このチームに資本を入れたら、次の資金調達できる状態まで到達できそうか」という確度だと思います。

両者の「資本」「制約」「期待値」の違い
もう少し別の角度から考えてみます。
事業承継者(アトツギ)とスタートアップ起業家との違いは「資本」「制約」「期待値」ではないかと思っています。
【資本】の違い
資本の性質が違うアトツギは「家業をどう変えるか」が中心課題になりやすい
既存の経営資源をどう活かし、持続的に伸ばすかが重要
VCはリスク資本で、極端に言えば「勝てる確率は低いが当たれば大きい方」に賭ける
よって「非連続な成長の勝ち筋」や「市場の大きさ」「タイミング」を強く問う
【制約】の違い
事業承継者(アトツギ)は、社員・取引先・地域・先代など、関係者が多い状態で変革を進めることが多い
よって「守りながら攻める」スタイルになりやすい
一方スタートアップは、最初の制約が少ない代わりに、信用・顧客・実績がない
だからこそ、狭いターゲットでPMFを目指し、再現性ある成長に伸ばす説明が必要となる
【期待値】の違い
事業承継者(アトツギ)は、後継者としての必然性(なぜ自分がやるのか)が求められる
スタートアップは段階が進むほど、トラクションやリピート販売、ユニットエコノミクスなど、外部から観測可能な指標を求められる
数字の話が曖昧になると議論が空中戦になったり、逆に細かすぎると数字だけでビジョンが見えないこともある

アトツギが「ターゲットが狭められない」理由
事業承継者(アトツギ)のピッチでよく指摘されるのは「誰がターゲットなのか」「誰に売りたいのか」と言う点です。なぜこの指摘が多いのかを私自身も考えてみたのですが、背景としてはステークホルダーの多さだと思っています。
歴史があるため親族をはじめ、ブランドに携わっている人の規模がスタートアップと比較して圧倒的に多いことがあります。そのため、いろんな指摘やアドバイス、また理屈なしに「そう決まっていること」があります。理屈だけではないんです。
しかし、それをピッチで表現してしまうと上記のようにターゲットが不明瞭な説明となってしまうため、以下を整理できると良いと思います。
顧客:お金を払ってくれる相手(購買者/決裁者)
利用者:実際に使ってくれる人(生活者)
事業実行上のステークホルダー:社内(先代/社員)、社外(取引先/地域/行政/金融機関)など

ピッチでは、まず顧客と利用者の解像度を上げて明確にまとめてみる。
ステークホルダーは「実行計画(どう実現するか)」のパートで、合意形成の設計として説明をする。こうすると、ターゲット(顧客)を設定していることが伝わるはずです。
例:アトツギとスタートアップが同じアイデアを事業化した場合
ここまで事業承継者(アトツギ)とスタートアップの違い、置かれている背景、評価基準などについて説明をしてきました。
ここで、アトツギとスタートアップ起業家が実際に同じアイデアを持っていた際にどんなアウトプットの違いが出るか?について架空の例を用いて解説をしていきたいと思います。
例えば家業が「金属加工(高精度の微細加工が強み)」で、新規事業アイデアが「医療機器向けの部品を、短納期の試作から量産まで一気通貫で受ける」だとします。
アトツギの場合
先代が積み上げた加工ノウハウと設備が武器
既存取引の景気変動という課題をずっと抱えている
自分が継ぐ理由(現場経験、顧客に言われた悔しさ、変えたい未来)
経営資源を活かし、医療という社会性の高い領域に展開し、持続的な収益を作る設計に

スタートアップ起業家の場合
Problem:医療機器開発では試作のリードタイムが長く、開発速度が落ちる
Solution:特定の工程を標準化し、短納期で再現性のある加工を提供
Why now:規制対応のデジタル化、材料/加工の進歩、サプライチェーン再編など
Market/Competition:市場規模の可能性、競合優位性のある強み(独自性)
Traction:PoCや量産案件の継続率、決裁者の声、パイプラインの確保

以上のように、「同じ実態」「同じアイデア」でも、アトツギは資源活用とストーリーに重きを置き、スタートアップはWhy now(なぜ今やるのか)と勝ち筋(なぜ勝てるのか)に重きを置いているという結果になるのではないかと思います。
まとめ:違いを理解し良いところを吸収する
ここまでの長文をお読みいただき、誠にありがとうございました。
記事を通して伝えたかったことは、事業承継でも起業でも、それぞれに得手不得手があるため、良いところを吸収して進めていくのが良いと思っています。
例えば、アトツギの「想い」とスタートアップの「論理」。この両方を行き来できる経営者こそが地域と産業をアップデートできると思っています。

参考:本稿で参照した公開資料
アトツギ甲子園:公式サイト(大会趣旨)
アトツギ甲子園:応募書類要項(審査基準5項目/記載項目の指示)
経済産業省:アトツギ甲子園の位置づけ(後継者育成の狙い等)
Sequoia Capital:投資家向けピッチの基本構成
Andreessen Horowitz:成熟度(ステージ)別に投資家が見たいもの
YC Startup Library:Seedで求められやすい要素(エグゼクティブサマリー)
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【記事を書いた人】

株式会社HONE
代表取締役 桜井貴斗
札幌生まれ、静岡育ち。 大学卒業後、大手求人メディア会社で営業ののち、同社の新規事業の立ち上げに携わる。 2021年独立。クライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営に従事。






