北野唯我氏の『OPENNESS(オープネス) 職場の「空気」が結果を決める』を読んで個人的に心に残ったことをここに書き残しておきたいと思います。
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オープネス(OPENNESS)とはなにか?
本書の中で、オープネスとは「開放性」と訳しています。さらに以下のように定義しています。
「オープネス」とは情報の透明性であり、戦略のクリアさであり、リーダーの自己開示性である。
オープネスを形成する3つの要素
オープネスは具体的には以下の3つ要素で形成されているとしています。
(本書より一部抜粋) ①経営開放性 経営者が社員にどれだけ情報を開示しているか?顔と名前、思想などを現場のメンバーが認知、理解している割合。 ②情報開放性 従業員が自分の仕事を意思決定する上での十分な情報が容易にアクセスできる状態にある割合。 ③自己開示性 従業員が、ありのまま自分の才能を自由に表現しても、他者から意図的な攻撃を受けないと信じている割合。
組織の活性化のためには②と③が重要だと感じていますが、会社の幹はやっぱり①であるため、これがなければならないと思います。
社長がいまどんなことを考えているのか?そもそもなぜ社長は社長になろうと思ったのか?社長個人としてどんなことにチャレンジしていきたいのか?など、従業員としてTOPの開放性はとても必要だと感じています。
(本書より一部抜粋) ・社長の考えをオープンにすることは、最も組織を変革しやすいドライバー(原動力)である。ただし、その際、「社外」に対してオープンにするかは、事業環境による要請が大きく、必須ではない ・経営開放性は、社長から現場への一方的な情報ではなく、「現場→経営」への意見に対して「耳をオープンにしているか」も大きい
組織へのコミットメント力を高めよ
(本書より一部抜粋) そもそも『従業員は何にコミット(約束)しているのか?』を考える必要がある。1つは「事業」、どんなビジネスをするのか。2つめは「場所」、どこで働くのか。3つめは「組織」、どんなチームで働くかである。 VUCA(変動制・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代、つまり変化のスピードが速くなるということは、事業の寿命が短くなるということ。その結果、たとえば事業部Aで働きたくて入った社員も、10年後には事業部A自体がなくなっている、ということがありえる。 経営は「事業」や「場所」だけではなく「組織」へのコミットメントが相対的に重要になった、ということだ。
ゴールデンサークル理論の「WHY→HOW→WHAT」と同じだな、と感じました。
※ゴールデンサークルとは? ゴールデンサークル理論とは「WHY:「なぜ」・HOW:「どうやって」・WHAT:「何を」の3つの内容で構成された考え方です。内側から外側に向かってWHY→HOW→WHATの順番で物事を説明していきます。(流用記事)
数字や理論などの説明も大切ですが、人の心を動かすのは感情であり、直感です。
「WHY」の部分から話をすることで、直感的に共感を呼び起こし、その後の内容が好印象になります。
どんなに魅力的な仕事も時代や個人の志向性の変化よって変わります。インフルエンサーがここまで流行るなんて誰も思いつかなかったと思うし、副業が解禁・トヨタの終身雇用終了宣言など「会社はあなたを最後まで守れません、個人で稼いでくださいね」という会社→個人で勝負する時代になるとは思いませんでした。
ゴールデンサークル理論に話を戻すと「WHY」とはここで言う「なぜその仕事をするのか?なぜその組織に属しているのか?」を明確にし、繋がることではないかと思います。
例えば私なら「誰かの役に立ちたい・役に立てる」ことをベースに「マーケティング・ブランディング・PR領域のスキルアップ」できる場所を探したため、結果的にいまの時流である「Web広告・制作・SNS運用」などのサービスに接続する仕事に従事しています。今後、時流が変わりWebが必要ない(多分、あり得ないけれども)となった時は「誰かの役に立ちたい・役に立てる」という指針の組織の中で別のサービスや事業に携わるかもしれません。
「人材の長期育成」ができている会社はほぼ存在しない
(本書より一部抜粋) 「法令遵守意識」は高い満足度を担保できている唯一の項目、反対に「人材の長期育成」と「待遇面の満足度」は不満に思っている人がきわめて多い。 このデータで示しているのは、そもそも、人材の長期育成ができているな会社はほぼ存在していない!という衝撃の事実だ。ただし正確には、トヨタ自動車や三菱商事など2388社中の9社は満足度が3.5を超えているが、その割合は0.4%と極端に低い数字になっている。このデータをどう解釈すればいいだろうか?
「人材の長期育成」をどう定義するかによっても変わってくると思います。「長期雇用・終身雇用」などの守りの育成なのか、「若年層からの新規事業・PJT参加」などの攻めの育成なのか、ということ。2:6:2の法則から考えると守りの育成が多い気がしないでもないですが、、、。
左ききのエレンの沢村CDがこんなことを言っていたのも思い出しました。
『左ききのエレン』6巻171-172P引用
私も社会人生活が10年を超えているので徐々にわかってくるんです。「上司は何でも知っているわけではない」「上司にもバイアスがあるから全てを鵜呑みにしていてはダメだ」「上司が絶対正しいわけではない」。
つまり上司(=会社・組織の縮図)とすると、上司(会社・組織)は知っていることは教えてくれるが、それ以上はない。あくまで会社・組織にとっては自分は活かされる側であり、守ってくれる・育成してくれるわけではない(もちろん支援はありますが)。だから自分の身は自分で守れるようになっていないといけない、ということです。
このファクトが分かっていないと「会社の長期育成に不満」という言葉が出てくるのだと思います。前提が違います。そもそも会社は自分を長期で育成する気がない、くらいのスタンスでいた方が健全。だからこそ、会社は自分が成長していく上で利用する!くらいの気持ちで日々を過ごしていくべきだと。
長期的に楽しく働いてもらうための12のアクション
長く勤めてもらい、できる限り気持ちよく働いてもらうためには「風通しの良さ」「社員の相互尊重」「20代の成長環境」の3つを高めることが大切としています。そして具体的には以下のをアクション例として挙げています。
【風通しの良さを高める4つのアクション】
情報のシェアや成功事例を他部署に展開するなどの行為を称賛する
何か困ったことがあったら、いつでも相談できる時間や環境を用意しておく
成功例やいい話だけではなく、悪い話や過去の失敗談をリーダーが率先して話す
リーダーが率先し、陽気でご機嫌であり続ける努力をする(上司が楽しそうな組織は風通しが良くなりやすい)
【社員の相互尊重を高める4つのアクション】
メンバーの仕事の能力や成果だけを確認するのではなく、「本人の意思や希望」も確認する機会をもつ
意見の衝突があっとき、まず個人の選択を尊重し、敬意を示した上で、意見を述べる
役職ではなく、名前で呼ぶ文化を醸成する
立場やポジションに関係なく、誰もが自分の意見を主張する機会を定期的に設ける
【20代の成長環境を高める4つのアクション】
既存業務だけではなく、新しいプロジェクトやミッションに挑戦できる機会を定期的に用意する
育成を投資だと考え、本人が能動的に勉強し、成長する機会を会社として応援する
年齢や役職に関係なく、成果や意思に応じて、業務を配分、アサインさせる
定期的にキャリアディベロップメントの面談を行い、中長期のキャリア戦略を設計する
多くの企業を見ていて思うのは、「情報のシェアや成功事例を他部署に展開するなどの行為を称賛する(事業間シナジー)」「立場やポジションに関係なく、誰もが自分の意見を主張する機会を定期的に設ける(フラットな意見交換機会)」「育成を投資だと考え、本人が能動的に勉強し、成長する機会を会社として応援する(成長機会の提供・支援)」あたりはもっと力を入れて取り組んでもいいと思います。
事業間での知見をシェアすることで成長スピードを上がり、役職や経験に左右されないフラットな意見交換機会をつくることで情報や意見の開放性を高まり、自学の機会を積極的に支援することで個人の成長が加速する。「自立した個人」をつくるために必要な要素だと思います。
オープネスを邪魔する3つの罠
オープネスを浸透する上で阻害となる罠が3つある。それが①ダブルバインド②トーション・オブ・ストラテジー③オーバーサクセスシェアの3つ。簡単に3つを解説していきます。(本書より一部抜粋)
①ダブルバインド
直訳すると「二重拘束」。例えば「なんでも相談してほしい」と言いながら、忙しくしている上司の場合、本当に「なんでも相談してほしい」と思っているが、単純に物理的に時間が取れないだけのケースも多い。つまり、悪意なくダブルバインドが起きているのだ。また「隠れている前提」があるケースも存在する。「(キチンと自分なりに調べてきて、それでもわからないときは)なんでも相談してほしい」「(日中は忙しくてすぐには答えられないけれど、夕方以降は空いているので、その時間であれば)なんでも相談してほしい」
②トーション・オブ・ストラテジー
戦略のねじれ。トップから伝えられた戦略・事実がレポートラインにのっとって報告されるうちに、少しずつねじれ、本来の意図とはまったく違う形で現場に下りてくること、を指す。大きな組織になると必ずと言っていいほど「戦略わかったふりおじさん」が現れる。よくわかっていないにもかかわらず、「自分の解釈を加えて解説しようとする人」だ。彼らの多くは優秀であることや高いプライドを持っているため、本当はわからないことがあっても自分の解釈を加えて答えようとする。
③オーバーサクセスシェア
「成功の情報だけ」をたくさんシェアしてしまうこと。これからは組織の第一歩として正しいアクションではあるが、一方で「サクセスシェア(成功事例の共有)」を過度にしすぎると、組織のオープネスは反対に下がってしまう。失敗は負けをシェアせずに、あまりに成功事例のシェアだけを行うと「成功=絶対善」となり、失敗が許されない組織風土が形成されてしまう。東芝の不正会計事件を思い出すとわかりやすいが、その結果、不正の温床になりえるし、簡単に言うと「息が詰まってしまう」のだ。
3つの共通して言えるのは「コミュニケーションエラー」が起因しているのではないか、ということです。
①ダブルバインドでは上司と部下の間で「実態の乖離(相談して欲しい、というもののその場にいない)」や「隠れた前提(キチンと調べた上でならなんでも相談していい)」が生じています。これは事前・事中のコミュニケーションによって解消できると思います。
②トーション・オブ・ストラテジーでは「経営と管理職」がコミュニケーションをとることで、ねじれをなくしていくことが求められます。これが単なる「戦略の理解」だけに留まらず、経営と管理職が目的・ゴールを一致させ、同じ方向を向いていないと、結果ねじれは起きてしまうため、戦略の理解、さらに合意することが必要です。
③オーバーサクセスシェアでは「過度な成功事例の共有=成功が絶対善」となり、不正の温床になるリスクがあるとしています。これも上司・リーダーがメンバーに対して失敗すること、チャレンジすることを承認・奨励して、成功だけしか認めない、というスタンスをコミュニケーションで否定していけば問題ないと思います。
組織運営に行き違い、失敗はつきものだと思いますので、いかにエラーが発生した時にコミュニケーションによって補修していけるかがポイントになると思います。
「情報の開放性」を高める3つの要素
本書では個人的に必要だと感じる「情報の開放性」を高める3つの方向性を示してくれています。
①印象性を高める 戦略に対して、わかりやすく“印象に残る形で”伝わっていると思えること ②アクセス性を高める アクセスしたい情報が、“大きな労力なく”手に入れられること ③質疑性を高める 上司や他の部署に対する質疑が“公開された場”で行えること
私もPJTを進める際に①②は大切だと思っていましたが③の視点は抜けていたため、確かに!と感じました。会社の期初に経営陣・各部署より方針を発表があるけれど、「質疑応答の時間はとれないのでまた後日質問はメールで」という流れはよくあります。でもやっぱりその場で議論することはとても大事だと思います(そもそも後日メールは面倒、そして忘れてしまう)。
本書内にも記載されていますが、TOP・リーダーに「説明責任」があるように、聞くメンバー側にも「質問責任」があると思います。そして公開の場で議論することで透明性・公平性・開放性が保たれ、とても良い機会になります。
凡人をどう扱うか?
北野唯我氏の別の著書に「天才殺す凡人」という本があって、その書の中で人は「天才・秀才・凡人」に分けられる、と定義しています。そしてそれぞれの役割は、以下の通りにセグメントされています。
・「天才」=創造性 ・「秀才」=再現性 ・「凡人」=共感性 ※それぞれに適正のある居場所をつくってあげることが大切
会社が大きくなるにつれて、天才(創造性)は少なくなり、秀才・凡人の割合は大きくなります。なぜなら多くの偉大な企業は仕組みで収益があげているため、仕組みを「こなす人材が」多くなり、創造性は必要がなくなるからです。となると、会社・組織の課題は以下のようになります。
(本書より一部抜粋) ①誰がやっても同じ業務を、いかにして気持ちよくやってもらうか? ②再現性の高い、プロセス業務を改善し続けるための習慣が設計されているか? ③最も付加価値の高い「つくる仕事をやる人物」に適切な報酬と裁量を与えているか?
しかし、会社としてボリュームの多い「①誰がやっても同じ業務を、いかにして気持ちよくやってもらうか?」はセンシティブな課題であると捉えています。(本来は大したことのない仕事を)いかにやりがいと使命感を持って働いてもらうか?と同義の問いだと思うからです。
(本書より一部抜粋) 例えばスターバックスやファーストリテイリングといった企業が連続的に成長できているのは、「創造性が高い人に気持ちよく働いてもらう仕組みがあるから」ではなく、むしろ「誰がやっても同じ業務を楽しくする組織風土」と「プロセス業務を改善するための取り組み」を導入しているからである。
これは個人的な所感ですが、スタバやユニクロのスタッフはトップからアルバイト・パートのスタッフまで、向いている方向が同じだと感じています。良い意味でも悪い意味でも金太郎飴的な、高性能な(でも自我が出にくい)サービススタッフ、のようなイメージです。これは企業として確固たるCIがあって、ブランディングにこだわっている結果、同じような想いの人が集まってきているのではないかと思います。
突き詰めて考えると、トップ・企業のアイデンティティに共感していることから始まっているため、「誰がやっても同じ業務を楽しくする組織風土」は仕事自体は面白いとは言えないし、業務だけ切り取ったら余所でもあまり変わらないけど「帰属性(スタバやユニクロに自分がいる、という満足感やその会社に共感している)」によって、成り立っているのではないかと思います。
であれば考えるべきは、凡人への「オペレーション」や「マネジメント」のような組織論ではなくて、会社をどんな存在にしていきたいか?、どんな人と一緒に働きたいか?どんなことに共感してもらいたいか?を明確化し、オープンな場でコミットすることが先決なはずです。
結局はトップコミットメントが最重要
本書から抜粋し、さまざな所感を書いてきましたが結局のところ、オペレーションやマネジメント、コーチングなどのスキル面ではなく、TOP・リーダーがオープネス(経営・情報・自己などの様々な開放性)を高めることと、開放性の中でTOP・リーダー自身の考えを伝え続けること(その後、メンバーの開放性も高めてあげること)が最も重要なのではないかと思います。
伝え続けることで「この会社はこんなアイデンティティを持っているのか」と、従業員をはじめとするステークホルダーに伝わり、積み重ねることでブランドがつくられていきます。その後、そのアイデンティティに共感する者は残り、そうでない人は去っていくのだということですね(私は結局独立したわけですが)。
HONEのサービスについて
当社では、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【記事を書いた人】
Takato Sakurai / 桜井 貴斗
HONE Inc. 代表取締役/マーケター
札幌生まれ、静岡育ち。大学卒業後、大手求人メディア会社で営業をしたのち、同社で新規事業の立ち上げ等に携わる。「売り手都合の営業スタイル」に疑問を感じていた矢先に、グロービス経営大学院にてマーケティングに出会い衝撃を受ける。その後、新たな新規事業の立ち上げを経て、2021年に独立。現在はクライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営などを手掛けている。
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