人口流出を「逆手」にとる。清水エスパルスの国立開催から学ぶ、「待たない地方マーケティング」。
- 2 日前
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地方ビジネスにおいて、「人口流出」は最も重く、そして解決が難しい課題の一つです。
特に静岡県の転出超過数は全国ワーストレベルであり、ここ10年で数十万人規模の人口が県外へと移り住んでいます。その流出先のほとんどが東京圏であり、20代前半の若年層が圧倒的な割合を占めています。
多くの地域企業がこの事実を前に頭を抱える中、このネガティブな現状を「強力な武器」へと変えた地元クラブがあります。それが、清水エスパルスです。
エスパルスが仕掛けた「地方クラブが東京でホームゲームを開催する」という一見矛盾した戦略には、地域ビジネスが生き残るためのしたたかで本質的なマーケティングのヒントが詰まっていました。

地方クラブが東京で試合をするという「矛盾」の正体とは
清水エスパルスは、静岡県静岡市(清水区)をホームタウンとするクラブです。
本来であれば、地元のスタジアムであるIAIスタジアム日本平にファンを集めるのがセオリーです。
しかしエスパルスは、あえて東京の「国立競技場」でホームゲームを開催するという大胆な手を打ちました。
特筆すべきは、圧倒的な集客力です。
クラブ創設30周年を迎えた2022年の国立開催では56,131人を動員。さらに驚くべきことに、J2に降格して迎えた2023年でも47,628人、そして2024年も55,598人と、カテゴリーを問わず5万人規模の観客を熱狂させています。
なぜ、地方のクラブが東京のど真ん中でこれほどの熱狂を生み出せるのか。
それは、この企画が単なる「東京でのビッグマッチ開催」ではないからです。根底にあるのは、東京圏に流出した「静岡出身者」や「エスパルスのライト層・潜在層」を掘り起こすという、緻密なターゲティング戦略にありました。
「おかえり、ここは静岡。」がもたらす圧倒的な巻き込み力
この国立開催を象徴するコピーが、「おかえり、国立(ここ)は静岡。」。この一言に、エスパルスの戦略が凝縮されています。
エスパルスは国立競技場を単なる試合会場ではなく、「東京を1日限定の静岡」へと昇華させました。具体的には、来場者へのオレンジユニフォームの配布でスタジアムをチームカラーで染め上げ、著名アーティストの音楽ライブ、若年層に人気のQuizKnockやアニメとのコラボレーション、さらには静岡からの貸切新幹線ツアーまで、あらゆるエンターテインメントを掛け合わせたのです。
これらはマーケティングの視点で見ると、「カテゴリーエントリーポイント(CEP:ブランドを思い出すきっかけ)」の意図的な拡張だと思っています。
通常、サッカーの試合に行く理由は「サッカーが好きだから」「エスパルスが好きだから」というある一定の入り口しかありません。
それを、「東京開催される静岡の祭」としてパッケージングすることで、「最近地元に帰っていない静岡出身だから」「好きなアーティストがライブをするから」「友達が誘ってくれたお祭りのようなイベントだから」という、サッカー以外の多様な文脈で来場する理由を創り出しています。
なぜ清水エスパルスの国立開催は成功したのか?マーケティング視点での分解
この取り組みがなぜこれほどまでに影響力を及ぼしたのか。その成功要因を分解すると、以下の5つのポイントに集約されます。
1. 「遠くて行けない」という物理的ハードルをクラブ側から越えた
地方クラブ最大の弱点は、都市部に住むファンにとって「物理的な距離が遠い」ことです。今回のエスパルスは、ファンがスタジアムに来るのを待つのではなく、「クラブ側が顧客のいる都市へ行く」という逆転の発想でこの課題を解決しました。
2. 首都圏在住の「静岡出身者・ライト層」の掘り起こしができた
人口流出というネガティブな事実を「首都圏には静岡の潜在顧客が大量に眠っている」というポジティブな市場機会へと転換しました。かつてスタジアムに通っていたが上京を機に足が遠のいたファンに、再びクラブと接点を持つ機会を提供しました。
3. 「試合」ではなく「静岡の祭」化による同行者の増加
コアファンだけでなく、ライト層も誘いやすい空気感を作ることで、「1人で来るファン」→「友人や家族を連れてくるファン」へと変容。コミュニティの拡大において、このライト層の「巻き込みやすさ」はとてもポジティブに働いたように感じます。
4. 1試合集中投下による、高いスポンサー露出とSNS拡散効率
5万人が集まるメガイベントは、協賛するスポンサー企業にとっても魅力的な露出機会となったと思います。また、非日常感のあるイベントはSNSでのUGC(ユーザー生成コンテンツ)を生み出しやすく、「#おかえり国立は静岡」といったハッシュタグを通じて、来場していない人々の頭の中にもブランドを強く印象付けました(メンタルアベイラビリティの獲得)。
5. 毎年の継続による「習慣化」
企画を単発で終わらせず、毎年継続して開催している点も秀逸です。「今年も国立の季節が来た」「来年もまた行こう」という行動の習慣化を促すことで、一過性のイベントではなく、クラブとファンの強固な関係性を築く年中行事へと育て上げています。
自社の事業、「来てくれる人」だけを見ていませんか?
清水エスパルスの国立開催から私たちが学べるのは、「コミュニティの拡大は、今いる場所で待つことではない」ということです。
ファンが存在している場所、あるいは潜在顧客が眠っている場所まで、ブランド側がその「世界観ごと出張していく」アプローチこそ、これからの地方ビジネスには求められているように感じました。
地方で事業を営んでいると、どうしても「今、地元にいて、お店に来てくれる人」だけを見てしまいがちです。
しかし、視座を少し高くしてみると事業の価値を求めている人は、本当に今の商圏内にしかいないのでしょうか? 人口流出で地元を離れた人たちは、もしかすると「地元とのつながり」を求めていないでしょうか?
もし、顧客が別のエリアに眠っているのなら、待つのはやめ、1年に1回だけでもエスパルスのように“向こう側のホーム”を自らの手で創り出しに行ってみるのも1つの手だと思います。
この攻めの姿勢にこそ、地方から突破口を開くためのヒントが隠されているはずです。今回の取り組みは私自身も大変学びになりました。
HONEは地域に根ざし、現場に足を運ぶ地方マーケティング会社です。
日本の地方には、魅力的な商品・サービスがたくさんあります。
地方に根ざしたブランドの志や文化、人々の誇りや営み。HONEはそうした人たちの想いを価値に変えるべく、現地に出向いてきました。 私たちは、文化と経済の「骨」を設計し、地域の「らしさ」を未来へつなげる仕組みを育てます。 論語と算盤。想いと仕組み。美学と実行力。 その両立を、マーケティングの力で実装していきます。

▼HONEにできること
語られていない価値の「骨」を探す
商品や地域の中にある「想い」や「背景」は、まだ言語化されていないだけかもしれない。 それらを丁寧にすくい上げ、ブランドの芯として翻訳します。 見落とされがちな隠れた価値に役割を与えることが、事業の骨格をつくるはじまりです。
現場に入り、五感を使って「骨」を磨く
戦略も仕組みも、現場を歩き、対話することから始まります。 地形、歴史、空気、人の言葉やまなざし。デスクリサーチでは捉えきれない情報を五感で受け取り、定量と定性、論理と情緒、ロマンとそろばんを掛け合わせて、設計に落とし込みます。
手を動かしながら、「骨」を強くする
支援とは、プランを出して終わりではありません。 現場に入り、泥臭く、時に失敗しながら共につくりあげていきます。 頭で考えて、手足を動かす中で生まれる「実感」こそが、骨を太くし、しなやかに持続する構造を育てていきます。
文化となる「骨格」を、未来へ残す
目指すのは、ただ売ることではありません。 地域に根ざした文化や営みに芯を通し、事業として持続可能なかたちに育てていくこと。短期的な成果ではなく、関わる人たちの誇りとなり、語り継がれていく仕組みをデザインします。 HONEは、経済と文化をつなぐ骨を共につくり、未来へと残していきます。

▼HONEの強み
01/一貫サポート
戦略設計から実行〜検証まで。経営課題の整理から、現場を動かす具体的な仕組みづくりまでを、一貫して支援します。リサーチ・企画・実装・振り返りのすべてに伴走し、商品・サービスの価値を再定義しながら、現場に根づく事業を共につくります。目指すのは、短期的な成果だけでなく、文化が息づき、長く続く事業と地域のかたちです。
02/現場主義
デスク上、リモートワークでは見えない、地域の空気や人の温度に触れる。HONEは現地に足を運び、実際に現場の風景・人の営みに向き合いながら、これまでの現場で得た経験則を元に戦略・戦術に反映していきます。現在起こっている事実に基づく分析はもちろんのこと、解釈に現場の五感で得た気づきを重ね合わせ、実装へとつなげていきます。
03/全国実績
北は北海道、南は沖縄まで、一次産業から観光、教育、行政、ベンチャー、スタートアップ、アトツギなど、多種多様なプロジェクトに携わってきました。たくさんの地域を見てきたからこそ、それぞれの良さに気づくことができます。そして土地に根付くその事業の「らしさ」を、より鮮明に見つけることができます。全国各地で積み重ねた知見を、次の挑戦に活かします。
04/産学官連携
企業・教育機関・行政と手を取り合い、対話を重ねながらプロジェクトを推進しています。 単なる連携にとどまらず、それぞれの立場が持つ知見や資源を持ち寄り、地域に根ざして実装していくこと。 現場での実践と、学びの場での理論、そして制度や仕組みをつなぐ橋渡しとして、多様なセクターの信頼を得ながら取り組みを展開しています。

なぜ今、“地方”でマーケティングが必要なのか
マーケティングという言葉には、しばしば「スケールする」「売上を伸ばす」といったイメージが付きまといます。しかし、地方において本当に必要なのは、そうした直線的な成長だけではありません。人口減少、担い手不足、そしてインフラや情報環境の未整備。多くの地域が、さまざまな制約の中で日々の営みを続けています。
制約が多いからこそ、その土地に根ざした価値を継続し、文化や人々の想いを循環させていくための工夫が欠かせません。マーケティングの論理をそのまま持ち込むのではなく、人肌を大切に、想いを大切に、未来へとつなげていく。実装力と創造力を備えた「地方のマーケティング」が必要です。

地方に必要なのは、「地域理解」
こうした現場においてまず必要なのは、「何をどう売るか」よりも先に「この地域には何があるのか」「何を残していきたいのか」を知っていく姿勢。つまり「地域理解」です。ブランド構築の土台を固めるには各レイヤーごとに把握すべきポイントを理解することが重要です。

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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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【記事を書いた人】

株式会社HONE
代表取締役 桜井貴斗
札幌生まれ、静岡育ち。 大学卒業後、大手求人メディア会社で営業ののち、同社の新規事業の立ち上げに携わる。 2021年独立。クライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営に従事。










