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【TSUGU SHIZUOKA|イベントレポート】アトツギ甲子園、その挑戦は何を変えたのか?〜家業の見え方が変わり、ともに挑む仲間ができるまで〜【2026.09.25】

4 時間前
読了時間: 13分
【TSUGU SHIZUOKA|イベントレポート】伝統と革新の事業デザイン 〜地域のレガシーを次世代へ繋ぐ、アトツギの葛藤と挑戦〜

家業の強みは何だろう。

自分は、この会社で何ができるのだろう。


事業を受け継ぐ立場にあるからこそ、簡単には答えを出せない問いがあります。新しいことに挑戦したくても、日々の仕事や社内の関係を考えると、最初の一歩を踏み出せないこともあるのではないでしょうか。


2026年9月25日(金)、静岡市コ・クリエーションスペースで、一般社団法人TSUGU SHIZUOKAによるイベント「アトツギ甲子園、その挑戦は何を変えたのか?」を開催しました。


登壇したのは、第6回アトツギ甲子園に挑戦した静岡のアトツギ4名。出場を決めたきっかけから、家業への意識の変化、大会後に生まれた仕事や人とのつながりまで、当事者ならではの経験が語られました。


話題になったのは、前向きな成果だけではありません。


先代や社員との意思疎通、本業との両立、計画を実際の事業に移す難しさ。そうした葛藤も含めて、挑戦の「その後」を振り返る時間となりました。


本記事ではイベントをレポート形式で振り返っていきます。ぜひ最後までご覧ください。



HONEでは過去のセミナー資料、お役立ち資料、会社紹介資料がダウンロードできます。


セミナー資料


TSUGU SHIZUOKAとは


TSUGU SHIZUOKA
TSUGU SHIZUOKAの主な活動

一般社団法人 TSUGU SHIZUOKA(つぐ しずおか)は、2026年6月1日に静岡で生まれた、事業後継者(アトツギ)とその候補者たちのための新しいコミュニティです。


弊社・桜井もTSUGU SHIZUOKAの代表理事を務め、「血の通ったアトツギカルチャーを静岡に」というミッションのもと、アトツギならではの悩みやリアルな情報を持った人が集まる機会を創り出しています。


▼TSUGU SHIZUOKAのホームページはこちら




静岡のアトツギが、本音で話せる場所をつくる


TSUGU SHIZUOKAは、事業後継者とその候補者、支援者や応援者がつながるコミュニティです。


私も代表理事を務め、「静岡に熱狂できる事業承継を」というパーパスのもと、交流や学び、事業の相談ができる場づくりに取り組んでいます。


会議室で赤い椅子に座る聴衆が、前方のスクリーンに映る「富士市長表敬訪問(2025.3.17)」の発表を聞いている。
当日のイベントの様子

家業を守りながら、新しいことに挑む。その過程では、家族や社員、友人にはうまく話せない悩みを抱えることもあります。同じ立場の仲間や、社外から一緒に考えてくれる人との出会いが、次の一歩を支えることがあります。


今回のイベントも、経験者の話を通じて、自分の挑戦を具体的に考えるための機会として開催しました。


TSUGU SHIZUOKA団体の立ち上げに込めた想いは、7月の創設イベントレポートでも紹介しています。


▼【レポート】TSUGU SHIZUOKA 創設イベント〜静岡のアトツギを孤独にしない、やさしく有機的な共創エコシステムの幕開け〜




アトツギ甲子園は、家業と自分に向き合うきっかけになった


木目の会議室で、黒Tシャツの男性がマイクで発表し、前方のスクリーンに「アトツギ甲子園」挑戦のスライドが映っている。
大会と自身の経験を紹介する第7回アトツギ甲子園の静岡県アンバサダーを務める齊藤雄大さん

前半は、株式会社斎藤鐵工所の6代目であり、第7回アトツギ甲子園の静岡県アンバサダーを務める齊藤雄大さんから、大会の概要が紹介されました。


アトツギ甲子園は、家業の経営資源を活用した新規事業のアイデアを発表するビジネスコンテストです。齊藤さん自身も第5回大会に出場し、決勝大会でピッチを行った経験があります。


当日の資料には、その挑戦によって生まれた変化がまとめられていました。


新規事業を考える中で、家業の可能性を見つめ直したこと。ものづくりに携わる社員への尊敬が深まり、自分が担うべき営業や環境整備の役割に気づいたこと。そして、全国のアトツギと出会い、自分の経験を家業で生かせばよいと思えるようになったことです。


作業着を着て働く自分を、誇らしく思えるようになった。その変化は、事業承継を自分の意思で引き受けていく過程とも重なります。

家業の強みを言葉にし、その先にどんな未来をつくりたいのかを考える。発表までのプロセスそのものが、アトツギにとって大切な機会になることが伝わってきます。



挑戦した4人が語る、出場までと出場後の変化


後半の登壇者は、第6回アトツギ甲子園に出場した以下の4名です。


- 稲垣亘佑さん/有限会社稲垣塗装所 3代目アトツギ・株式会社えんぷれあ 代表取締役

- 山田桃江さん/株式会社天竜組 事業企画・事業統括

- 杉村岳さん/杉村精工株式会社 取締役

- 市川岳さん/有限会社アルゴダンザ・ジャパン 代表取締役


ゲスト紹介のスライド。4人の顔写真と各紹介文、右に経営支援課長・佐野哲氏の説明、下に山崎啓輔の案内がある。

ファシリテーションは、TSUGU SHIZUOKA理事の山崎さんが担当。齊藤さんも対話に加わり、それぞれがどのように出場を決め、何を持ち帰ったのかを聞いていきました。



稲垣さん:仏壇を手放す人の想いから、次の事業を考えた


稲垣さん:仏壇を手放す人の想いから、次の事業を考える
有限会社稲垣塗装所の3代目アトツギで、株式会社えんぷれあ代表取締役の稲垣亘佑さん

仏壇を手放す「仏壇じまい」が増える一方で、処分することに罪悪感を覚える人もいます。稲垣さんが紹介したのは、もともとの仏壇の素材を使い、手のひらサイズにリメイクする「結壇」です。3代続く仏壇再生工房の技術を生かし、祈りの文化と職人の仕事を次世代へつなぐ取り組みでもあります。


第6回アトツギ甲子園では、関東ブロック優秀賞を受賞し、決勝大会へ進出しました。


大会に挑戦した時点で、サービスの土台はありました。

そこから、仏壇にまつわる困りごとを入り口に、終活の領域へどのように事業を広げていけるかを考えたといいます。


出場後は、メンターとの相談を通じてウェブでの集客改善にも取り組み、サイトへの流入が増加。メディアに取り上げられたことが問い合わせや売り上げにつながり、お父さまも喜んでくれたそうです。


一方、稲垣さんが大きな収穫として挙げたのは、ともに頑張れる仲間ができたことでした。東京に住みながら家業に関わる中で、静岡の事業者と継続的につながり、同じ目線で話せる関係が生まれたと振り返ります。


準備に時間はかかったものの、半年ほど経った今は、挑戦してよかったという気持ちが残っている。そうした実感から、迷っている人には、まだ考えがまとまっていない段階でも相談してほしいと呼びかけました。



山田さん:会社の未来を語ったことで、周囲の受け止め方が変わった


株式会社天竜組で事業企画・事業統括を担う山田桃江さん。
株式会社天竜組で事業企画・事業統括を担う山田桃江さん

建設業を営む天竜組の山田さんは、幼い頃から家業を継ぐ立場として育ってきました。その中で抱えていたのは、身近な人に相談しても、なかなか理解してもらえない孤独感だったといいます。


アトツギのコミュニティを知ったことは、自分の立場や悩みを分かち合える相手と出会うきっかけになりました。出場を決めた時点で、事業の内容が固まっていたわけではありませんでした。経験者との壁打ちを重ねながら、建設業での女性活躍をテーマに、自分の問題意識を形にしていきました。


挑戦後、社内ではピッチの映像を共有する機会があったそうです。会社のことをどれほど考えているのかが伝わり、それまで流れてしまいがちだった提案を、具体的に検討してもらえるようになりました。


活動の変化は採用にも表れました。ウォーターサーバーの事業部で女性のパート採用が進み、イベント当日には、建設業の部門でも新たに女性の採用が決まったという報告がありました。


ただし、発表した計画がそのまま実現したわけではありません。受注が増えたことで、想定していた人員体制では現場を回せなくなり、運用を見直す必要も生じました。働く環境を整えることと、現場の仕事や人間関係を動かしていくこと。その両方に向き合う難しさも、率直に語ってくれました。



杉村さん:自分の得意を重ねることで、家業に誇りを持てるようになった


杉村精工株式会社の取締役として、町工場の新しい可能性に挑む杉村岳さん。
杉村精工株式会社の取締役として、町工場の新しい可能性に挑む杉村岳さん

杉村精工の杉村さんは、大手フィットネス企業でアプリコンテンツの企画やマーケティングを経験した後、家業の製造業に入りました。広報を起点に町工場のブランディングにも取り組む一方、入社当初はものづくりへの関心が薄く、自社にどんな強みがあるのかも見えていなかったと振り返ります。


大会に向けて考えたテーマは、町工場とフィットネスの掛け合わせです。


最初は工場のスペースを運動の場として活用するアイデアでしたが、壁打ちの中で、家業が持つ製造技術をもっと生かせないかと問い直すことになりました。


そこから生まれたのが、金属加工の技術を使った「鉄下駄フィットネス」の構想です。当日は実物も紹介され、自分の経験と家業の技術を組み合わせた挑戦が、具体的なかたちで共有されました。


新規事業を考えるために家業と向き合ったことで、ほかの会社とは違う、自社ならではの得意があることを知った。杉村さんは、それが会社に誇りを持って働けるようになるきっかけだったと話してくれました。


準備に真剣に取り組む姿やピッチを見た社長も、新しい取り組みに対して、以前より背中を押してくれるようになったそうです。


鉄下駄の事業は、イベント時点ではいったん保留しているとのことでした。それでも、商品への問い合わせが届いたり、出場について発信した内容を母校が紹介してくれたりと、社外からの反応は生まれています。挑戦の価値は、発表した商品の進捗だけでは測れないのだと感じました。



市川さん:事業を磨く仲間と出会い、社内との対話の大切さも知った


親族外のアトツギとして、有限会社アルゴダンザ・ジャパンの代表取締役に就任した市川岳さん
親族外のアトツギとして、有限会社アルゴダンザ・ジャパンの代表取締役に就任した市川岳さん

アルゴダンザ・ジャパンの代表取締役を務める市川さんは、第三者承継の立場から大会に挑戦しました。家業を親から受け継ぐ人とは異なる背景を持ちながらも、事業をどう次につなぐかという問いは共通しています。


同社が扱うのは、遺骨からダイヤモンドをつくるサービス。


大会では、その「生前契約」をテーマに発表しました。限られた時間の中で、まず既存の事業を理解してもらい、さらに新しい取り組みを伝える必要があり、壁打ちを通じて内容を磨いていったそうです。


イベント後は生前契約が2件成立し、問い合わせも増えているとのこと。発表したアイデアが、実際の事業につながり始めています。


その一方で、市川さんは、先代に挑戦を十分共有しないまま進めてしまったことへの反省も話してくれました。会社ごとの考え方や事情があるからこそ、周囲に理解してもらい、応援を得ながら進めることが大切だったと振り返ります。


静岡へ移住した当初は、友人や知り合いがほとんどいなかったという市川さん。今は、自分の考えを持ち寄り、率直に意見を交わせる仲間がいることが、生き方や事業への向き合い方にも良い影響を与えているそうです。



完成したアイデアがなくても、挑戦できる


4名の話から見えてきたのは、出場を決めた段階で、全員が完成された事業計画を持っていたわけではないということです。


すでにあるサービスを広げようとした人もいれば、エントリー後にテーマを絞り込んだ人、当初のアイデアから方向を変えた人もいました。その過程を支えたのが、経験者や支援者との壁打ちでした。


自分の考えを話し、問いを受け、もう一度考えてみる。家業の技術や顧客とのつながり、自分自身の経験を見つめ直す中で、次の事業の輪郭が少しずつ見えてくるはずです。


市川さん、山田さんからは、何度も相談に付き合ってくれた人たちへの感謝が語られました。齊藤さんや小松さんといった出場経験者に加え、私をはじめとする支援者も、その準備に関わりました。


大切なのは、大会が終わった後にも事業について話し合える関係が続くこと。良かった点も、うまくいかなかった点も振り返りながら、次の行動を考えられる仲間がいることです。


TSUGU SHIZUOKAの主な活動を紹介するスライド。交流会、事業伴走支援、スポンサー企業との共創を3つの図解で示す。
交流、事業伴走と学び、共創を通じて、挑戦が続く関係を育てる

会場からは、本業に余裕がないと出場できないのではないか、現場の仕事と資料づくりをどう両立したのか、という質問も寄せられました。


日常の業務がある中で準備の時間をつくることは、登壇者たちにとっても簡単ではなかったといいます。杉村さんは、現場への負担をできるだけ抑えながら進めることを重視し、移動や運動の時間も使ってピッチの内容を考えたと話しました。


アンバサダーの齊藤さんからは、社長になった今だからこそ、先代が事業を担っている間に、後継者が会社の未来を考える時間を持つ意味を感じている、という振り返りもありました。


また、杉村さんは、今すぐの出場に限らず、次回やその先の大会を頭の片隅に置いておくことにも意味があると伝えてくれました。いつか発表することを意識するだけでも、実績をつくろうとする日々の行動が変わるからです。


それぞれの事情に合わせて、自分の挑戦を考えていく。そのためにまず経験者の話を聞き、相談できる相手と出会うことも、一つの始め方なのだと思います。


会議室で赤い折りたたみ椅子に座る多くの人々が前方の説明に耳を傾ける、壁に掲示物や日本地図がある静かな会場


支援する側も、アトツギから刺激を受けている


対話の終わりに、山崎さんは支援する側の実感も共有しました。壁打ちで相手に問いを投げかけると、その問いは自分自身にも返ってくる。アトツギの真剣な挑戦に触れることで、自分ももっと頑張らなくてはと刺激を受けるのだといいます。


事後アンケートにも、成功したことだけでなく大変だったことまで聞けたことで、アトツギ甲子園への理解が深まったという感想が寄せられました。支援する立場の参加者からは、自分ならどのように関われるかを考えるきっかけになった、という声もありました。


事業を継ぐ人も、その挑戦を支える人も、お互いの仕事や姿勢から学んでいく。今回の対話には、TSUGU SHIZUOKAが育てていきたい関係が表れていたように思います。



さいごに


新しい事業の構想、家業への誇り、先代や社員との関係、そして相談できる仲間。アトツギ甲子園への挑戦がもたらした変化は、一人ひとり違っていました。


共通していたのは、社外に出て自分の想いを言葉にし、誰かと対話することで、家業と自分の可能性を見つめ直していたことです。うまくいったことも、見直しが必要になったことも、次の挑戦につながる経験として語られていました。


まだ事業のアイデアがまとまっていなくても、家業への気持ちに迷いがあっても、話せる相手がいる。そんなつながりを、静岡の中に増やしていきたいと考えています。


TSUGU SHIZUOKAでは、アトツギの挑戦に関わる共創パートナーも募集しています。交流の場づくり、事業の壁打ち、新商品やサービスの開発など、関心や得意を持ち寄りながら、一緒に取り組んでいければと思います。


木のテーブルに置かれた「TSUGU SHIZUOKA」スポンサー募集案内の冊子。握手や人物イラストがあり、左に緑のパンフとペンが見える。
アトツギの挑戦をともに支える、共創パートナーを募集しています

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【記事を書いた人】


プロフィール

株式会社HONE

代表取締役 桜井貴斗


札幌生まれ、静岡育ち。 大学卒業後、大手求人メディア会社で営業ののち、同社の新規事業の立ち上げに携わる。 2021年独立。クライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営に従事。


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