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「地域の未来は自分の将来」ー 自己給与申告制度を導入し、共に歩む仲間と地域をより良くしたい。【北海道稚内市】

公開日:

2026年4月23日

最終更新日:

2026年4月23日

「地域の未来は自分の将来」ー 自己給与申告制度を導入し、共に歩む仲間と地域をより良くしたい。【北海道稚内市】

北海道の最北端に位置する稚内市で100年を超えて地域に根ざしてきたスーパー「相沢食料百貨店」。


稚内では高齢化・人口減少が進み、少人数・低コスト運営を武器にする大手競合店の出店が迫っています。本来であれば、徹底したコスト削減と効率化に突き進むのが経営の定石です。総人件費が約10%増加する可能性もあるなか、社員ひとりひとりの決定に委ねるのです。


地方の老舗スーパーで、「自己給与申告制度」の導入に、なぜ踏み切ったのでしょうか。そこには、最北の地で「地域インフラとしてのスーパー」を維持し続けるための、これまでの延長線上ではない組織の自律こそが、地域と共に生き残る唯一の突破口であるという強い想いがありました。



自分の将来を見定めて自分の給料を決める。自己給与申告制度とは?


「自己給与申告制度」とは、一言で言うと社員自らが自分の給料を決定できる仕組みです。社員は1年間の貢献内容を定義し、それに見合う給与額を申告します。


この制度の根幹にあるのは、給与を「過去の実績への評価」ではなく「未来の貢献への投資」と捉える考え方です。しかし、福間さんがこの制度を通じて真に求めているのは、単なる給与額の決定ではありません。「自分の人生をどうしたいか」という問いの中に日々の仕事を位置付けて欲しい、という願いです。


しかし、日々の生活に追われる従業員にとって、急に「人生のあり方」を問われることは、容易に答えを出せるものではありません。向き合う余裕がないという現実と、それでも「自分の理想の将来の中に仕事を位置づけてほしい」という経営者としての想い。その間にあるギャップを埋めるために、同社は1年間、社員が自分の将来について考えるための準備期間を設けました。


現在は、全社員が一律に変わることを目指すのではなく、会社の考えている未来を自分の言葉で語れるメンバーを全体の30%程度まで引き上げることを直近の目標としています。一方で、長年現場を支えてきたベテラン層には、メディアに取り上げられるなどの活動を通じて「自分の仕事」に誇りを持ってもらうことを大切にしています。世代や状況に応じた歩幅を尊重しながら、対話を通じて少しずつ、人生と仕事が重なり合う組織を目指しています。



なぜ人件費増加につながる自己給与申告制度を導入するのか


店長の長尾さん。従業員とともに未来を作る
相沢食料百貨店 長尾店長

新しく「自己給与申告制度」を導入するにあたり、同社では総人件費が少なくとも10%程度増加することを見込んでいます。存続の瀬戸際で、なぜあえてコスト増の道を選んだのか。そこには、地方の小売店が直面している厳しい現実への冷静な判断がありました。


現在、店舗の近隣には、少人数・低コスト運営を武器とする大手競合他社の出店が予定されています。資本力のある相手に対し、価格競争や効率化で正面から対抗することは、物理的に不可能です。これまでの「指示通りに発注し、陳列する」という受動的なスタイルのままでは、地域と共に生き残ることはできないという強い危機感がありました。


福間さんは、この約10%の人件費増を単なる費用ではなく、生き残るための「投資」であると定義しています。大手チェーンがマニュアルによる効率化を追求する一方で、相沢食料百貨店が選んだのは、個々の判断で付加価値を生み出せる組織へと進化すること。この「属人的な強み」こそが、競合には真似できない唯一の生存戦略になると信じ、社員に希望を託したのです。



「自分の人生をどうしたいか」を急に問われることへの戸惑い


仕事を通じて自分の将来も設計する従業員のみなさん
ベーカリー担当のみなさま

しかし、理想を掲げる一方で、現場には直視すべきリアルな課題も存在しています。


自由な申告が認められたということは、裏を返せば「自らの価値を言葉して実行する責任」を負うことでもあります。日々の生活や目の前の業務に追われる社員にとって、急に「人生をどうしたいか」と問われることは、戸惑うことで、これまで考えたこともない人がほとんどです。経営陣が描く「自律した組織」という理想と、現場が抱く「これまでの業務の継続」という地続きの日常。その間には、依然として大きなギャップが存在するのも事実です。


しかし、同社はこの乖離を失敗と捉えるのではなく、変革には不可欠なプロセスとして受け入れています。一律に全員が変わることを急がず、まずは個々の適性が新たな価値を生むひとりひとりの変化を一つずつ積み上げる道を選びました。


例えば、10年以上経理を担当してきた社員のAさん。福間さんは彼女の高い文章作成能力に着目し、従来の事務職という枠を超えて、SNSでの発信やECサイトの運用といった広報関連の業務へと職域を広げることを提案しました。まだ試みは始まったばかりですが、新たな業務で自社の売り上げ向上に貢献するやりがいを見出して欲しい、と福間さんは語ります。


「自分に何ができるのか」という問いに対し、既存の職種名に縛られず、個人の強みを新しい「役割」へと変換していく。こうした具体的な変化の兆しが、周囲の社員にとっても自らの将来を考える道標となります。組織全体の意識を無理に動かすのではなく、個人の輝きが波及していくことで、静かに、しかし確実に変容を促していきます。



地域とスーパーの関係を再定義し、正当な評価に繋げる


地域とスーパーの関係を再定義しようと務めるスーパーの社長

個々の適性を活かした「役割」の再配置は、単なる社内の人事に留まりません。それは、これまで従業員が自然なコミュニケーションの中で担ってきた、目に見えない社会的価値を「正当な仕事」として定義し直す作業でもあります。


同社が担う役割は、単なる商品の販売だけではありません。冬場には外出が困難になる高齢者のため、電話一本で「いつもの商品」を特定して届ける御用聞きや、配達先でのさりげない安否確認など、効率化の対極にあるアナログな活動が地域の生活インフラを支えています。


これまで従業員が善意や無意識で行ってきた地域のお年寄りをみんなで見守る、地域の見守り役の機能。大手との競争が激化する中で、これらを単なる「手のかかる付加サービス」として放置していては、組織として持続できません。


だからこそ、今回の自己給与申告制度を通じて、こうした数字化・言語化しにくい地域貢献を、社員が「自らの意志で選んだ重要なミッション」として明確に位置づけようとしています。


「自分がこの街の健康を守っている」という自負。それを会社が「投資すべき役割」として正当に認めることで、非効率とされる業務を「替えの効かない誇り」へと変えていく。社員が自律的に動く組織への変革は、稚内というコミュニティを維持するためにも有効な手段だと考えます。



社員の自律が生み出す持続可能な地域の未来


自律的な社員を育てるために共に考え実行する仲間

「自己給与申告制度」を通じて真に求めるのは、社員一人ひとりが「自分の人生をどうしたいか」という問いに向き合うことです。日々の生活の中で自らの理想を描き、その大切な一部として仕事を位置づけてほしい。そんな切実な願いが、この挑戦の根底にあります。


自らの意志で役割を選び、納得感を持って働く。その「自律」から生まれる人のあたたかみのあるサービスこそが、大手には絶対に真似できない、相沢食料百貨店が街に必要とされる理由そのものになります。


もちろん、変革に伴う試行錯誤はこれからも続くでしょう。それでも人件費増というリスクを負って歩みを止めないのは、社員が自分の人生に誇りを持つことこそが、地域を支える最強の基盤になると信じているからです。


自分の未来を、誰かに委ねるのではなく、自分の手で描き、歩んでいく。一人ひとりの人生の物語にやどるエネルギーが重なり合った先に、相沢食料百貨店と稚内という街が、共にしなやかに生き抜いていく未来が続いていくのです。


HONEインターン/後藤



ほねろぐとは


株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録します。


いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。

町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。

忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。

気づけば、地方が近くなる。


現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。



株式会社HONEについて


HONEの流儀
HONEの流儀

HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。

大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。


学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。

自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。

誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。


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