
高齢化が進む今、介護の現場と企業が手を取り合う新しい取り組みが、福岡市城南区・梅林で行われています。
早良区に拠点を置き小規模多機能ホームやコミュニティスペースを運営する「NPO法人 なごみの家」と、うきは市発の企業「うきはの宝株式会社」がタッグを組み、利用者であるおばあちゃんたちが接客や調理を担う『ばあちゃん喫茶』を2025年5月にオープンしました。
「介護サービスを受けていても、まだまだ輝ける場所がある。」 そんな想いから生まれたこの喫茶店は、介護=支援される側という固定観念をくつがえし、 人が再び働く喜びを取り戻す場所になっています。
今回は、『ばあちゃん喫茶』を運営する「なごみの家」のスタッフ・宮嵜(みやざき)みちよさんにお話を伺いました。
「うきはの宝株式会社」について
超高齢化の進む日本でおばあちゃんたちが働くことで「生きがい」と「収入」を得れる、75歳以上のおばあちゃんたちが働く会社「うきはの宝株式会社」を2019年10月に設立。ばあちゃんたちの働く仕事と働く場創りをしている。ばあちゃんたちが経済活動をしながら健康寿命を伸ばし、高齢者が楽しく適度に働くことで医療費や社会保障費の削減になるような取り組みを目指し、全国に広めていっている。
ばあちゃん喫茶とは?


—— 『ばあちゃん喫茶』で働いているのはどのような方ですか?
宮嵜さん:私たちは、福岡市早良区のUR四箇田団地内にある「なごみの家」という小規模多機能型居宅介護事業所です。ここで行っている『ばあちゃん喫茶』は、介護サービスの時間内に行う活動です。
朝に事業所で皆さんをお迎えし、「今日はばあちゃん喫茶の日だから行きましょう」と出かけます。お店では、利用者さんたちが昼食の定食づくりや盛り付け、接客を担当。活動が終わるとまた事業所に戻り、それぞれの時間を過ごしてお家に帰るという流れです。
—— この取り組みを始めたきっかけは?
宮嵜さん:利用者の谷口さんが毎日トンカツを揚げているというお話をご家族に聞いて、そこで、地域食堂で谷口さんに揚げ物を作ってもらうようになりました。

そのお話を、「うきはの宝株式会社」の大熊さんにしたところ、「それなら一緒にやってみましょう」と声をかけていただいて、そこから『ばあちゃん喫茶』が生まれました。
できることを奪わない介護

—— 実際におばあちゃんたちはどんな様子ですか?
宮嵜さん:皆さん、本当に楽しそうにされています 。来るまでは「どこ行くと?」という感じでも、「揚げ物やりましょうか」「お野菜切りましょうか」と声をかけると、手が覚えていて手際よくお料理をしてくださいます。
私たちは「できることを支える介護」を大切にしています。少しのサポートがあれば、自分のペースで作業してくださいます。
その人の力を信じて待つことが、私たちの介護の基本なんです。
—— ばあちゃん喫茶を営業して、どんな変化がありましたか?
宮嵜さん:もともと地域食堂で 活動をしていましたが、福祉の中では報酬をお渡しするのが難しかったんです。でも、うきはの宝さんが一緒に『ばあちゃん喫茶』を運営してくださることで、利用者さんたちに報酬をお渡しできるようになりました。
いろいろな意見はありますが、「もらったお金で何を買おうかな」「次も頑張ろう」と話す姿を見ると、本当にやって良かったなと思います。
地域食堂では出会えなかったような、遠くからご飯を食べに来てくださるお客さんもいて、
それがまたおばあちゃんたちの喜びになっています。
—— 利用者さんのご家族の反応はいかがですか?
宮嵜さん:テレビで『ばあちゃん喫茶』が紹介されたとき、利用者さんの息子さんが「うちの母、まだこんなにできるんだ」と喜んでくれました。普段の介護される母親ではなく、働く母親としての姿を見せられたことで、ご家族にも良い変化が生まれていると感じます。
団地の課題は、日本の課題の縮図
—— 事業所では他にも地域活動をされていますか?
宮嵜さん:団地内には幼稚園や保育園もあり、一緒に花壇づくりや食育活動も一緒に行っています。子ども食堂やフードパントリーなどもしています。
子どもたちが「こんにちは」と声をかけてくれたり、やりとりを通して、地域全体が元気になり、みんなで暮らしていける地域を目指しています。
—— 四箇田団地という場所ならではの特徴や課題はありますか?

宮嵜さん:間違いなく、高齢化は進んでいますし、人口減少も進んでいます。団地の課題は日本の課題の縮図です。
施設を作るという大きな行動よりも、小さな拠点をたくさん作って対応していくべきなのかなと思います。
—— 最後に、『ばあちゃん喫茶』を通して伝えたいことを教えてください。

宮嵜さん:介護サ ービスを受けていても、出来ることをしていただくことで、まだまだ輝けるということです。
年齢や体の状態に関わらず、誰かに必要とされる場所がある。それが生きる力になり、地域の希望にもなると考えています。
『ばあちゃん喫茶』の広がり

現在、福岡県内に3店舗、県外にも多数の連携店舗・フランチャイズ加盟店があるそうです。その活動に共感した地域や事業者が増え、全国へと輪が広がっています。
「ばあちゃん喫茶」の連携やフランチャイ ズに関するお問い合わせは、
うきはの宝株式会社(https://ukihanotakara.com/)までお願いいたします。
まとめ

今回のインタビューを通して、『ばあちゃん喫茶』は、少子高齢化が進む現代社会において、高齢者が役割を持って活躍できる居場所づくりとして必要とされる取り組みだと感じました。
「できることを奪わない」という考え方のもと、利用者一人ひとりの「できること」「やりたいこと」を尊重する姿勢は、これからの介護のあり方を示しているように感じました。
また、従来のイメージや前例にとらわれず、時代に即した新しい社会モデルを模索していく必要があると実感しました。
HONEインターン/山下

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