
山梨県甲府市を拠点に、“社会を豊かにする仕事”を掲げて活動する、株式会社DEPOT(デポ)クリエイティブディレクター、宮川史織さん。
地域の企業や自治体のブランディング支援で数々の実績を積む一方、起業から10年以上が経った今、ご自身のこれから先のキャリアを変える大胆な方向転換を決意しました。その背景には、自身が抱えていた病気、そして手術などの大きな試練もあったと言います。
現在は地元の商店街の不動産物件を活用した新事業や学びの場づくりに取り組みながら、独自の哲学を探究中です。今回のインタビューを通じて、宮川さんの挑戦に迫ります。
(聞き手:HONE 桜井貴斗)
甲府のまちの魅力
宮川さんが拠点とする甲府とはどんな場所なのでしょうか。
甲府市は、山梨県の国中地方に位置する市で、山梨県の県庁所在地および県内で人口が最多の市です(人口:182,840人 ※2026年1月8日時点 )。
中核市、保健所政令市、中枢中核都市に指定されています。
たまたま駅の近くを歩いていると「かわせみ」を発見。昭和59年に市の鳥に指定されています。
体の色が輝くような青緑色をしているため、「飛ぶ宝石」の愛称を持ち、漢字では「翡翠」と表記されます。まさに「宝石の街・甲府」にふさわしい鳥といえるのではないでしょうか(甲府市HPより)。

そんな甲府市中心部に位置する舞鶴城公園(甲府城跡)は「美しいまち」の象徴の一つとして挙げる場所です。16世紀末に築城された甲府城の遺構を整備した公園で、城の石垣や復元された門など歴史の名残を感じます。

春には約160本もの桜が石垣を囲むように咲き誇り、遠くに富士山を望む景観は圧巻だと聞きました。静岡から見た富士山も良いですが、山梨から見る富士山もまた格別です。

甲府駅前から伸びる中心街にはレトロな雰囲気の銀座通り商店街があります。アーケードで覆われたこの商店街「甲府銀座」は、昭和の時代から続く老舗も多く、佇まいからも長く町を支えてきたのだと感じられます。

近年は建物の建て替えや改装も進み、古さと新しさが同居する不思議な魅力を感じます。宮川さんの拠点である「TO-CHI(トーチ)」もこの通りにあり、昔ながらの街並みに新しい風を吹き込む存在となっています。
※TO-CHI(トーチ)とは?
山梨甲府市銀座通り商店街のシェアスペース。自己と出会い、深く繋がる場、「豊かさ」を考える 知の拠点 。場所は創業100年以上の本屋「春光堂書店」の横。
https://www.instagram.com/book_tochi/


TO-CHIの扉を開けると、選りすぐりの本が並ぶ落ち着いたラウンジと、コーヒーのほんのりとした香りが出迎えてくれました。
宮川さんはこの場所で、読書会やトークイベントを不定期開催し、みんなが自分自身や地域について語り合える場を提供しています。
「自分と出会うための時間と空間を用意したい」という宮川さんの意図通り、TO-CHIは訪れた人がほっと一息をついたり、内省できる空間です。
クライアントワーク卒業を決断した転機とは。
「実は事業の形を大きく転換する決断をしたんです」と宮川さんは穏やかな口調で語り始めました。私(HONE 桜井)も会うのは約3年ぶり。正直、驚きました。
その決断とは、これまで続けてきた受託のクライアントワークを一旦終了し、新たなステージへ踏み出すことでした。
長年携わってきた仕事を手放すのは勇気のいる選択ですが、宮川さんの胸には「もっと自分にしかできない形で山梨に貢献したい」という想いが芽生えていたのだそうです。

キャリアの方向転換のきっかけはなんだったのでしょうか?と聞いたところ、
「自分が次にやりたいことのビジョンが頭の中に降りてきて、それに向かって進もうと決めた時に、逆算すると今の事業の形態はやめた方がよいと決意したのがきっかけだった」と答えてくれました。
その後、宮川さんご自身の身体の変化や体調などの色々な理由があり、これからの命の使い方について考えさせられる出来事を経て、「自分が本当にやりたいことを、後悔なくやろう」という気持ちがより一層強まったとのこと。
そうして人 生の舵を自ら切り直す覚悟が生まれたのだと感じました。
学びの場をつくり、地域に息吹を吹きこむ。
クライアントワークを卒業した宮川さんが現在力を注いでいるのが、地元甲府での「まち」を豊かにする仕事。その一つが、商店街の空き物件を活用した挑戦です。
甲府駅南口から10分ほど歩いたところにある銀座通り商店街に、シェアスペース「TO-CHI(トーチ)」を約3年前にOPENしました(今回お邪魔させていただいた場所です)。

さらにご自身のこれまでの経験や知見を体系化して次世代に伝えるためのアカデミー事業の立ち上げも構想中とのこと。
宮川さんがこれまでに培ったブランディングやクリエイティブディレクションのノウハウを共有し、地域で活躍する人材を育成していきたいという想いがあるそうです。

「地方では広報やブランディングの専任がいない企業がほとんど。だからこそ私が寄り添う意味があるんじゃないかと思っ ています」。
宮川さんが目指しているのは地域全体のクリエイティブ力を底上げ。単なるプロデュース・制作の枠を超えた活動に歩き始めています。
「愛の総量」を増やす。
「ブランディングとは『愛の総量を増やすこと』なんです。」
クライアントやそのスタッフ、エンドユーザー、地域の人たち──ブランドに関わるすべての人が「好きだ」「応援したい」と思う気持ち、つまり愛着の総量こそがブランドの強さになるという考え方です。

宮川さんはこれまで対話を重ねて事業主・経営者たちの根幹を掘り下げてきました。その想いの原型をクリエイティブという形にすることで、関わる人みんなが愛着を持てるブランドづくりを行なってきました。
そこにもう一つ大切にしている概念が「自分ごと化」です。他人任せではなく、ブランドに関わる一人ひとりが自分ごととしてプロジェクトに参加し、主体性を持つことが大切だと教えてくれました。

宮川さんによれば、デザインは単に見栄えを整えることではなく、「自分自身の愛」がとても大切とのこと。
「なぜその事業をやっているのか。どこを目指しているのか。納得のいく結論が出ないまま見た目だけを整えても、本質的な発展にはつながらない」と日々実感しているそうです。
まずは創り手自身が心から愛せる事業であること。
それが周囲の共感を呼び、愛の総量を増やす源泉になるという宮川さんの哲学が垣間見えました。
人を育て、知見を残す。変化した自身のスタンス。
大きな転換を経た宮川さんは、最後に今後について「これからはもっと自分の考えや、やってきたことの本質を伝えていきたい」と話してくれました。

ご自身の経験を文章やコンテンツにまとめて発信する表現活動にも今後一層力を入れていくとのこと。いずれは一冊の本にまとめられたらいいなぁと語ってくれました(読むのが楽しみです)。
「これからの時代に必要なことは何かを自分なりに考え、企画に落とし込んでいます。早く形にしたい」ともワクワクしながら話してくれ、まちづくり・教育分野で新規しい計画も動き出しているそうです。

他者を原動力にする自分を少しずつ手放し、「心から『やりたい!』と思うことを選び取っていく」ことにシフト。自分自身が本当に望むことに素直になり、追求する。そんな風に心の舵を切り直した宮川さんの姿は、生き生きと輝いて見えました。
「失敗も成功も、誰のせいでもない。自分が選んだ先のことで、最高の学びになるんです。また、お金の流れだけ見ていたらわからない大切なことがこの社会にはたくさんある。社会の価値観に縛られず、自分たちで価値観をつくっていける世の中にしたい」。
これまで培った知見を他者に手渡しながら、自分自身もワクワクする挑戦を続けていく。宮川さんの目線の先には、「与えられた命を最大限活かして輝く人であふれる、美しく幸せなまち」という未来ビジョンがしっかりと据えられていました。
クリエイティブとブランディングの力で地域に愛の総量を増やし、みんなが自分ごととして「コト」に関われる環境を育む——その挑戦はまだ始まったばかりです。

HONE / 桜井

株式会社DEPOT
代表取締役 プランナー/クリエイティブディレクター
読書と対話のシェアスペース「TO-CHI」主宰
甲府まちなかエリアプラットフォーム 副会長
1987年山梨県甲府市生まれ。
「地元山梨をいい街にしたい!」とUターン就職の後、独立。DEPOTを設立。「社会を豊かにする仕事×クリエイティブな力」をコンセプトに、企画・コピー・ディレクションを軸にして総合的なブランディング支援をおこなう。

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