.png)
2026年1月9日(金)、兵庫県加古川市にあるワシオ株式会社の工場を訪れ、製造現場の見学と、代表の鷲尾岳さんへのインタビューをさせていただきました。
防寒インナーブランド「もちはだ」が生まれる現場と、その技術を守り続ける理由。
工場見学と鷲尾社長へのインタビューを通して、その背景にある哲学を紐解いていきます。
ワシオ株式会社 鷲尾式起毛とは?

最初に案内していただいたのは、鷲尾社長ご本人による「もちはだ」の生地に関する解説でした。
「衣服って、大きく分けて2種類あるんですよ。『織り』と『編み』。その違い、ご存じですか?」
「もちはだ」は、編み物(ニット)に分類されます。
シャツやスラ ックスなどに使われる「織り」は、縦糸と横糸を格子状に密に組み合わせて構成された、伸びない生地。しっかりと形を保ちたい場面や、パリッとした印象を求めるときに使われます。
一方、「編み」は、糸をループ状に絡めながらつくる構造。
セーターやスウェット、Tシャツ、そして「もちはだ」のようなインナー類に多く用いられており、伸縮性に富み、身体の動きに優しく寄り添います。
そして、最大の特徴とも言えるのが「起毛」です。
「起毛」とは、生地の表面をふわっと毛羽立たせて、より多くの空気を含むようにすることで、保温性や肌ざわりを高める加工。
冬用のスウェットや毛布、フリースなどにもよく使われている技術です。
もちはだの「起毛」は、一般的な製法と、ワシオの「鷲尾式起毛」では、構造も仕上がりも、まるで違うものでした。
あたたかさの秘密、鷲尾式起毛は「編みながら、横にとかす」

鷲尾式起毛とは?
通常、起毛は「編んだあと」に行われる工程です。
ローラーに無数の針がついた機械で、生地を縦方向に削るようにして毛羽立たせます。
それに対して「もちはだ」は、編みと起毛を同時に行う特殊な機構。
ワシオ株式会社では、創業者の発明を起点に、靴下用の丸編み機を独自に改造し、「編んでいるそばから、横方向に起毛する」という工程を可能にしました。
これは、唯一無二の技術です。
一般的な起毛が「針で引っかいて、繊維を切断する」のに対して、
鷲尾式起毛は、ループを壊さず、撫でるように掻き出すのが大きな特徴です。
この「横向きの毛足」が肌に面で触れるため、
・チクチクしない
・モフモフした感触が長持ちする
のだそう。
見た目でもわかる「ふわふわ」の起毛の秘密なのです。
この横向き起毛が重なることで、生地の中に2つの空気層が生まれます。

1層目:パイル(ループ)構造の内側にできる空間
2層目:その上に起毛で形成された、ふんわりした空気の膜
実は、空気はもっとも熱を伝えにくい物質だそうです。
これにより、体温だけで暖かさを保つ「魔法瓶のような構造」が完成します。
発熱ではなく保温。
化学的な反応で暖かくなるインナーとも異なり、「もちはだ」は身体が持つ熱を逃さず、優しく守ります。

「もちはだ」の源流。丸編み機を見せていただきました。

工場で見せていただいたのは、長年使い続けられている丸編み機でした。
年季の入ったその佇まいは趣すら感じさせますが、今もなお現役の製造機として活躍しているとのことです。
「もちはだ」の温もりは、この歴史のある機械と技術から生まれています。
現代の量産型編み機が、効率や柄表現の幅を広げる方向へと発展してきたなかで、
「もちはだ」の起毛技術は、あえてその流れには乗らず、技術と編み機を守りながら磨き続けてきました。
効率やデザインの自由度、量産性と引き換えに選んだのは、起毛の質と、着たときの体感、そして何より「あたたかさ」に真摯に向き合うことです。


社内には機械修理や改良の作業場があります。
もはやDIYの域を超えており、機械そのものが、もちはだ独自のものづくりと不可分な存在なのだそうです。
歴史ある機械において、修理や改良を加えるには、職人の手技がすべて。
この高いハードルを越えられるからこそ、「鷲尾式パイル起毛」という希少な技術が現場で継承されているのだと思います。
三代目社長・鷲尾岳さんが語る「覚悟」と「信念」
三代目社長・鷲尾岳さんは2016年に家業に戻られ、2024年に代表取締役社長に就任されました。
就任時、経営的には企業の存続そのものが危ぶまれる、予断を許さない状況にあったそうです。
しかし、創業から受け継がれてきた技術は本物で誇りがあるもの。
この価値を守るには、「自分がやるしかない」という強い想いが芽生えたのだとおっしゃいます。
就任されてから、楽天からの撤退や組織の改革正社員化なども実施されたそうです。
ものづくりの原点を見つめながら、問い続け、決断し、実行する。

鷲尾社長のお祖父様にあたる創業者の鷲尾邦夫氏の想いも、工場や職人の技術も、ブランドの哲学も、人のつながりもすべて自分の使命として引き受け、次の時代へと継いでいらっしゃる姿が印象的でした。
note:https://note.com/t_washio/n/ne74e3aa5c4ec
「もちはだ」はこの世にあった方がいい。

「もちはだは、この世にあった方がいい。」
鷲尾社長がふと語ったその言葉は覚悟に満ちたものでした。
創業者への最大のリスペクトであり、70年続く火を消さないという強い意志の継承でもあります。
鷲尾社長の言葉は、「今あるものを守ること」の尊さに気づかせてくれました。

