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九州・大分県の南端に位置する、人口わずか11人の島・深島。
「でぃーぷまりん深島」のオーナー、あべあづみさんは、この小さな島で家族とともに宿と食堂を営んでいます。
離島ならではの交通・医療・教育の制約。
「スローライフ」や「理想の田舎暮らし」といった言葉を超えて、あべさんの「深島をなくさない」という想いはどこから来たのでしょうか。
島の日常と、その先にある想いを取材しました。
でぃーぷまりん深島HP:https://fukashima.com/
深島とは?

深島(ふかしま)は、大分県佐伯市の南端・蒲江港から船で約30分の沖合に浮かぶ小さな離島です。島の面積はご く小さく、島民はわずか11人ほど。こぢんまりとした島ですが、人と自然、生きものたちが共に暮らす豊かな時間が流れています。
島には、コンビニや病院、商店、自動販売機はありません。
多くの猫が暮らしていることから「猫の島」としても知られています。港や集落の道沿いに猫たちが姿を見せる風景は、深島ならではの魅力のひとつです。

「初めて訪れたとき、不思議とここに住めるなって思ったんです。今思えば、その直感をずっと大切にしてきたのかもしれません。」
その今にたどりつくまでの道のりには、「生きること」へのまっすぐな関心と、「暮らし」の本質を探し続けた歩みを感じることができました。
「食べること」は「生きること」。

高校生の頃、あべさんは「食に関わる仕事」として管理栄養士を志していました。
けれど、あべさんのお母さまの「栄養士って、食べ物というより数字と向き合う仕事よ」というひと言がきっかけで、改めて自分にとって「食と向き合う」とは何かを考えるようになったといいます。
そこであべさんが選んだのが、生物生産学部。
水産・畜産・農村・食品といった多様な領域を、文理を越えて横断的に学ぶことができる学部でした。
広く学ぶうちに、特に興味を持ったのは「循環する暮らし」でした。
畑に種をまき、育て、収穫し、食べ、また土に還していく。そういった循環の中にある人の営みを、研究テーマに据えるようになります。
食べることに留まらない「生きること」は、あべさんの好奇心でもあるのです。
就職、そして、もう一度学び直したいという気持ち

大学卒業後は、生産者と消費者をつなぐ仕事に就かれます。
「もっと深く学びたい」という思いが強まり、進学したのが大学院。
そこで、取り組んだのが農村女性起業についてです。
農村女性起業とは、農村に住む女性が主体となって、地域の農産物や資源を活用し、特産品の加工・販売、農家レストラン、直売所運営などを行う経済活動のことです。
女性の経済的自立を促すだけでなく、生産者の視点と生活者の視点を活かして地域活性化や特産品開発、消費者との交流を深め、農村社会に新たな活力をもたらす活動も指しています。
深島の味噌づくりはまさに当てはまる事例です。
「農村女性起業」は、単に収入を得るための考え方ではありませんでした。
地域に根ざした暮らしの中から生まれる仕事、家事や子育て、畑や台所と地続きの営み。
その延長線上にある経済活動が、個人に生きがいを与え地域の小さな未来を支えるという視点なのです。
深島でのあべさんの姿は、まさにその実践に重なって見えます。
研究の中で初めて深島を訪れ、最初に「ここに住める」と感じ、このとき出会ったのが、現在のご主人です。
初めて出かけたのは「ヤギを引き取りに行く」ことだったとか。
ちょっと変わった、はじまりです。
暮らしと仕事を、分けずに生きる。


深島での子育てについて尋ねると、
「育ててるって感覚はあんまりないかも。勝手に育ってくれてる感じ(笑)」
とのこと。
4歳児も魚を一緒に捌いてくれたりする。
「やりたい」という気持ちが芽生えた瞬間にやらせてみる。自然とできるようになっていくのだそうです。
食卓のこだわりは、魚は切り身ではなく「姿」のまま出す。
料理は大皿で出し、家族と分け合って食べる。
そういった毎日の何気ない体験が、子どもたちの感受性を育てているのだと感じます。
島には病院も学校もありません。
子どもたちは毎日船に乗り学校へと通っています。
決して便利ではない場所ですが、海の恵みと空が近いこの環境は、感性を育てる最高の場所でもあると思います。
すべてが地続きの生活

「食堂で料理をしていても、子どもがおなかすいたって入ってきて、そのまま一緒に食べる。宿に泊まってくれたお客さんと一緒に夕飯を囲むこともあるし、畑で育てた野菜をそのまま出すこともあります。」
自然体な接客が、カフェや宿、深島の大きな魅力でもあります。
仕事と家庭、オンとオフ、そうした区切りをつけるのではなく、すべてがひとつながりの「生活」になっているのが、あべさんのスタイルなのです。
「この島をなくしたくない」

あべさんの「深島を残したい」という想い。
「自分が80歳とかぐらいになっても、ここが残ってたら、ばあちゃんたちがここで経験してきたことを、より長く経験できるわけじゃないですか。
おばあちゃんたちの後追いじゃないけど、それはしたいなって思っていて。」
自分が大切だと思えるものを、次の世代につなぎたい。
まっすぐで力のある願いです。
この島には、空がある、土がある、海の匂いがある。地球そのものを感じながら、深呼吸できる。
情報に溢れ、スピードの速い日々から少し離れて、自分を見つめ直せる。
その時間と空間が、深島という場所の価値なのだと思います。
あとがき

便利さから少し離れて、大切なものと向き合うこと。
あべさんが伝えたい暮らしは、人間も生き物だということを思い出させてくれるようです。
「好きだから残したい。深島をなくさない。」
シンプルな言葉に、背筋も伸び、そして優しい気持ちにもなりました。
あべさんは「起業家になろう」と構えて深島に立ったのではありません。
暮らしと在り方、「好き」という価値観を大切にした結果として、あとから立ち上がってきたのだと感じます。
語る姿の裏側には、医療機関もコンビニもない環境で暮らしを成り立たせる、決して容易ではない現実もあります。
「なくさない」という強い想いと、自然体で選び続けているのが印象的でした。
もし、この記事を読んで「深島ってどんな場所だろう」と感じた方がいたなら、ぜひ一度あべさんを訪れてみてください。深呼吸し、きっと生きる力にふれる時間になりますよ。
HONE/亀元

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