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山形県西川町にある、ちいさな名湯、海味温泉うなぎ湯。そこは単なる入浴施設ではなく、町の人々の暮らしと想いが溶け合う大切な場所でした。お湯を通じて見えてきた、地域ならではの濃密なコミュニケーションと、互いを認め合い共存するまちの在り方。便利さの影で見失いがちな、人と人との繋がりを考えました。
守り抜かれた地域の宝物

冬の寒さが身に染みる日、私は西川町の老人福祉センターへと向かいました。そこにあるのは、地元の方々に深く愛される海味温泉。豪華な設備はありませんが、扉を開けた瞬間に広がる温かな空気感に、どこか懐かしさを覚えました。
今でこそ町の人々を優しく包み込んでいる海味温泉ですが、その歴史を紐解くと、存続の危機に立たされた過去がありました。私自身、訪問に当たって調べるまで全く知らなかったのですが、元々は別の場所で営まれていたそうです。
町民に愛されていた名湯でしたが、昭和44年の大水害により一度は閉館を余儀なくされたといいます。そんな中、あの湯をもう一度、という地元の方々の熱い要望が実を結び、昭和55年に現在の場所で復活を遂げました。まさに、地域の声が形になった温泉なのです。

大人250円という驚くほど手頃な価格設定も、地域のための場所である証です。通称「うなぎ湯」と呼ばれるそのお湯は、浸かった瞬間に肌がツルツルになるのが分かります。
加温や加水によって40度ほどに調整された柔らかな湯は、体の芯までじっくりと温めてくれます。一回入ると、なかなか湯冷めしない。そんなお湯に浸かりながら、この場所が歩んできた時間に思いを馳せました。
筒抜けの安心感と距離

温泉に浸かっていると、地域の日常が顔を出します。身体を洗っていると、受付の方が脱衣所の扉を開け、湯船に浸かるおじいちゃんに声をかけました。「車内灯がついたままだよ」と。
誰がどの車に乗っているかが、ごく自然に共有されている光景に驚きつつも、どこかあたたかさを感じました。見守られているという安心感が、そこにはあります。
時にその近さを疎ましく思う瞬間があるかもしれませんが、誰かに認識されているという事実は、何物にも代えがたい温もりを私に与えてくれます。
町を作る仲間としての共存

西川町には3つの温泉がありますが、それぞれが独自の役割を持ち、町民に愛されています。そこには、限られたお客様を取り合うような殺伐とした空気はありません。むしろ、温泉という文化を守り、町を共に作っていく仲間として、穏やかに共存しているように見えます。
それぞれが自分の色を大切にしながら、手を取り合う。そんな理想的な関係性が、この小さな名湯からも透けて見えました。
地域活性化やまちづくりという言葉をよく耳にしますが、その根本にあるのは、こうした一人ひとりの顔が見える関係の積み重ねではないでしょうか。
特別なイベントを企画することだけが正解ではなく、日々の暮らしの中にある小さな挨拶や、湯船で交わされる何気ない会話の中にこそ、地域の「ほんと」が隠れています。自分の居場所があり、誰かに認識されている。その実感が、地域を支える確かな力になっているのだと感じます。
あとがき

画面越しでは決して味わえない、肌に触れるお湯と、何気ない挨拶の温かさ。それらは、私たちが忘れかけていた「生身の繋がり」を思い出させてくれます。
以前、町の理容店「キクチ」で髪を切ったときのことです。数日後、お世話になっているおばあちゃんから「キクチ行ったんだね。来てくれたって話しになったのよ。」と連絡が来ました。私の行動が、優しさを持って伝わっていく。イヤホンがワイヤレスになったこの時代に、人と繋がれることが、私は堪らなく嬉しいのです。
時に不便で、時に疎ましい。けれど、どこまでも温かい地域の輪に身を委ねてみる。そこには、忙しない日々で忘れていた繋がりがあるかもしれません。
HONEインターン/森
「ほねろぐ」とは
株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録しています。
いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。
町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。
忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。
気づけば、地方が近くなる。
現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。
株式会社HONEについて
HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。
大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこ と」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。
学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。
自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。
誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。



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