.png)
2026年1月20日、福岡県柳川市にて開催された、乗富鉄工所のオープン社員総会「柳川水門会議」に参加させていただきました。一般的に社員総会といえば、社員や取引先などに限定されたクローズドな場で行われることが多いものですが、乗富鉄工所ではこの総会を「オープン」とし、誰もが参加できる、ひらかれた場として実施されています。
当日は、代表の乘冨賢蔵さんをはじめ、プロジェクトリーダーの方々が登壇し、それぞれの想いや取り組みを真摯に語られました。
「水郷柳川」と乗富鉄工所の深い関係

今年の会は、北原白秋氏の詩に音楽を添えたオープニングと、乘冨社長のメッセージから始まりました。
「私の郷里柳川は、水郷である」
これは詩人・北原白秋が詩集『思い出』の序文に記した言葉です。
白秋氏はこの「水郷(すいごう)」を「すいきょう」と読んでいたとのこと。
あえて「酔狂(すいきょう)」という響きに重ねるような、柳川という町への独特な愛着と美意識がうかがえるエピソードでした 。
さらに白秋氏は「柳川は静かな廃市のひとつである」とも語っていたそうです。終わりゆくものの静けさに美を見出す感性に、乘冨社長自身も共鳴されたと語られました。
柳川の暮らしを支える、掘割と水門

観光地としての「川下り」で知られる柳川ですが、その背景には1000年以上にわたって受け継がれてきた人工水路「掘割(ほりわり)」の存在があります。市内に張り巡らされた総延長930kmに及ぶ水路網は、1,000基以上の水門と 、管理人によって維持されています。
特に有明海の潮汐差が激しいこの地域では、海水が内陸に入り込みやすく、水に恵まれた土地ではなかったのだそうです。
その課題を克服してきたのが、人の手で整備・維持されてきた水路システムであり、水門づくりでその中心の一部を担ってきたのが乗富鉄工所。
創業78年、水門づくりを通じて柳川の水と暮らしを守り続けてきました。
改めて地域の構造や歴史を調べていく中で、「農業と観光」「暮らしと遊び」「防災と自然環境」が水を介して共存していることに気づき、自社の果たしてきた役割を再認識したのだそうです。
一方で、老朽化したインフラと、職人・管理人双方の高齢化という課題。
乗富鉄工所でも、2017年から2020年にかけて職人の約4割が離職するという厳しい時期がありました。
「モノが作れる限り、この会社におるばい。」
離職者が続く中、ある職人社員の言葉。
乘冨社長はこの言葉が心に残り、職人を新たに「メタルクリエイター」という新たな呼び名を掲げ、一人ひとりの技術に光を当て始めたのです。
乗富鉄工所のものづくりのスタイルと職人の技術は、量産では得られない創造性を可能にしています。
それは水門に限らず、鉄という素材を使ったあらゆるモノにも応用可能な力なのです。
こうして、会社は水門事業に加え、アウトドア用品や家具などのプロダクトづくりにも挑戦を始めました。
社内では人事制度や組織体制にも見直しが行われ、「未来投資型人事制度」や「サポーター制度」など、社員の「やりたい」を起点にしたしくみが導入されていきます。
危機をきっかけに、自分たちの強みと可能性を問い直し、社内外にひらかれた会社へと進化を遂げていかれた、これまでの道のりの共有が、「柳川水門会議」の冒頭のメッセージでした。
乘冨社長のものづくりや技術に対する誇りと、これまでの歩みに対する敬意を感じたプレゼンです。
「やりたい」が起点になるプロジェクト
「柳川水門会議」は、こうした地域と会社の背景を踏まえながら、自社の今とこれからを社内外に共有 する場として開かれています。
9つのプロジェクトをご紹介します。
● これからの水門営業

提案型営業や同業連携による「セカンドファクトリー構想」など、新たな営業のあり方を提示。そして、全国の水門事業のモデルとなるような役割を担う意思表明だと感じました。
● ガーディアンプロジェクト

水門の遠隔化・省力化によって危険な作業や夜間対応の負担を軽減。
「作る」から「守る」への進化を目指します。会社の課題だけでなく社会全体の課題、人口減少に立ち向かいます。
「自分の仕事が地域を支えていると実感できるプロジェクトにしたい」という言葉が印象的でした。
● ノリノリプロジェクト

職人技を暮らしの中に届けるべく、アウトドア用品や家具などの製品を全国へ展開。今後はECや海外市場にも挑戦し、より多くの人に届けるブランドへと進化します。
質の高いものづくりと、それを広く届けることで生まれる暮らしの価値。その両立を目指す新たなブランドづくりの姿勢は、挑戦と創造による新たな価値の創出にもつながっています。
● ツクルフェス/TOMARIGI

体験型イベント「ツクルフェス」と、誰もが立ち寄れる焚き火会「TOMARIGI」。
柳川で何かやりたいな、そんな一声から始まった焚き火や地域イベントは、会社の取り組みを象徴するイベントに進化しています。
入りやすさや伝わり方を検証し、次の展開へつなげる準備が進められ、新たな価値が楽しみです。
● 水上ステージ構想


掘割の上を自由に移動・連結できる水上ステージを開発。
観光協 会との連携で、柳川の新たな観光体験づくりに挑戦されています。会場近くでは、実物ステージを間近で見ることができました。
● 古民家カフェプロジェクト

築80年の古民家を活用したカフェを拠点に、建築プロダクト、観光、まちづくりを横断する取り組み。2026年12月の開業を目指しています。
お店作りも社員のみなさまで取り組まれ、「場」づくりや柳川に足をはこぶ目的地となる取り組みだと思います。
● DX・情報共有

kintoneや生成AIなどを活用し、現場起点での業務改善を推進。人ありきのDXとして、組織の下支えとなる基盤づくりが印象的でした。
● 未来投資型人事制度

「やりたいを叶える」を軸に、これからの挑戦に対して給与が決まるユニークな制度。
役職の廃止やサポーター制度など、組織文化にも変化が表れています。
今回の「オープン」と社員一人一人にスポットライトを当て一人一人にリスペクトしあう企業姿勢を感じます。
● クラフトプレス

「やりたいことなんてない」という違和感から出発し、「やりたいはどこから生まれるのか?」を探るリサーチプロジェクト。今後は一冊の本としてまとめられる予定です。
「やりたい」を大切にされる乗富鉄工所ならではの実現。社内外の方へのインタビューとして本は作られるとのことで、とても楽しみです。
「OPEN THE GATE」 ひらかれた会社へ

発表を終え、乘冨社長からの最後のメッセージ。
「未来をつくるのは、誰かのやりたい、だと思っています。やりたいことは、どこからともなく湧いてくるものではなく、誰かとの出会いが生むもの。今日ここに来たことが、誰かのやりたいにつながれば嬉しいです。」
乗富鉄工所の「OPEN THE GATE」は、社員だけでなく地域や社会、未来の仲間にも開かれた会社を目指す宣言です。
当日は、学生や行政関係者、地域住民など 多様な参加者が集まり、真剣な眼差しと空気に包まれていました。
おわりに

柳川という土地の歴史と、それを支えてきた会社の人と技術。未来をつくろうとする乗富鉄工所のみなさんの姿に、深く胸を打たれました。
冒頭で紹介された「水郷=すいきょう=酔狂」という読みには、この町と会社の在り方に対するユニークさと歴史が重ねられているように感じます。
水に恵まれていない土地を、人の力で1000年以上守り続けてきたという背景は、酔狂とも呼べる情熱に支えられているのだと思うのです。
職人を「メタルクリエイター」と呼ぶようになったこと、やりたいことに光を当てる人事制度の導入。
「呼び名を変える」「言葉をだす」ことで、役割や仕事に新しい意味も生まれます。
制度の以上に、人の存在や意志を尊重する姿勢が会社や社会をよりよくする力になっているように思います。
このオープン社員総会という取り組みは、参加者にとっても、歴史を知り、愛着や誇りを育むきっかけとなるものでした。
まちと会社の歴史、そしてそこに関わる人の想いが重なり合う「柳川水門会議」。
「やりたい」から始まる未来に、誰もが参加できる。このオープン社員総会は、その可能性を体現する場でした。
乗富鉄工所のみなさま、ありがとうございました。
HONE/亀元

.png)
.png)
.png)