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2025年9月5〜6日、福岡県田川市にある「いいかねpalette」を訪れました。
この訪問は、ローカルプレイヤーズの活動フィールドワークで、現地の空気や人の声を拾い上げることを目的としています。
「いいかねpalette」は、単なる「廃校活用」ではありませんでした。
呼吸するように変化を続け、関わる人のやりたいことを肯定し続ける、学校の形をした生命体のような場所でした。
こうたろうさんよりお話を伺いました。(https://x.com/koooootarooooo5)

廃校と地域の未来


現在、日本では年間400〜500校のペースで学校が廃校となっており、その背景には過疎化・都市集中・高齢化など、社会全体の人口構造の変化があります。
2002〜2015年にかけて、全国で6,800件を超える廃校が発生し、そのうち約8割は活用 されないまま放置されていると言われています。
近年は再活用事例も増えつつありますが、公民館や物置としての転用にとどまり、地域や社会に新たな経済や文化の循環を生む生きた場として再生している例は、決して多くありません。
田川という町のリアル


福岡県田川市もまた、かつて筑豊炭田で栄えた鉱山の町でした。
最盛期には人口10万人超を誇ったこの町も、エネルギー革命による炭鉱の閉山以降、急激に人口減少が進行。現在は約4.4万人。
現代は、多くの地方で雇用や教育機会、職業選択肢の少なさなど、構造的な課題を数多く抱えています。
廃校となった「旧猪位金小学校」を活用して誕生したのが、いいかねpaletteです。
「いいかねpalette」とは?

いいかねpaletteは、旧・猪位金小学校をまるごとリノベーションして誕生した、複合型クリエイティブスペースです。
音楽スタジオ・宿泊施設・食堂・コワーキング・イベントホール・シェアハウスなど、さまざまな機能が一体となり、全国から訪れる若者や表現者、地域住民が交わる「開かれた校舎」として日々進化を続けています。
運営するのは、株式会社BOOK(代表取締役:青柳考哉さん)。
行政からの指定管理などを受けずに、耐震補強・消防基準・用途変更など、商業施設として必要なハードルをすべて自社で動いてクリアしたうえで、多機能な場づくりに挑まれています。
多機能クリエイティブスペース

それぞれの施設は、訪れた人や関わる人の「やりたい」から始まり、今も変化を続けています。
それぞれの機能や空間は、訪れる人や関わる人の「やりたい」から始まり、変化を続けています。廊下にはアートがたくさんありました。
シェアハウス(住居スペース)

宿泊者の「ここ、住めますか?」という一言をきっかけに始まったのがシェアハウスの長期滞在の仕組みだそうです。
現在約20名が居住中。住民票の登録も可能で、短期滞在から長期の地域関わりまで、多様なスタイルで暮らせる場所となっています。
おいとま食堂(給食室)

元・給食室を改装して生まれた食堂。看板メニューはチキン南蛮。黒を基調とした店内は自然光を活かし、独特なコントラストが魅力の空間です。スタッフ主導で立ち上げられ、今ではいいかねpaletteを象徴する場所のひとつとなっています。
シェアライブラリ(コワーキング・多目的スペース)

元ランチルームを活用した、開放的な空間。コワーキング・読書・団らん・イベントなど、用途は自在。貸切イベントやライブ、マルシェ、セミナーなどにも活用され、訪問者の数だけ使い方が広がる自由なスペースです。
滞在者が自由に行き交い、会話ができる空間でした。
話を誰も否定しない、ウェルカムでいつ離れてもいいという距離感が良いという滞在者の声を聞きました。
ドミトリー(宿泊スペース)

校長室だった部屋を活かした宿泊施設。木製のバンクベッドや共用スペースを備え、ミニマルかつ気軽に滞在できる空間を提供されています。
コントロールルーム
コントロールルームでは「COTEN RADIO」の収録も過去にも行われており、本格的な収録環境としても活用されています。
※現在は福岡市内のスタジオにてラジオ収録をしています。
いいかねpaletteで行われていること
他にも、
シェアハウス住民から田川市議会議員が誕生
地元の人と宿泊者による即興イベントや交流会
誰かの熱量が火種となり、新たなコンテンツや関係性が自走的に生まれていくこの場所は共創型の実験場です。
「なんでもできる」学校という生命体
この場所を歩いて感じたのは、いいかねpaletteはもはや施設ではなく、学校の形をした変化し続ける生命体だということ。
飲み込んで吐き出して、いつ行ってもいつ出てもいいよ、という空間です。
広い学校内での共同生活は、「共同」と「個」が溶けている空間、と滞在者は言います。
廃校の跡地に、人々のやりたいが注ぎ込まれ、
音楽、アート、ビジネス、教育、などの活動ができる場所です。
ここには、「やってみたい」を受け止めてくれる空気があります。
働かれている方も口を揃えておっしゃっていました。
関わる人の数だけ、学校の姿が変わっていく有機的な場がありました。
田川にある意義
今回、長期滞在者、スタッフの皆様、そして代表の青柳さんにお話を伺いました。
「ここにいると、いろんな人と出会える」
「常に変化していて、なんだここは!ってなる」
「多様性を大切にしている」
それぞれの言葉からも、この場が単なる施設ではなく、人の人生や価値観に影響を与える環境そのものであることが伝わってきました。
そして、代表の青柳さんの言葉も心に残っています。
「福岡市内でやるほうが、収益面ではうまくいくことは分かっている。 でも、自分たちは田川でやる意味があると思っている。」
「田川でこそやる意味がある」と語る青柳さんの言葉。青柳さんの母校でもあります。
地域の課題に正面から向き合いながら、関わる人のやりたいことが共鳴し、新たな価値が生まれていく。
いいかねpaletteは、ただの廃校再利用ではなく、未来をつくる生きた場所でした。
これから地域との交わりで、新たな変化をしていくことでしょう。
HONE/亀元梨沙子

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