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山形からの帰り道、ぶらりと立ち寄った神奈川県湯河原の町。長旅の疲れで、早く帰りたい気持ちがありつつも、このまま日常に戻るのが寂しくもあり。そんな時、吸い寄せられるように向かったのが、万葉公園のすぐ隣に佇む「こごめの湯」でした。
湯に向かう道中の案内板で、この地が「万葉集」にも詠まれた関東最古の温泉地であることを知り、私の胸は一気に高鳴りました。そんな歴史ある町で、大きなバックパックを背負った私が触れたのは、単なる観光では得られない、心温まる「まごころ」でした。
関東最古の湯と恋の歌

湯河原温泉は、1300年以上の歴史を持つ関東最古の湯。その名は「万葉集」にも刻まれています。「足柄の土肥の河内に出づる湯の」と、河原にこんこんと湧き出る湯の姿を、揺れ動く恋心に例えて詠んだ歌。
かつてこの地を訪れた古代の人々も、今私が見ているのと同じ湯気を見つめていたのでしょうか。歴史の重みを知ると、ただの入浴が特別な体験のように感じられます。万葉の時代から絶えることなく、この土地は訪れる人の心を潤し続けてきたのです。
(湯河原温泉は、神奈川県南西部、箱根の隣に位置する歴史ある温泉郷です。他にもたくさんの温泉があります。)
狸が繋いだ、命を癒す物語

ここには、怪我をした狸を助けた猟師が、そのお礼にと温泉へ案内されたという伝説が残ります。実際に湯船に浸かると、その滑らかな弱アルカリ性のお湯が肌を包み込み、強張った体がゆっくりと解けていくのが分かりました。
伝説の狸が伝えたかったのは、単なる効能だけではなく、誰かを想う優しさがもたらす安らぎそのものだったのかもしれません。湯気に揺られながら、狸が導いたという太古の記憶に、現代の私の疲れもそっと預けてみました。
受付のおばちゃんと100円

実を言えば、立ち寄るか迷っていたのです。けれど、受付のおばちゃんがかけてくれた「どこから来たの」という一言で、その迷いは消えました。旅の土産話をしながら1100円を出すと、「お兄ちゃん、これで割り引いてあげるね」と100円とクーポンをくれたその手。
その温かさに、湯船に浸かる前からのぼせそうでした。土地の歴史を誇りながらも、目の前の旅人を家族のように迎え入れる。その体温こそが、湯河原という町が長く愛されてきた真の理由なのでしょう。
管理人が誇るこごめの湯

この素晴らしい体験を記事にしたいと思い、管理人の方にその旨をお願いしました。すると、「ここのお湯はすごく良いからね。それを書いてよ。」と誇らしげで、それでいて快い笑顔で応じてくださったのです。
その言葉の通り、湯船に満ちる41度のお湯は、体の芯までじっくりと熱を届けてくれます。特に露天風呂の開放感は格別で、湯河原の柔らかな風を頬に受けながら浸かる時間は、まさに至福のひとときでした。

お湯から上がった後も、体のポカポカとした温かさがいつまでも消えません。それは単なる物理的な温度ではなく、管理人の方がお湯に込めた愛情や自慢が、肌を通して伝わってきたからではないでしょうか。
自らの土地にあるものを信じ、胸を張って「良いものだ」と言い切る姿勢。その潔さと温かさに触れ、私の心は湯上がり以上に清々しい充足感で満たされました。
あとがき

地域の魅力とは、立派な建物や有名な観光スポットだけではありません。重い荷物を見て声をかけてくれる優しさ。そんな「人の温度」が混じり合った瞬間に、私たちはその土地を好きになるのだと改めて教わりました。
湯河原の坂道を下りながら、私のバックパックは来た時よりもずっと軽くなっているような気がしました。たぶん私は、またここに来る。湯河原の街を歩きながら、万葉の歌に想いを馳せ、再訪を心に誓う夕暮れでした。
HONEインターン/森
ほねろぐとは
AIの急速な台頭により、私たちの世界は、目紛しい変化を遂げています。効率化が進むその影で、古きよき日本の文化や風景、人との繋がりが失われつつあるのも、悲しい現実です。
そんな時代だからこそ、我々株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録します。
いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。
町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。
忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。
気づけば、地方が近くなる。
現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。
株式会社HONEについて

HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。
大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。
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自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。
誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。




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