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職人の価値を「価格」に宿す。和菓子屋の誇りと覚悟。【菓匠風月(茨城県日立市)】

公開日:

2026年2月25日

最終更新日:

2026年2月25日

職人の価値を「価格」に宿す。和菓子屋の誇りと覚悟。【菓匠風月(茨城県日立市)】

2026年2月22日23日、エスパルスドリームプラザにて開催された「第1回SHIZUOKAあんこまつり」に行ってきました。


初開催されたこのイベントは、県内外から30店舗以上のあんこスイーツが集結し、伝統的な和菓子から現代的なアレンジメニューまで、あんこの魅力を再発見する熱気に包まれた二日間となりました。


私は今回、茨城県から出展された「菓匠風月」さんの接客お手伝いとして、現場の最前線に立たせていただきました。甘い香りに包まれた会場の裏側で交わされていたのは、これからの地方、そして職人が生き残るための、切実で情熱的な「価値」を巡る2日間でした。


【菓匠風月】

茨城県日立市十王。この地で三代にわたり暖簾を守る「菓匠風月」は、伝統の技と革新的な感性を併せ持つ和菓子処です。三代目の藤田浩一さんは、和菓子を「笑顔の連鎖と循環」を生むきっかけと捉え、日々菓子作りに精進されています。特に、万葉の時代から続く栗の産地、茨城が誇る最高級の栗「飯沼栗」を贅沢に使用した羊羹は、職人の執念とも呼べるこだわりが詰まった逸品。今回はそんな菓匠風月さんの想いと、現場で感じた「商い」の真髄に迫ります。





職人の価値を正しく「価格」に宿す


万羊羹 常陸
万羊羹 常陸

茨城県日立市十王の地で三代続く「菓匠風月」。その三代目である、藤田浩一さんの姿を隣で見ながら接客をしていた私は、一万五千円を超える「万羊羹 常陸」が、お客様の手に渡っていく光景に、驚きを隠せませんでした。


「万羊羹 常陸」は、栗羊羹でありながら、商品の八割が栗という贅沢な商品。それも、国内流通わずか0.2%という、八軒の農家しか作れない「一毬一果(いっきゅういっか)」の飯沼栗を十一粒も閉じ込めた一品です。一毬一果とは、一つのいがに一つの実がなることを意味し、これによって大粒の栗が育ちます。


接客の合間、藤田さんがふと漏らした言葉が、私の胸に深く突き刺さりました。「職人は、自分の価値を低く見積もりすぎている。技術をきちんと価格に組み込まなければいけないんだ」。


接客中の桜井
接客中の桜井

その言葉は、ただ高く売りたいという私欲ではなく、伝統を守り続けるための覚悟の現れです。和菓子は古来より「五感の芸術」と呼ばれ、四季の移ろいや人の想いを形にしてきました。


しかし、その繊細な技術や仕込みの労力が、これまでの地方では「安さ」という波に飲み込まれがちだったのも事実です。藤田さんは、自らが作る和菓子をきっかけに、お客様、生産者、事業者が皆利益を分かち合える「笑顔の連鎖と循環」を目指すと掲げています。


その循環を止めないためには、職人が自身の技術に誇りを持ち、それを正当な対価へと変えていく覚悟が必要なのだと、教えてくれました。



比較が生み出す「思考のスイッチ」


試食の様子
笠間栗と飯沼栗の試食

接客の現場で非常に興味深かったのは、二種類の栗羊羹を比較できる試食の場でした。


「笠間栗」を使用した羊羹は、あんこの甘さが控えめに作られており、あっさりした栗本来の風味や食感をダイレクトに楽しめる仕上がり。私自身、この栗の存在感が際立つ味わいがとても好みでした。


一方で、目玉である「飯沼栗」の羊羹は、大きな栗の存在感はもちろん、あんこに栗蜜が含まれており、うっとりするような上品な甘さが広がります。


万羊羹の種類
万羊羹の種類(菓匠風月さまInstaより流用)

この二つを食べ比べることで、お客様はあんこという素材の持つ奥深さを、言葉ではなく舌で理解していました。


そして何より面白かったのが、食べ比べを体験した瞬間、お客様の脳内が「買うか買わないか。」という検討から、「どちらの味がより好きか。」という選択の思考へと切り替わっていたことです。


二つの価値を並べて提示し、それぞれの物語を伝える。そのプロセスが、お客様の納得感を高め、購入への心理的なハードルを軽やかに飛び越えさせていく様子を目の当たりにしました。



守るための「削る」という勇気


あんこまつりのぼり
あんこまつりのぼり

一方で、弊社代表の桜井は、藤田さんと対話する中で、ブランドマネジメントの本質的な難しさについて話してくれました。


技術やこだわりを頑なに守ることは尊い。けれど、それだけでは現代の荒波を乗り越えることはできない。生産量、流通の形、誠実な素材選び。それらに合わせて形を変えていく勇気もまた、ブランドを存続させるためには不可欠なのです。


1日目の様子
1日目の様子

「どこまでを絶対に譲れないものとして大切にするか。そして、どこを時代に合わせて削る選択をするのか。これが一番難しく、それでいて最も意義のある、大変な仕事なんだ」。桜井のその言葉は、地域ブランドの伴走者としての実感を伴っていました。


何を捨て、何を残すのか。その苦渋の決断の連続こそが、単なる「老舗」を「ブランド」へと昇華させます。一毬一果の栗を育てるために、「飯沼栗」のブランドを守るために、厳しい生産管理をし、数量を制限する農家の姿は、まさに経営における「選択と集中」そのものでした。


藤田さんがこだわり抜いた栗羊羹が、一万五千円という価格を越えて誰かの宝物になる瞬間。それは、職人の誇りと、経営の決断が、お客様の満足と見事に一致した時間だったのだと思います。



あとがき


    パルちゃんに接客する桜井とインターン森
パルちゃんに接客する桜井とインターン森

「今日だけで終わっちゃうんじゃないですか?」と驚いたあの瞬間、私は現場の熱気の渦中にいました。1日目にして、2日分の売上目標を達成してしまったのです。教科書の中のマーケティングは冷たくて綺麗だけれど、催事場のそれはもっと熱くて、複雑で、人間臭いものでした。


藤田さんのような職人が抱く葛藤や、桜井の言う「削る選択」の大変さを目の当たりにして、結局、人はモノを食べているのではなく、その奥にある「納得」と「物語」を食べているのだと強く感じました。


「おバカ大学生」なりに必死に動き、観察して、考えた二日間。和菓子に無限の可能性を感じると同時に、自分たちがこれから何を伝えていくべきか、そのヒントをいただいた気がします。これからも地域と向き合っていきたい。そう心に刻んだ、春の柔らかな日差しと、少しばかり目に痒みを感じた二日間でした。


HONEインターン/森



ほねろぐとは


AIの急速な台頭により、私たちの世界は、目紛しい変化を遂げています。効率化が進むその影で、古きよき日本の文化や風景、人との繋がりが失われつつあるのも、悲しい現実です。


そんな時代だからこそ、我々株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録します。


いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。


町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。

忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。


気づけば、地方が近くなる。


現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。



株式会社HONEについて


HONEの流儀
HONEの流儀

HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。

大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。


学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。

自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。

誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。

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