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地元民と観光客が、肩を並べて語らう夜。静岡おでん街「幸多路」の魅力。【静岡県静岡市】

公開日:

2026年5月31日

最終更新日:

2026年5月31日

地元民と観光客が、肩を並べて語らう夜。静岡おでん街「幸多路」の魅力。【静岡県静岡市】

2026年5月26日、地元である静岡県静岡市の、青葉おでん街「幸多路」を訪れました。


その日は突然、島根県の離島・隠岐島に住む友人から電話がありました。「今夜、静岡のあたりを通るんだけど、一緒に夕食でもどう?」という思いがけないお誘い。


嬉しさと、あまりにも突然の出来事に、どこへ案内しようかと頭を悩ませます。たどり着いた結論は「静岡おでん」。そして、この選択こそが、その夜を素晴らしい時間へと導く、最高の答えになったのです。



静岡市民のソウルフード「静岡おでん」


青葉おでん街
青葉おでん街

静岡おでんの歴史は古く、そのルーツは大正時代まで遡ります。当時は廃棄されていた牛すじや豚のモツを利用し、じっくりと煮込んで提供したことが始まりとされています。さらに、黒はんぺんなどの独自の具材が定着し、この地ならではの豊かな食文化が形作られる、大きな要因となりました。

おでんといえば、昆布や鰹節をベースにした、透明な出汁が一般的です。

静岡おでんの最大の特徴はその「真っ黒い出汁」にあります。

これは、牛すじの旨味と濃口醤油だけでなく、黒はんぺんから出る出汁、そして何より、お店がスープを捨てずに毎日継ぎ足し続けることで生まれます。戦後は青葉公園通りに200台もの屋台がひしめき、その圧倒的な活気から「無敵艦隊」とも呼ばれていました。昭和43年の都市開発によって屋台は撤去されましたが、その情熱と伝統は現在の「青葉おでん街」や「青葉横丁」へと引き継がれ、今もなお街の灯りとして親しまれています。

(参照:静岡新聞SBSオフィシャルサイト「アットエス」より)



「青葉おでん街」の魅力


幸多路 女将 黒田利子さん
幸多路 女将 黒田利子さん

JR静岡駅北口から歩くこと約10分。

煌々と灯る赤提灯を目印に路地へ一歩足を踏み入れると、そこには昭和レトロな風情が色濃く残る「静岡おでん」の聖地が広がっています。

陽が沈み始めた17時過ぎ、20軒ほどの小ぢんまりとした店舗が次々と暖簾を掲げます。看板メニューのおでんは、1本150円からという手頃な価格設定も魅力です。

しかし、青葉おでん街が人々に愛される理由は、単なる味覚の満足に留まりません。限られた空間だからこそ生まれる、店主や隣り合った客同士の自然な交流。肩を寄せ合いながら言葉を交わすひとときこそが、この場所の真髄といえます。そんな、一期一会の温かいコミュニケーションと、心地よい時間が、訪れる人の心を解きほぐしてくれます。



偶然を必然に変える、空間の魔法


多くのお店が並ぶおでん街で、私たちが暖簾をくぐったのは、弊社代表の桜井も行きつけの「幸多路(こうたろう)」です。私たちが座ったのは、L字型に囲むカウンターの一番奥の席。実は、この場所が最高の特等席だったのです。


幸多路 メニュー
幸多路 メニュー

お酒を注文すると、女将さんから「そこの冷蔵庫の2段目の真ん中から取ってね」と声をかけられました。そうなのです。この奥の席に座った者は、自動的にその夜の「お酒取り出し係」に任命されます。

自分の分はもちろん、新しく入ってきたお客さんの注文に応じて、冷えたビールを取り出しては手渡していく役割です。事情を知っている常連さんはあえて入り口近くに座りますが、この偶然の役割が、お店の中に心地よい連帯感を生み出していきます。



幸多路 お酒
幸多路 お酒

「お兄ちゃん、悪いんだけど、2段目の赤星を一本くれる?」


そんな会話をきっかけに、見ず知らずの人たちの間で自然と会話が弾み始めます。大きなひとつの食卓を囲んでいるかのような温かい空間の中で、地元の方も、遠方から来た観光客も、親戚のようになじんでいく。これこそが、訪れた人々が瞬時にそのブランドのファンになってしまう、独自の顧客体験なのだと感じました。



独自のらしさが織りなす、味の記憶


静岡おでん
静岡おでん

静岡おでんといえば、真っ黒な濃口醤油の味わいを想像しますが、ここ幸多路のスープには醤油が使われていません。牛すじ、焼津産の厚切り鰹節、そして昆布から丁寧に引いた出汁のみでじっくりと煮込まれています。


周囲の多くのお店とは一線を画すこのこだわりが、幸多路ならではの「らしさ」であり、人々の記憶に刻まれているのです。女将さんから取り分けてもらったおでん。そして、ここに目一杯振りかけるは、卓上に置かれた静岡ならではの「だし粉(魚粉)」。



卓上のだし粉
卓上のだし粉

だし粉とは、イワシやサバなどの削り節を細かく粉末状にしたもので、旨味と風味が凝縮された万能調味料です。友人が「美味しい」と顔をほころばせる姿を見て、私まで誇らしい気持ちになりました。地元の味を褒められるのは、やはり格別です。


そのまま常連さんたちと話していると、「黒はんぺんは、おでんもいいけれど、やっぱりフライを食べなきゃね」という話題に移りました。地元の人間はそのままわさび醤油で刺身として食べることも多いのですが、外から来た方に強くおすすめしたいのがフライなんです。



黒はんぺんフライ
黒はんぺんフライ

そこへ、出張で神奈川から来られたというお客さんも加わり、みんなで揚げたての黒はんぺんフライをいただくことになりました。幸多路では、大阪の串カツのように、ソースをひたひたに浸して提供してくれます。


パン粉をまとった衣はカリッと、中はふわっとした食感。その絶妙な食感に、友人も神奈川のお客さんもすっかり虜になり、すぐにおかわりを注文していました。私たちが声をかけなければ、きっと出会わなかったであろう一皿。体験の共有が、その場所の価値をさらに高めていきます。



幼少期の記憶と重なる、おでん街が愛され続ける理由


幸多路 人気メニュートップ5
幸多路 人気メニュートップ5

静岡の人にとって、おでんは単なる料理ではなく、幼少期の思い出と直結している風景です。

私自身、小学生の頃の帰り道に近所の駄菓子屋へ立ち寄り、顔馴染みのばあちゃんにおでんを奢ってもらった記憶が、今も鮮明に残っています。時代とともにそうした場所は少なくなってしまいましたが、あの頃に感じた「地域の人の温かさ」や「人と繋がる心地よさ」を、現代において最も純度の高い状態で再現しているのが、このおでん街という空間です。


単に「美味しいおでんを提供する」という機能的な価値だけでは、ここまで強い愛着は生まれません。奥の席に座った瞬間に始まる「お酒取り出し係」という役割や、そこから生まれる初対面同士の緩やかな会話と連帯感。

そうした体験の一つひとつが、温かな記憶として残っているのです。


この濃厚な体験の積み重ねが、おでん街そのものを特別な存在にしています。そして、人とのつながりを求める瞬間に自然と思い出される場所になっているからこそ、「また行きたい」という気持ちが何度も生まれるのだと思いました。



おでんを取り分けてもらう様子
おでんを取り分けてもらう様子

何か嬉しいことがあったとき、あるいは出張帰りに少し寂しさを覚えたとき。人恋しさを感じた瞬間に「あのおでん街に行けば、誰かが温かく迎えてくれる」という記憶が、人々の頭の中に瞬時に浮かび上がります。


実店舗での飲食という限られた接点でありながら、そこで交わされる濃厚なコミュニケーションや、一度訪れたら忘れられない女将さんの人柄が、強力な資産となり、人々の選択肢の最上位に君臨し続けているのです。



あとがき


同席したみんなで
同席したみんなで

見ず知らずの人同士が自然と肩を寄せ合い、お酒を回し、美味しいものを分かち合う。そんな特別な時間が、幸多路には当たり前のように流れていました。


ただ美味しいものを食べるだけでなく、その空間にいる全員でひとつの夜を作り上げていくような一体感。それこそが、地方のお店が持つ本当の豊かさであり、私たちが守り、伝えていきたい価値そのものです。友人を送り出した帰り道、私の心は、おでんの出汁のようにじんわりと温かい幸福感で満たされていました。



<店舗情報>

住所 :静岡市葵区常磐町2-3-6 青葉おでん街

T E L : 090-3388-3306

営業時間 :17:00~23:00

定休日 :水曜日

決済方法 :現金



HONEインターン/森




ほねろぐとは


AIの急速な台頭により、私たちの世界は、目紛しい変化を遂げています。効率化が進むその影で、古きよき日本の文化や風景、人との繋がりが失われつつあるのも、悲しい現実です。


そんな時代だからこそ、我々株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録します。


いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。


町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。

忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。


気づけば、地方が近くなる。


現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。



株式会社HONEについて


HONEの流儀
HONEの流儀

HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。

大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。


学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。

自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。

誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。

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