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缶を愛するすべての人へ。歴史と魅力が詰まった、老舗缶屋の美しき社史。【側島製罐_愛知県大治町】

公開日:

2026年6月15日

最終更新日:

2026年7月10日

缶を愛するすべての人へ。歴史と魅力が詰まった、老舗缶屋の美しき社史。【側島製罐_愛知県大治町】

私たちはなぜか、無造作に置かれた缶を開けるとき、宝箱を開けるような小さな高揚感を覚えます。中に何が入っているのか。なぜ、ただの容器に過ぎないはずの缶に、これほどの記憶や情緒が宿るのか。


その魅力をあらためて見つめ直しているのが、明治39年(1906年)創業の老舗缶メーカー・側島製罐(そばじませいかん/愛知県大治町)の6代目代表、石川貴也さんです。


120年の歴史を背負うアトツギである石川さんは今、クラウドファンディングを通じて社史を書籍化し、広く一般に届けるという、従来の社史のあり方を問い直す挑戦に身を投じています。


缶愛好家はもちろん、「ものを慈しむ文化」を大切にするすべての人々にとって、なぜこの一冊が必要とされるのか。その核心に迫るべく、石川貴也さんへのインタビューから、プロジェクトに込められた想いを紐解いていきます。



側島製罐120周年社史プロジェクト


社史 側島製罐
社史 側島製罐

今回の、120周年を記念したプロジェクトで制作された書籍『側島製罐』は、関係者に無料で配って終わるような、「内輪の記録」ではありません。お金を出してでも読みたくなる、社外に開かれたオープンヒストリーとしての社史を目指して作られました。


本のページをめくると、そこには一企業の枠を超えた、缶好きのためのファンブックのようなワクワクする世界が広がっています。


  • 勤続70年の名物職人・松永さんの工作室の紹介

  • グラフィックデザイナー・原研哉氏との「缶の魅力」を巡る対談インタビュー

  • 見ているだけで楽しい「缶の図鑑」

  • マニアックな豆知識や社内用語辞典


「社史を売るなんて無理だ」と言われながらも、スタートしたクラウドファンディングは、開始わずか2週間で目標の200万円を達成。この書籍を一過性の流行で終わらせず、「一つの文化的事象」へと昇華させていく。その強い意志のもと、現在は「1000人に届ける」ことを目標に、「支援総額1000万円・1000人のプロジェクト参加」という、ストレッチゴールに向けて邁進されています。


120周年記念のエンボス缶
120周年記念のエンボス缶

また、ストレッチゴール達成で、参加者全員に120周年を記念した、エンボス缶が贈られます。




蓋を閉じることで生まれる、缶の「神秘性と安心感」


今回の社史には、日本を代表するグラフィックデザイナー・原研哉さんとの対談も収録されています。


原研哉(はらけんや)さんは、日本を代表するグラフィックデザイナーです。日常の既製品を新鮮な視点で見つめ直す「RE-DESIGN(再デザイン)」の思想を提唱し、長野五輪や愛知万博などの国家プロジェクトも数多く牽引。ものづくりの必然性を射抜くデザイン哲学で、国内外から高い評価を得ています。


対談の中で、石川さんは原さんのある言葉に深く頷いたといいます。原さんは、缶のような入れ物の神秘について、その起源から話し始めます。


もともと、何かをすくうだけの器があって、でもある時、誰かが「蓋」というものを発明した。中身が見えなくなった瞬間、「中には何が入っているんだろう」という神秘的なものになった、というようなことを原さんは仰るんです。


側島製罐のラウンド缶
側島製罐のラウンド缶

さらに石川さんは、日本の気候が生んだ「保存性の高さ」が、もう一つの情緒を育てたと付け加えます。


日本は高温多湿です。卒業証書ひとつ取っても、そのまま置いておくと湿気でふにゃふにゃになり、乾燥すると縮んで傷んでしまいます。湿気や光などから、中身を守ってくれる高い保存性が、私たちに「この中に入れとけば大丈夫」という圧倒的な安心感を与えてくれると、石川さんは言います。


だからこそ、人はそこに大切なものを託したくなる。最適化された現代の収納容器には出せない、あの“謎の宝箱感”は、歴史と文化の刷り込みが生んだストーリー性なのかもしれません。


実際、石川さん自身も実家に帰省した際、学生時代の手帳や昔の定期券が乱雑に入った缶を見つけ、「こんなこともあったな」と愛おしく振り返る体験を持っていました。当時は宝物だなんて思っていなかった、ただの日常のかけら。それが数十年後、世界にひとつの「宝物」になります。それを受け止める器こそが、缶なのです。



100年かけて磨かれた“アール”の丸み


側島製罐オフィス玄関口
側島製罐オフィス玄関口にて

側島製罐さんの強みは、その「多品種・小ロットを含めた、対応の幅広さ」にあります。多くの缶メーカーが、丸缶専門、大型専門と特化していく中で、同社は丸、四角、変形缶、大小問わず、あらゆる要望に応えてきました。


それは職人たちが120年間、どのようなお客様の想いにも向き合い、泥臭く技術を積み上げてきた結晶です。


また、石川さんが好きな、四角い缶の角にある「アール(丸み)」にまつわるお話も聞かせていただきました。


「例えば、四角い缶の角にあるアール。鉄の板をパキッと90度の直角に曲げれば角がピンピンになって格好良く見えることもあるかもしれない。


でも、丸みがあるアールもなるべくしてなった形』と話していました。絶妙な角の丸みは、技術者と使い手が100年以上の試行錯誤を繰り返して、行き着いた人知の結晶だと思うのです」


普段、何気なく触れていた缶のアール。一時のトレンドではない、歴史の堆積によるデザインが、そこにはありました。


工場の様子
工場の様子

そんな側島製罐さんの象徴とも言えるのが、勤続70年の職人・松永さんの存在です。今でも週5日、元気に工場へ出勤されています。缶を作る機械の金型を、ゼロから削り出す松永さんは、まさに「鉄の鉄人」。


今回の社史では、そんな松永さんの工作室のディープな裏側や、現在働く社員さんたちが、工場の中で活き活きとモノづくりに向き合う日常が、映画のワンシーンのような大判の写真で贅沢に切り取られています。



缶に感謝するくらい、缶が好きだった


最初は本当に義務感でした。跡継ぎとしてちゃんと業界を知らなきゃいけない、お客さんの熱量に負けないように勉強しなきゃ、と。


実は、2020年に家業へ戻ってきた当時、石川さんには「缶への愛情」はなかったといいます。


多種多様の缶コレクション
多種多様の缶コレクション

でも、いつからか自分で缶を買うのがただの趣味になっていって、「あ、これめっちゃ格好いいじゃん」って買い集めるようになったそう。さらに、1年という月日を費やして120周年の社史を編纂していく過程で、石川さんは自身の真の想いに辿り着きます。


最初は周りの会社さんや社員さんへの「感謝」を伝える本だと思って作っていたけれど、突き詰めると「缶というプロダクトそのものへの感謝の本」だと気づきました。単なる鉄の容器に、ここまで感謝している自分は、めちゃくちゃ缶のことが好きなんだなって、社史に教えられました。


石川さんは、「身近にありすぎて、その価値に気づけていなかったのかもしれませんね。」と、穏やかな笑顔で振り返ってくださいました。


2025万博の記念缶ほか
2025万博の記念缶ほか

側島製罐さんでは、缶への愛情が、社内の文化にも自然と浸透しています。採用面接においても「缶が好きか」という点を大切にしています。


社内には、「ゆるい缶好き」たちが集うようになりました。2階のカウンターにお土産の可愛らしい缶が置かれていれば、社員さんたちが「これ、可愛いね」と自然に言葉を交わす光景が見られます。取材を終えて階段を降りる際、私も偶然その温かなシーンを目の当たりにしました。


そんな「缶を愛する空気」が息づいた会社だからこそ、この本は雑誌のようにカラフルで、めくるだけでワクワクするファンブックに仕上がったのです。



なぜ「1000人」なのか? 社史が書店に並ぶ未来へ


石川さんが掲げる「1000人に届ける」という目標。それは単なる販売部数の話ではありません。そこには石川さんの「侍」のような執念と、協力してくれた人たちへの誠実さが詰まっています。



奥深い缶の世界|社史の中身
奥深い缶の世界|社史の中身

最初は最低ラインの200部で考えていたんです。でも、これだけ多くのクリエイターの方々や、長年支えてくれた社員が熱量を注いでくれたアウトプットが、たった200人で終わっていいはずがない。


私たち、側島製罐のビジョンは「宝物を託される人になろう」です。これだけの想いを託してくれた人たちに対して、不可能だと思えるような実績を作って恩返ししないのは、あまりにも不義理じゃないか、と考えたんです。


1000という数字に、何の確証も保証もありません。けれど、石川さんは「中小企業の社史が1000部売れたという、前例の少ない事実」が実現したとき、社会に面白い変化が起きると信じています。


また、次のステップとして書店さんにアプローチしに行くことも教えてくれました。


社史 側島製罐
社史 側島製罐

「代官山 蔦屋書店さんのような場所に、中小企業の新しい社史が5種類くらい並ぶコーナーができたら、ワクワクすると思いませんか?」


まずは本を通じて産業の歴史や文化に触れる人が増えれば、普段は捨てていた空き缶が、急に愛おしいものに見えてきたり、技術者の結晶なんだと気づきます。


その小さな気づきが愛になり、消費者だった人たちが、クラファンを応援したり、工場を訪れたりする当事者へと変わります。そうして、業界を支えてくれる関係人口が増えていきます。


缶っていいよね、奥深いよねって思う人が増えれば、缶メーカーで働こうっていう担い手が増えるかもしれない。それは缶業界だけでなく、日本のあらゆる伝統的なモノづくり産業の未来を救う、新しい一歩になると思うんです。


「ただの社史」を「社会に開かれた記憶」へ。確証なんてどこにもない、けれど絶対に面白い未来が来ると信じる石川さんの瞳には、確かな執念が宿っていました。



缶を大切にしてきたあなたへ


インタビューの最後、「缶が大好きな読者へメッセージを」と振ると、石川さんは少し照れくさそうに、でも真っ直ぐにこう答えてくれました。


社史を持つ石川貴也さん
社史を持つ石川貴也さん

「ありがとうございますという気持ち、本当にそれだけです。僕らが120年間、こうして缶を作り続けられて、今日も工場を動かせているのは、缶を好きでいてくれる、缶を捨てずに大切に使い続けてくれる皆さんがいるからこそです。感謝の念に堪えません。これからも、皆さんにずっと好きでいてもらえるような缶を、愚直に作り続けていきます。」


もし、あなたの部屋に眠る缶があるなら、ぜひじっくり見てみてください。そこには、長い歴史のなかで磨かれた美しい丸みと、職人たちが受け継いできた技が隠れています。


この社史は、側島製罐さんの歴史であると同時に、私たちが何気なく営んできた「モノを大切にする文化」の記録そのものです。


実家の戸棚にあるあの缶に、もう一度、旅のチケットや大切な人からの寄せ書きを詰め込みたくなる。


そんな“缶の魅力”が詰まった1冊を、ぜひあなたのお手元に。


側島製罐120周年社史書籍プロジェクト(クラウドファンディング)は、2026年6月30日まで実施しています。


社史を一冊手に取ることは、ただ本を買うことではありません。缶を大切にしてきた記憶、ものづくりの現場に積み重なってきた時間、そして中小企業の歴史を社会に開いていく新しい挑戦に参加することでもあります。


実家の戸棚にあるあの缶に、もう一度、旅のチケットや大切な人からの手紙をしまいたくなる、そんな「缶の魅力」が詰まった一冊を、ぜひあなたのお手元に置いてみませんか。




編集後記:取材を終えて


編集者森の未来の宝箱
編集者森の未来の宝箱

机の上や棚に散らばる18きっぷや、映画の半券があります。


石川さんのお話を聞いていたら、大きな四角い缶を探し出して、全部放り込んでみたくなりました。いつも、いつの間にかグチャグチャになり、捨ててしまう彼らを。


そこに缶があれば、無造作に投げ入れたとしても、その時のまま残してくれるのです。そして、本来捨てていた紙切れが、時を経て宝物になる。なんだかロマンチックじゃないですか。


最適化されすぎた現代だからこそ、私たちはあの「開けるまでのワクワク」と質量を、心のどこかで求めているのかもしれません。


HONEインターン/森



ほねろぐとは


AIの急速な台頭により、私たちの世界は、目紛しい変化を遂げています。効率化が進むその影で、古きよき日本の文化や風景、人との繋がりが失われつつあるのも、悲しい現実です。


そんな時代だからこそ、我々株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録します。


いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。


町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。

忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。


気づけば、地方が近くなる。


現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。



株式会社HONEについて


HONE��の流儀
HONEの流儀

HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。

大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。


学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。

自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。

誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。

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