
2026年8月23日、熊本県南関町の交流拠点施設〈ukara〉で開催された「第5回 本が読みたくなる話」に参加しました。
「本を読むことは大切だとわかっているが、時間がない」「一冊を読み切れない」「何を選べばよいかわからない」。そんな読書への気負いをほどき、本や図書館との付き合い方を考える時間でした。
イベントの主催は、あそぶような気軽さで本 に親しむ〈ukara〉読書部『遊読』。モデレーターは、南関町で竹の箸づくりをする株式会社ヤマチクの代表取締役CEO・山﨑彰悟さんです。毎回異なるゲストを迎え、本との付き合い方をさまざまな視点から掘り下げています。
第5回のゲストは、文化編集者の最所あさみさん。「知性ある消費を作る」をテーマに、ローカル・ラグジュアリーの探求や、海外に向けた日本文化の発信などに取り組んでいます。
「読み切らなければ」を手放す
読書が続かない理由の一つは、「一冊を最初から最後まで読まなければならない」と考えてしまうことかもしれません。
クロストークで語られたのは、全部読まなくてもいいし、買ったまま読んでいない本があってもいいということ。まずは多くの本に触れ、自分が気になる言葉やテーマを見つける。その小さな成功体験が、読書の習慣につながっていきます。
本の後ろにある著者略歴や出版社、参考文献を見るのも、次の一冊を探す手がかりになります。一冊を完璧に理解しようとするより、興味の向くままに本から本へ進んでいく。積読も含めて、読書にはもっと自由な付き合い方があってよいのだと感じました。
司書さんの選書から、そのまちが見える

読書の話とあわせて語られたのが、図書館の魅力です。
図書館は、年齢や立場を問わず、誰にでも開かれています。書店では出会いにくい本も含め、長い時間をかけて知識が蓄積されている場所です。売れるかどうかだけでは選ばれない本が並び、誰もが無料でその知識に触れられる。そこには、図書館ならではの公共性があります。
また、司書さんが選んだ本や棚の組み方には、その土地の歴史や産業、そこで暮らす人の関心が表れます。何を読めばよいかわからない時は、「仕事でこんなことに悩んでいる」「最近、このテーマが気になっている」と司書さんに相談してみる。検索だけではたどり着けなかった一冊に出会えるかもしれません。
会場となった〈ukara〉は、南関町の人たちに親しまれた温浴施設「うから館」が生まれ変わった交流拠点です。南関町図書館〈このみch-i〉のほか、カフェ〈キツネノボタン〉、広場、貸室を備えています。図書館の本を窓際で読んだり、カフェで色々話したりできます。
本を借りるだけでなく、本との出会いをきっかけに人が集まる。「本が読みたくなる話」は、図書館がまちの交流を育む場所にもなることを感じさせるイベントでした。

本を紹介することは、「究極の自己開示」
イベントで印象に残ったのが、「本を紹介することは、究極の自己開示」という言葉です。
どの本に心を動かされたのか。どの部分を覚えているのか。そこには、その人が大切にしていることや、これまでの経験、いま抱えている問いが表れます。
様々な本が紹介されましたが、私の記憶に残った本は、『商業経営の精神と技術』(著:渥美俊一)。商業経営の指南書というコメントがあり、私自身も個人経営する上でビ ジネスのあり方を考える機会になりました。
読んだ本や内容を自分の言葉で語ることは、知識を定着させるためのアウトプットであると同時に、自分自身を知ってもらうことでもあります。本について話す時、正解を言う必要はありません。「ここはわからなかった」「もっと知りたい」と素直に言えることも、教養の一つです。
一人で読む時間の先に、誰かと語り合う時間がある。本は、自分の内側を見つめるだけでなく、人との関係をつくるきっかけにもなります。

すぐに役立たなくても、心の拠り所になる
本は、知識や仕事のヒントを得るためだけのものではありません。
例えば、哲学や文学は、すぐに答えを示してくれるとは限らない。それでも、文章で描かれた心の動きや、誰かが長い時間をかけて考え抜いた言葉に触れることで、自分だけでは言葉にできなかった感情に気づくことがあります。
「いい本は、たった一人に向けて書かれている」という話もありました。その一人に自分が重なる時、本は心のセーフティネットとなり、自分に立ち返るための拠り所にもなります。
すぐに役立つかどうかでは測りきれない言葉が、必要な時まで本の中に残っている。本が長い時間を越えて受け継がれるアーカイブであり、価値を感じられる理由は、そこにあるのかもしれません。


本を読むことは、目的ではなく手段
本を何冊読んだか、最後まで読み切ったか。読書をそれだけで測ると、本を開くことが苦しくなってしまいます。
大切なのは、本を読むことそのものではなく、その先で何を知りたいのか、何を考えたいのか。知らないことを「わからない」と認め、新しい知識を得ようとする。その能動的な姿勢があれば、一冊を最後まで読まなくてもよい気がしてきます。
図書館へ行く時は、目当ての本だけを探すのではなく、気になる背表紙に手を伸ばしてみる。迷ったら、司書に話しかけてみる。そして、心に残ったことを誰かに自分の言葉で話してみる。
南関町で開かれた「本が読みたくなる話」は、読書への苦手意識をほどくだけでなく、本と図書館が人の関心をオープンにし、人と人をつなぐことを教えてくれました。

施設情報
南関町交流拠点施設〈ukara〉:9:30〜19:30
南関町図書館〈このみch-i〉:10:00〜19:30
住所:熊本 県玉名郡南関町関町1230
休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は翌火曜日)、12月29日〜1月3日
HP:https://www.ukara-nankan.jp/
取材イベント
イベント名:第5回 本が読みたくなる話
開催日:2026年8月23日(日)
主催:〈ukara〉読書部『遊読』
イベ ントページ:https://www.ukara-nankan.jp/news/533/
執筆:西脇
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