
先日、弊社HONE代表の桜井とともに、静岡県静岡市の「用宗(もちむね)」という地域を巡るツアーに参加してきました。
私自身、静岡を訪れるのは今回が初めて。「新幹線の止まる静岡駅から電車でたった6分」と聞いていたので、ある程度の市街地を想像していましたが、駅を降りて少し歩くと、そこには驚くほど穏やかで、「チル」な空気が流れていました。
平安時代から続く歴史ある港町で、私たちは「海」と「街」の双方から、ある一つの気づきを得ることになります。 それ は「視点を変え、文脈を編集し直すことで、地域はこれほどまでに魅力的になる」という事実です。
今回は、クラウドファンディングによって生まれた民泊施設と、その背景にある「街づくりの仕掛け」についてレポートします。
県庁所在地からすぐの「非日常」

静岡駅からJRでわずか6分、車でも20分。 トンネルを抜けた先に広がる用宗エリア は、アクセスの良さとは裏腹に、まるでタイムスリップしたような静けさをまとっていました。
海沿いに出れば、視界いっぱいに広がる駿河湾と、その向こうにそびえる富士山。 古くから漁師町として栄えた路地裏には、どこか懐かしい木造建築や寺社仏閣が残っています。都会の喧騒から物理的な距離は近いのに、心理的な距離は遥か遠くに来たような不思議な安らぎ。まさに「異日常」と呼ぶにふさわしい場所です。

広い静岡における、地域のアイデンティティ
用宗の散策へ繰り出す前に、まずは腹ごしらえをしました。
用宗名産のしらすがたっぷり乗った海鮮丼をいただいたのですが、この食事中にテーブルを囲んで盛り上がった話題が、今回の旅の解像度をグッと上げてくれました。

それは、「静岡の地域性」についての議論です。
「浜松の方はやっぱり気質が違うよね」
「静岡市はここが独特だから……」
東西に長く、広大な面積を持つ静岡県。
地元の方々の話を聞いていると、同じ県内でもエリアによって文化や県民性が驚くほど異なることに気づかされます。「静岡」と一括りにせず、それぞれの地域が独自のアイデンティティを強く持っているのです。
初めて静岡を訪れた滋賀県民の私にとって、その「エリア意識」の強さは非常に新鮮な体験でした。今回訪れた用宗があるのは、そんな広い静岡のちょうど「真ん中」にあたる静岡市。

浜松とも伊豆とも違う、この「静岡市の港町」ならではの空気感を理解すること。それが、この後の街歩きをより楽しむための大切な視点になると感じました。
青い海、揺れるヤシの木。船の上から「陸」を眺める体験
この街の魅力を肌で感じるために、私たちはまず海へ出ました。
「琵琶湖は眺めるもので、アクティビティで楽しむ文化があまりない」 滋賀に住んでいると、そんな話を耳にすることがあります。確かに私自身も、琵琶湖といえば「岸か ら穏やかに眺める」という感覚が強く、わざわざ中に入って陸を見ることは少なかったように思います。

だからこそ、ここ駿河湾での体験はとても新鮮なものでした。
ボートに乗り込み、沖から陸の方を振り返る。 そこには青い海と、風に揺れるヤシの木。滋賀では見かけない南国リゾートのような景色を、いつもとは逆の「海側」から眺める不思議な感覚。

そんな開放的な船の上で、同乗した皆さんと度々盛り上がったのが「海から見た地理」の話です。
「今のあの辺り、どこからが『焼津』なんやろう?」
「あっちの方角、うっすらと富士山が見えてますね」
陸にいれば看板一つで分かることも、海の上からだと境界線が見えません。目印のない海上で、陸地の形や山の見え方を頼りに「あそこが境目かな」「いや、もっと東だ」と指をさし合う。
ただ景色を眺めるだけでなく、海の上から地形を読み解くような知的な面白さがそこにはありました。「水辺から陸を見て楽しむ」。駿河湾のアクティビティは、そんな新しい視点の旅を教えてくれました。
「おしゃれ」は偶然ではない。10年越しの街づくり戦略
海から陸を見て地形の面白さを知った後、今度は陸にあがり、街の中を歩いてみます。お腹を満たしてくれたのは、用宗名産の「しらす」を使ったピザや、新鮮な海鮮丼。

驚いたのは、こうした地元食材を提供するお店が、非常に洗練されていることでした。古い建物をリノベーションしたカフェやジェラートショップ。週末ということもあり、若い家族連れやカップルが思い思いに過ごしています。

一通り街を歩いてみて、ふと疑問が湧きました。
「静岡駅から近い」
「海がある」
という地理的な条件だけであれば、似たような港町は他にもあるはずです。なぜ用宗だけが、これほど若者を惹きつける状況が生まれたのでしょうか?

その疑問を現地の方にぶつけてみると、そこには10年におよぶ地道な街づくりの軌跡がありました。
かつては静かだった場所に、空き家を活用してあえて「おしゃれなお店」を狙って誘致し続ける。最初の1店舗から時間をかけて点と点をつなぎ、10年という歳月をかけて「面」としての雰囲気を変えてきたそうです。
歴史ある港町の風景を壊すのではなく、そこに新しい価値を上書き保存していくような、丁寧なアップデート。「昔ながらの港町」という土台の上に、「現代的なセンス」が違和感なく溶け込んでいる理由は、この戦略的なデザインにありました。
「泊まる」を楽しむための、計算された「仕掛け」
今回のツアーの目的地の一つが、一棟貸しの民泊「ミクソロジーハウスふじや」です。入口から早速大きく「宿」と書かれ、住宅と混同しないような仕掛けが施されています。

波の音を聞きながら日常を忘れ、仕事や思索に没頭する。
そんな「暮らすような旅」を提案するこの場所は、長期滞在やワーケーションにも最適な空間として設計されています。

しかし、実際に足を踏み入れて感じたのは、単なる静寂な作業場ではない、ゲストを楽しませるための「遊び心と仕掛け」でした。
ふと棚に目をやると、そこには「鬼滅の刃」の人形がちょこんと飾られていたり、壁にはイベントチラシが貼られていたり。
一見、洗練された空間とは対照的に思えるこれらのアイテムですが、実はこれこそが、宿泊客の心を掴む重要なフックになっています。
「今週末、こんなイベントがあるんだ」
そんな小さな発見が会話のきっかけになり、ふっと肩の力が抜ける。ただ高級な家具を並べるだけではなく、こうした親しみやすいアイテムをあえ て配置することで、利用者がリラックスして滞在を楽しめる空気が作られていました。

静かに集中できる環境と、好奇心をくすぐるポップな仕掛け。
この絶妙なバランス感覚があるからこそ、「またここに帰ってきたい」と思わせる居心地の良さが生まれているのだと思います。
街全体を「住みたい」と思えるデザインに
今回の旅を通じ、地元・滋賀の「宿泊客が少ない」という課題を再認識しました。 用宗が教えてくれたのは、「住みたいと思えるほど心地よい街は、自然と泊まりたくなる観光地になる」という視点です。
そして何より希望を感じたのは、この景色が決して一朝一夕でできたものではないという事実。 10年前から空き家を一つひとつ再生し、点と点を繋ぎ続けてきた地道な努力の積み重ねが、今の洗練された街を作っていました。
「正しい戦略と努力を積み重ねれば、街はここまで変われる」
偶然や立地だけではないそのプロセスは、地域活性化に取り組 む私たちにとって大きな勇気です。 用宗で得た学びと希望を胸に、滋賀の地でもできることから始めていきたいと思います。
(HONE / 浅見)

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