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福岡で約800年受け継がれてきた伝統工芸「博多織」。その織地をTシャツやライフスタイルアイテムへと落とし込み、特別な日に触れる文化ではなく、毎日の暮らしの中で自然と出会える存在へ。
伝統工芸と日常をつなぐ挑戦を続けているのが、株式会社オリツギ代表・山本祥太さんです。伝統を「守る」ことにとどまらず、人と文化が出会うきっかけをつくる。その歩みの背景には、職人や産地への敬意とマーケティングの力で、文化を未来へつないでいきたいという想いがありました。
株式会社オリツギ
株式会社オリツギは福岡県を拠点に、「マーケティングの力で"次の世代"にも愛される文化を"織り継ぎ"育む」ことを目指す会社です。伝統工芸や地場産業、地域文化など、それぞれが持つ歴史や価値を現代の暮らしや市場へ届けるため、ブランディングやマーケティング支援を展開しています。
ORIO

自社ブランド「ORIO」では、800年以上の歴史を持つ博多織をはじめとする伝統染織を、Tシャツやバッグなど日常で使えるプロダクトへと展開。「まずは格好いいと思ってもらうこと」を入り口に、職人の技術や産地の物語へ自然と興味が広がる体験を提案しています。また、伝統工芸にとどまらず、音楽やアート、ファッションなど異なるカルチャーとのコラボレーションにも取り組み、文化と暮らしをつなぐ新たな可能性を広げています。
一着の佇まいと、職人の手に魅せられて
「周りと同じことはしたくなかったんです。」
そう笑いながら、当時を振り返る山本さん。京都での学生生活も4年目を迎え、この街で過ごす時間も残りわずかになっていました。「せっかく住んでいるのだから、京都ならではの文化に触れてみたい」。そんな想いが、芽生えていったといいます。
そんな想いと、「どうせなら、人とは少し違うことをしてみたい」という好奇心が、後の人生を大きく変える出会いを引き寄せます。

転機となったのは、京都の街にあった侍バーでした。でした。毎日着物を身にまとい、寺子屋のように古典を教えながら店を営むオーナー。その凛とした佇まいを目にした瞬間、「格好いいな」と心を奪われたといいます。
最初は、伝統文化に強い関心があったわけではありません。ただ、「あんな風に着物を着こなしてみたい」。その純粋な憧れから、古着市で手頃な着物を探し、普段着として着始めました。
着物を着て街を歩くようになると、不思議と人との会話が生まれます。京都という街の見え方も少しずつ変わり、着物は特別な日に着るものではなく、自分の日常の一部になっていきました。
そんな日々の延長線上で出会ったのが、「KIMONO PROJECT」です。2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、日本の伝統技術で世界196の国と地域をモチーフにした着物を制作し、世界中から訪れる人々を迎えようという壮大なプロジェクト。

その取り組みを主導していた久留米の呉服店との縁から、山本さんはプロジェクトに携わるようになり、京都友禅や西陣織をはじめとする、伝統工芸の現場を訪れる機会を得ます。そこで目にしたのは、それまで想像していた「ものづくり」とはまったく異なる世界でした。
静まり返った工房で、長年使い込まれた道具とともに、作品と向き合い続ける職人たち。なかには、50年ものあいだ、ほとんど同じ工程を黙々と積み重ねてきた人もいます。効率やスピードが求められる現代とは対照的に、時間を積み重ねることでしか生まれない価値が流れていました。

「この職人さんたちの手仕事を、そして、この世界観を自分の人生をかけて残したい。」
そのとき受けた衝撃は、技術の高さだけではありません。何十年という歳月をかけて一つの仕事を磨き続ける人の生き方そのものに、心を動かされたのです。
こうして山本さんは、憧れから始まった着物との出会いをきっかけに、伝統工芸の世界へと足を踏み入れます。しかし、その世界に深く関わるほど、新たな問いとも向き合うことになりました。
「素晴らしい技術や作品なのに、なぜ多くの人へ届かないのだろう。」その問いこそが、後にORIOを生み出す原点になっていきます。
内と外をつなぐ架け橋に
職人たちの姿に心を動かされ、呉服業界へ飛び込んだ山本さん。しかし、その世界に深く関わるほど、新たな課題も見えてきました。それは、伝統工芸の世界の「内側」にある熱量と、その価値を受け取る生活者との間にある距離でした。

着物そのものに憧れを抱く人は少なくありません。「素敵だな」「一度は着てみたい」と感じる人も多いでし ょう。しかし、その背景にある産地の歴史や、職人たちが何十年もかけて磨き続けてきた技術まで知る人、感じられる機会は決して多くありません。格式の高さや扱いにくいというイメージが先行し、「自分とは縁遠いもの」と感じられてしまっていたのです。
「内側にいるだけでは、この壁は越えられないかもしれない。」そう考えた山本さんは、あえて一度、呉服の世界を離れる決断をします。飛び込んだのは、スピード感あふれるベンチャー企業。マーケティングや事業開発の最前線で、価値を届ける方法を一から学びました。
目まぐるしく変化する市場のなかで経験を積みながらも、心の奥底にあり続けたのは、「本当に未来へ残すべきものは何なのか」という問いでした。短期的な成果を追い求める世界も刺激的でしたが、山本さんが向き合いたかったのは、何百年という時間をかけて受け継がれてきたものにある本質的価値です。

伝統工芸の現場も知り、現代のビジネスや生活者の感覚も知る自分だからこそ、その間をつなぐ役割を担えるのではないか。その想いから生まれたのが、「ORIO(オリオ)」でした。
最初の商品に選んだのは、着物ではなくTシャツです。あえて日常着を入り口にしたのは、「まずは素敵だなと思ってもらいたい」という考えからでした。最初から博多織の歴史や文化を語るのではなく、自然と手に取り、身に着けてもらう。
その先で、「実は博多織なんだ」と知り、産地や職人の物語へ興味が広がっていけばいい。ORIOには、伝統工芸と暮らしの距離を 縮めるための工夫が込められています。
現代に対抗する、時間の深み
AIや機械の進化によって、かつて人にしかできなかったことが次々と再現できるようになりました。効率化が進む現代だからこそ、山本さんは伝統工芸の価値は「技術」だけではなく、その背景にある時間の積み重ねにあると考えています。

山本さんは、「いまの技術があれば、西陣織の技術で博多織の『献上柄』を織ることも可能です。でも、どれだけ精巧に再現できても、そこに歴史や物語はつくれません。技術で多くのことができる時代だからこそ、本当の価値になるのは、人が積み重ねてきた歴史なのだと思います。」と話します。
山本さんが語っていたのは、西陣織と博多織のどちらが優れているかという話ではありません。それぞれの産地には、その土地でしか積み重ねられなかった歴史と記憶があるということです。
博多織には、約800年前、1人の商人と僧侶が明から織の技術を持ち帰ったところからはじまり、江戸時代、福岡藩初代藩主・黒田長政が幕府への献上品として選び、代々受け継がれてきた歴史があります。その積み重ねがあるからこそ、一枚の織地には単なる布地ではない価値が宿っています。

だからこそORIOでは、帯の端材(ハギレ)をリメイクするだけでなく、地元の筑前織物をはじめとする織元へ新たに生地を発注することにもこだわっています。帯地を織る過程で生まれる端材も活用しながら、新たなプロダクトとして社会へ送り出す。それは、歴史を受け継ぐ職人たちへ正しく利益を還元し、ものづくりが続いていく循環を生み出すためでもあります。
一方で、その歴史を最初から語り尽くそうとはしません。まずは「格好いい」「素敵だな」と感じてもらうこと。その先で、博多織や職人たち、産地の物語に自然と興味を持ってもらえればいい。説明しすぎないこともまた、山本さんが 大切にしている価値観でした。
暮らしの余白に伝統の風を

ORIOの挑戦は、博多織という一つの産地にとどまりません。姫路レザーと組み合わせたプロダクトの開発、ギターストラップなど音楽カルチャーとのコラボレーションも構想中です。伝統工芸という枠に閉じこもるのではなく、異なる文化と交わることで、新しい入口をつくろうとしています。
その先に見据えているのは、これまで伝統工芸に触れる機会のなかった人たちとの出会いです。
「伝統工芸が好きな人」に届けるだけではなく、音楽やアート、ファッションをきっかけにORIOを知り、その延長線上で博多織や職人の存在に興味を持ってもらう。入り口が増えれば、地域の文化に出会う人も増えていくはずだと山本さんは考えています。

「 自分はどこまでも、現場と世界をつなぐ開拓者でありたい。」
そう語る山本さんの視線は、一つひとつのプロダクトの先にある、100年後の地域の風景へと向けられていました。
今回の取材を通して感じたのは、地域の価値は、守るだけでは未来へ残らないということです。職人が技術を磨き続ける人なら、山本さんはその価値を社会へ届ける人。歴史を受け継ぎながらも、新しい文化と交わり、新しい入口をつくり続ける。その挑戦には、地域に眠る宝物を次の世代へつないでいくための、大きなヒントが詰まっていました。
あとがき
かつて武士の嗜みとして親しまれ、職人たちの手によって受け継がれてきた博多織。山本さんのお話を伺うなかで、それは遠い過去の文化ではなく、今の暮らしの中に息づく可能性を秘めたものなのだと感じました。
実は私自身も、着物を着ることがあります。ただ、日常の中で袖を通す機会は多くありません。着物や帯に込められた歴史や物語を知る機会もほとんどなく、「素敵だな」と思いながらも、どこか自分とは距離のある存在でした。

取材を終えて家に帰り、自分の着物を見返してみると、普段締めていた帯が博多織だったことに初めて気づきました。これまで何気なく身に着けていたものに、800年の歴史が息づいていたのです。
ORIOが目指しているのは、そんな自然な出会いなのだと思います。効率やスピードが求められる時代だからこそ、一枚の織地に込められた時間に思いを巡らせることは、忙しい日々の中に小さな余白を与えてくれます。
私が気づかなかったように、私たちの暮らしの中には、まだ知らない地域の歴史や文化が眠っているのかもしれません。ORIOの挑戦は、そんな当たり前の日常と800年の歴史を結び直し、新しい物語を紡いでいます。その歩みが、この先どんな景色を織り上げていくのか、これからも見つめ続けたいと思います。
HONEインターン/森
ほねろぐとは
株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録します。
いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。
町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。
忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。
気づけば、地方が近くなる。
現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。
株式会社HONEについて

HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。
大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。
学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。
自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。
誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。




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