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島のアトツギは、静岡から何を持ち帰ったのか。若者には旅をさせよ。【静岡県静岡市_大人の島留学越境体験】

公開日:

2026年7月31日

最終更新日:

2026年7月31日

島のアトツギは、静岡から何を持ち帰ったのか。若者には旅をさせよ。【静岡県静岡市_大人の島留学越境体験】

2026年7月9日から11日の3日間、島根県・隠岐諸島の海士町から、2人の若者が静岡を訪れ地域越境の体験を受け入れました。2人は、「大人の島留学」を通じて海士町で暮らし、それぞれの挑戦を続けています。

今回の目的は、静岡で宿やまちづくりの現場を巡り、自らの活動に生かせるヒントを持ち帰ることです。地域企業の伴走支援や民泊運営を行う、株式会社HONE / Astlocal株式会社代表の桜井貴斗が、3日間の受け入れを担当しました。


宿を見学し、まちを歩き、飲んで食べて語り合う。そうした時間を共にするなかで、2人が持ち帰ったものは、宿の運営ノウハウだけではありません。


地域を越えて学ぶとは、何を持ち帰ることなのでしょうか。

地域との付き合い方。伝統や歴史を価値へ変える視点。そして、同じ地方だからこそ見えてくる、それぞれの「当たり前」。今回の越境は、知識や繋がりを得るだけではなく、自分の常識を問い直す時間にもなりました。



大人の島留学と株式会社HONE


左から 丸山さん 瀧さん
左から 丸山さん 瀧さん

今回静岡を訪れたのは、「大人の島留学」で海士町に暮らす丸山華穂さんと、島留学卒業生の瀧直人さんです。2人が飛び込んだ「大人の島留学」は、隠岐島前地域(海士町・西ノ島町・知夫村)で暮らし、働きながら、自分らしい挑戦を見つけていくプログラムです。地域の仕事に携わるだけでなく、将来の生き方や働き方を見つめ直す機会として、多くの若者が全国から島を訪れています。

株式会社HONEもこれまで、講義や伴走支援という形でプログラムに関わってきました。今回の越境体験は、「島の外で学び、その経験を島で実践する」ことを目的に企画されたものです。


島での講義の様子
島での講義の様子

瀧さんは島留学を終えた後も海士町に残り、素泊まり宿「かたえ荘」を第三者承継しました。かたえ荘は、「仕事にも、観光にも、ちょうどいい宿。」をコンセプトに、島の日常に溶け込むような滞在を提供しています。

今回、瀧さんが静岡を訪れた目的は、宿の運営を学ぶこと。民泊の運営方法や地域との関わり方、宿づくりの考え方を学び、自身が営むかたえ荘へ活かすためです。

一方の丸山さんは、「大人の島留学」の広報担当として今回の越境に同行しました。現場で見聞きしたことを記録し、島の内外へ発信することで、学びをより多くの人へ届ける役割を担っています。

宿を運営する立場と、その挑戦を伝える立場。同じ「大人の島留学」を経験しながら、それぞれ異なる役割を持つ2人が、静岡で何を見て、何を感じたのか。ここから、3日間の越境の記録が始まります。


【大人の島留学】



民泊は清掃から始まる


初日は、弊社代表の桜井が運営する民泊を見学した後、周辺の飲食店を巡りながら街を歩き、宿の立ち上げから運営についてお話をしました。


民泊を始めた理由や、物件探しで困ったこと。DIYイベントを開催して地域住民との接点をつくったこと。想定していなかった帰省利用や結婚式利用があったこと。近隣との付き合い方や、運営で失敗した経験まで、包み隠さず共有しました。


講話の様子
講話の様子

その中でも瀧さんの印象に強く残ったのが、清掃マニュアルでした。どの順番で掃除を進め、どこまで拭けば作業完了とするのか。細かな工程まで一つひとつ言語化されています。


桜井が代表を務めるAstlocal株式会社では、「誰が担当しても同じ品質でゲストを迎えられること」を大切にしています。そのため、ハウスキーピングの手順を細かくマニュアル化し、清掃スタッフ全員が一定のクオリティで作業できる仕組みを整えています。こうした仕組みづくりも、宿の価値を支える大切な運営の一つです。


清掃修行中
清掃修行中

宿の魅力は、おしゃれな内装だけではありません。気持ちよく泊まれたという体験は、実は目に見えない積み重ねによって支えられています。


また、宿を一歩出た先にある街も、その土地での思い出を形づくる大切な要素です。そこで、周辺にある銭湯や飲食店を巡りながら、静岡のまちを歩きました。


まち歩きまち歩き GOOD TIMING TEA
まち歩き GOOD TIMING TEA

地域らしさが感じられる店構えや看板のデザイン、店先の飾り方、常連客との自然なやり取り。理屈では説明できなくても、「静岡らしい」と感じる空気がそこにはありました。宿だけでは完結しない、まち全体でつくる宿泊体験について考える時間にもなりました。


夜は静岡おでんを囲み、お茶割りで乾杯。地域の食文化に触れながら過ごしたひとときも、静岡ならではの思い出の一つです。



価格ではなく体験価値をつくる


2日目は、株式会社創造舎さまのご厚意で、静岡市駿河区・丸子にある「匠宿」と、一棟貸しの宿「工芸ノ宿 和楽」を見学しました。創造舎さまは、駿河竹千筋細工やお茶染めなど、静岡の伝統工芸を体験できる施設「匠宿」を中心に、宿泊施設やレストラン、カフェなどを展開し、丸子エリア全体の魅力を高めるまちづくりに取り組んでいます。


匠宿
匠宿

工芸に触れ、食を楽しみ、宿に泊まる。点ではなく、地域全体で滞在を楽しめる体験を生み出しているのです。その中でも一際目を引くのは、一棟貸しの宿「工芸ノ宿 和楽」でした。和楽の宿泊料金は、瀧さんが営む「かたえ荘」のおよそ10倍。最初は、その価格差に誰もが驚きます。


しかし館内を見学すると、その違いは設備の豪華さだけではありませんでした。駿河竹千筋細工の照明、お茶染めをあしらった部屋着、全室に備えられたプライベートサウナと檜風呂。さらに、静岡茶を使ったロウリュが、滞在そのものを特別な時間へと変えていました。


工芸品を展示するのではなく、「暮らしの中で使う体験」として提供する。宿泊すること自体が、静岡の文化に触れる時間として設計されています。宿の価格は、高級だから高いのではありません。


工芸ノ宿 和楽
工芸ノ宿 和楽

どんな人に、どんな時間を届けたいのか。その体験設計こそが、価格を生み出しているのだと感じました。宿を見終えた瀧さんは、小さくこうつぶやきます。


「勝てます。」その言葉だけを聞くと、若さゆえの強気な発言に聞こえるかもしれません。しかし、その表情から伝わってきたのは、「同じ宿として、自分も戦っていかなければならない」という覚悟のように感じました。


現在、かたえ荘は素泊まりが中心の宿です。宿泊料だけでは、売上にも限界があります。だからこそ、宿泊以外の価値をどう生み出し、新たな収益につなげていくのか。そのヒントを探すことが、今回の視察の大きな目的でもありました。


もちろん、和楽と同じものをつくればいいわけではありません。海士町だからこそ提供できる体験は何か。島の日常や人との交流を、どのように宿泊価値へ変えていくのか。価格ではなく、自分たちらしい価値で選ばれる宿をつくる。その問いを胸に刻む時間になりました。



アトツギが集う夜


2日目の夜は、桜井が代表理事を務める一般社団法人「TSUGU SHIZUOKA」の設立記念イベントへ足を運びました。県内各地のアトツギたちが集い、自社の商品やサービスを持ち寄りながら、それぞれの挑戦や想いを共有します。印象的だったのは、商品や事業の説明よりも先に、人柄を知る時間が大切にされていたことです。


TSUGU SHIZUOKAにて
TSUGU SHIZUOKAの様子

商品を手に取り、何気ない会話を交わし、一緒に笑う。その時間があるからこそ、その後の言葉には自然と温度が宿ります。「この人と一緒に何かやりたい」と思える関係性が、会場に生まれていました。


私が最も印象に残ったのは、イベント後の懇親会で、小松元気さん(一般社団法人TSUGU SHIZUOKA代表理事・株式会社カネス製茶取締役・4代目アトツギ)が話してくれた言葉です。

「跡継ぎって、周りからは楽そうに見られるんですよ。」


けれど、実際に会社を継ぐと、初めて財務状況を目の当たりにして、「うち、本当に大丈夫か」と不安になることもあると言います。親族に分散した株式を集めるところから始める人もいれば、頑固な父親を何度も飲みに誘い、少しずつ信頼関係を築きながら、経営を引き継ぐ人もいる。「アトツギ」と一括りにされがちですが、その裏には、それぞれ異なる葛藤や苦労があります。


TSUGU SHIZUOKAの様子
TSUGU SHIZUOKAの様子

第三者承継という形で宿を受け継いだ瀧さんも、立場こそ違えど、「受け継ぐ」という点では同じです。地域も業種も異なるアトツギたちの話に耳を傾ける中で、自分だけが悩んでいるわけではないと感じられたのではないでしょうか。


地域が違っても、業種が違っても、悩みの本質は案外同じようです。だからこそ、こうして地域を越えて集まり、本音を語り合う時間には、大きな意味があるのだと感じました。


「TSUGU SHIZUOKA」について




山奥に人が集まる理由


最終日に訪れたのは、静岡市水見色地区にある「さじっとの家」。山あいの古民家を活用し、週末限定でカフェやライブ、ワークショップなどを開いています。決してアクセスが良いとは言えない場所ですが、それでも県内外から多くの人が足を運びます。


さじっとカレー
さじっとカレー

その一番の目的は、サジットさんがつくる名物の特製カレーです。一皿に7種類のルーをかけたカレーは、見た目のインパクトだけでなく、それぞれ異なる味わいを一度に楽しめる人気メニュー。「あのカレーを食べに行こう」と、この山奥まで足を運ぶ人も少なくありません。


しかし、さじっとの家が長く愛されている理由は、料理だけではありませんでした。サジットさんは、地域で暮らす一人ひとりへの挨拶を欠かさず、カフェで使う食材はすべて水見色の農家から仕入れています。イベントの日には、来場者へ「帰り道は静かにお願いします」と声をかけることも忘れません。


さじっとの家
さじっとの家

そうした日々の積み重ねが、「駐車場を使っていいよ」「また来てね」という地域からの信頼につながっています。地域との信頼関係は、短期的に築けるものではありません。毎日の小さな気遣いが積み重なり、その土地だからこそ生まれる価値になっていく。その姿は、人と人との距離が近い海士町にも通じるものがあるように感じました。


地域では、建物や商品よりも先に、「誰がやっているのか」が見られています。だからこそ、地域との関係性そのものが、その場所でしか生まれないブランドになっていくのだと思います。


宿の仕組みに触れ、地域全体を一つの体験として捉える視点を学び、人とのつながりを通して自分たちの地域を見つめ直す、3日間となりました。



若者には旅をさせよ


この3日間、私は瀧さんのアテンド役として行動を共にしました。気付けば、宿の話だけではありません。筋トレの話になり、食事の量で張り合い、次の目的地まで走る、体力勝負になっていました。


どうしてそうなったのかは今でもよく分かりませんが、同世代だからこその距離感がそこにはありました。普段の仕事では、10歳、20歳年上の経営者と話すことが多い私にとって、同世代と本気で競い、本気で笑う時間はとても新鮮でした。


とろろ汁の丁子屋前で
とろろ汁の丁子屋前で

受け入れにあたり、島前ふるさと魅力化財団の山口さんが話していた言葉があります。


「越境には、目的がなくてもいい。」


その言葉は、3日間を終えた今だからこそよく分かります。もちろん、宿を学ぶという目的はありました。けれど、本当に持ち帰ったものは、講義の資料にも、視察メモにも書かれていません。


地域との向き合い方。自分たちの当たり前を疑う視点。そして、離れた地域にも志を共にできる仲間がいるという実感。それらは、予定表にはない学びでした。


「可愛い子には旅をさせよ。」


昔から言われるこの言葉は、観光地を巡ることではなく、自分の当たり前が通用しない場所へ身を置くことなのかもしれません。地域を越えることは、知識を集めることではありません。人と出会い、自分を知り、また地域へ帰っていくことです。


島へ戻った瀧さんは、きっと今日も、かたえ荘の玄関を掃いているのでしょう。その何気ない日常は、3日前までと同じようでいて、きっと少しだけ違って見えているはずです。そして今度は、私たちが海士町を訪ねる番です。越境は、一度きりで終わるものではありません。人と地域がつながり、そのつながりを通じて、自らを深く知り、新たな可能性がひらかれていく営みなのだと思います。



【かたえ荘】


HONEインターン/森



ほねろぐとは


株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録します。

いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。


町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。

忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。


気づけば、地方が近くなる。

現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。



株式会社HONEについて


HONEの流儀
HONEの流儀

HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。

大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。


学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。

自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。

誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。

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