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2025年11月9日、北九州市小倉南区の合馬地区にある、「合馬農産物直売所」に行ってきました。地元の生産者が育てた作物だけを並べる、田舎ならではの小さな直売所です。訪れたこの日は、再建に向け、南区役所の方や協力隊が集まり、お話を伺うことができました。
※ 合馬農産物直売所は1999年に誕生しました。全国的にも名が知られる「合馬たけのこ」を中心に、旬の野菜や果物、郷土料理を販売する場として地域に親しまれてきました。近年は生産者の高齢化が進み、人手不足や耕作放棄地の増加といった課題が積み重なり、活気が薄れていった歴史があります。現在は地域おこし協力隊が加わり、再び息を吹き返すための取り組みが始まっています。
合馬に残る理由

直売所で30年働く川副麻美さんは、生まれも育ちも合馬です。創業当初から店を支えてきた一人で、当時の賑わいを覚えているそうです。「昔はね、開店前から1時間も並んでくれていたのよ。たけのこを買いに、遠くから来てくれた人も多かった。」そう話す表情は、どこか誇らしげで、寂しさもにじんでいました。
合馬のたけのこは、雨が降らないと生まれません。保水力のある土が、春の気配とともに芽の赤ちゃんを育てます。完全に土に埋まったまま育つため、掘り出された姿は驚くほど白く、香りもやわらかいのが特徴だそうです。

しかし、後継者はいなくなり、生産者の数も減りました。田んぼや畑は一部が耕作放棄地となり、竹林は人の手が届かないまま伸び続けています。イノシシが畑に降りてきてしまう光景も、珍しくなくなりました。
そんな状況でも、川副さんがここに立ち続ける理由を尋ねると、少し照れたように笑いながらこう言いました。「なくなったら寂しいでしょ?来てくれる人が“いいね”って言ってくれるのが嬉しいしね」。地域から人が離れるいま、思いが宿る場所をどのように残していくのか。少子高齢化と一極集中の弊害を、小さな直売所で体感しました。
直売所が直売所であること

農協の直売所と違い、ここに並ぶのは“合馬で採れたものだけ”です。地域が別になれば、持ち込むことはできません。量を確保するための仕入れもしません。季節がそのまま棚に現れるのです。
春はたけのこが山のように積まれ、夏は瑞々しい野菜、秋になれば柿が並びます。冬は少し寂しくなりますが、その素朴ささえも風景として心地よく感じられます。採れたばかりの野菜はすぐに店に並び、規格もありません。形の不揃いな野菜にこそ、その土地の味わいがあります。

お客さんは川副さんに食べ方を尋ね、昔からの知恵を伝える。そんな会話が、商品以上の価値を 生んでいるように思えました。「組合に出すと安くされるし、決まりも多いの。でも、ここなら採ってすぐ並べられる。お客さんとお話できるのが楽しいのよ。」直売所の本来の姿は、きっとこういう場所なのだと思います。
もう一度、合馬の文化を

直売所には、新しい風も吹き始めています。地域おこし協力隊の安村さんが着任し、再建に向けた取り組みが、少しずつ進んでいるからです。合馬の郷土料理である、「豆腐汁」を後世に残していく動きも、始める予定だそうです。高齢化で守り手が減っていく中、そのレシピを未来に届けることは、文化を守ることそのものです。
都市部から、車で30分程度で来ることができる、合馬農産物直売所。初めて訪れた私にも、いろんな人が気さくに声をかけてくれました。野菜のこと、昔の合馬のこと、ちょっとした雑談。そのひとつひとつがうれしくて、この土地の温かさを自然と感じずにはいられませんでした。
あとがき

合馬農産物直売所を訪れてみて、地域の食文化や暮らしは、誰かがゆっくりと守り続けることで、残ってきたのだと実感しました。川副さんのように、その土地で生まれ育ち、離れ、また戻ってくる人がいてこそ、地域は呼吸を続けます。
直売所の未来はまだ揺れています。それでも「残したい」と語る声がある限り、この場所はきっと消えません。土地に根づく景色と人の想いが、これからどのように形を変えていくのか、また確かめに訪れたいと思いました。
HONEインターン / 森

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