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2025年11月4日から15日まで、ばあちゃん喫茶や山あいの集まりに足を運び、この土地で暮らす、お年寄りの姿に触れました。福岡県に本社を構えるうきはの宝株式会社で、代表の大熊充さんに同行し、住み込みのインターンとして、活動する機会をいただきました。
私のミッションは、15人のばあちゃん、じいちゃんに取材をし、記事を書くことでした。ばあちゃん喫茶では、現場の空気に身を置きながら、働く姿を間近で見つめ、一人ひとりに取材をさせていただきました。暮らしに滲む思いや、抱えてきた背景、そして今の率直な気持ちを語っていただく中で、数字では捉えきれない現実が、立ち上がってくるのを感じました。
また、大熊さんの講演や会 議に帯同し、北九州から福岡最南端の大牟田まで、毎日のように移動しました。外側からは見えなかった多くの苦労が、積み重ねられた日々の中で、少しずつ見えてきました。そんな学びの連続となった2週間でした。
うきはの宝株式会社

うきはの宝株式会社は、75歳以上のおばあちゃんたちが働く会社です。代表の大熊充さんは、ばあちゃんたちが「生きがい」と「収入」を得られる、仕事と場を生み出しています。ばあちゃんたちが経済活動をしながら健康寿命を伸ばし、高齢者が楽しく適度に働くことで、医療費や社会保障費の削減になるような、取り組みを目指し、全国に広めています。
ばあちゃん喫茶と役割と

ばあちゃん喫茶で過ごした時間は、取材という枠を超えて、人の生き方そのものに触れました。梅林店では、谷口さんがトンカツを揚げる音が店に響きます。とんかつは、お客さんが来てから揚げてくれる最高のサービス。立ちのぼる香ばしい匂いに、「谷口さんのトンカツを楽しみに来る人がいるんです」とスタッフの方が教えてくれました。
11月6日には、谷口さんのファンの1人である、弊社代表の桜井も訪れ、「うまい!」と唸り、とんかつを頬張っていました。持病で声が出にくくても、谷口さんは表情としぐさで思いを届け、場を明るく照らしていました。

共に働く田中さんは、包丁を握る姿が今も職人のようで、「働くのは好きですよ!」と声を弾ませます。足を怪我した直後でも、「まだ働かないと」と前を向き、「働くって命よ」と力強く語りました。「黙ったままだと弱ってしまうから、動くこと、人と話すことが大事!」と笑うその表情には、長い人生を歩んできた人だけが持つ、芯を感じました。

別の店舗では、佐々木さんがにこやかに客席へ向かい、「人と話すと元気になるのよ」と笑っていました。看護師だった頃から大切にしてきた人との関わりを、今は喫茶店でゆっくりと続けています。家庭的な料理とおしゃべりの時間が、佐々木さんにとって大切な日常になっていました。
どのお店に行っても、ばあちゃん喫茶は“できなくなったこと”ではなく、“いまできること”を拾い上げる場所でした。働くことが役割になり、その役割がまた誰かの笑顔を生み、日常に豊かさをもたらしていました。
ばあちゃんも一括りにはできない。

ばあちゃんといっても、年齢も育った環境も、歩んできた道もまったく違います。戦時中に幼少期を過ごした人、山の暮らしを続けてきた人、認知症の不安と向き合う人。それぞれが、ひとつの言葉では包めない深さを持っていました。
それでも、共通して浮かび上がってきた思いがあります。それは「孤独」です。核家族化が進むなか、パートナーを見送り、家にひとりでいる時間が増えると、暮らしは静かに沈んでいきます。「夜がいちばん寂しい」と話すばあちゃんもいました。
ばあちゃん喫茶は、そんな気持ちをそっと受け止める場所になっていました。「自分ひとりだと、ご飯も作らないからね」と少し寂しそうに笑いながら、週に一度、お客さんのためにわいわいと料理を作っています。その時間が、暮らしにバラを添えているようでした。

山間の妹川地区では、週に一度ばあちゃんが集まる「寄り合い」が何十年も続いています。そこには、100歳を迎えるばあちゃんの姿も。生まれは大正。80代のばあちゃんですら、その話に驚いていました。「元気の秘訣は、人と話すことよ」とハキハキと話す姿から、こうした場が健康寿命に強く影響することが分かります。
社会の目と内なる思い

大熊さんは、「社会のために」ではなく「自分がばあちゃんに恩返ししたい」といつも話されていました。ただ、講演に呼ばれる際は、地方創生や持続可能性の文脈で語られることが多く、度々ズレを感じました。
もちろん、それらを含んだ取り組みですが、大熊さんを突き動かしているものは、「ばあちゃのために」といった、具体的かつ素朴な思いなのです。
ばあちゃんたちは、「介護される側」だけではありません。「役に立ちたい」という気持ちを持つ人も多くいます。その思いが働く力へと変わり、生きがいと収入が結びついていく。大熊さんの仕事は、その流れを丁寧に形にしていくことです。
会社としての利益よりも、ばあちゃん一人ひとりの「好き」「できる」「稼げる」を重ね合わせ、無理のない働き方をつくる。それは時間がかかり、手間もかかりますが、目の前の誰かを大切にする姿勢が、事業を育てているように感じました。
スポットライトの裏側で

この10日間で印象に残ったのは、大熊さんの働き方でした。講演や商談で走り回る合間に、新聞の納品、取材対応、事務作業。また、開発に失敗したガリを一つひとつ処理し、重たい瓶を外に運び出す仕事も行いました。表には見えない小さな仕事や失敗が、毎日のように積み重なっていました。

ばあちゃんたちの笑顔の裏側には、こうした泥臭い日々があります。時に、商標を取られたり、買収を持ちかけられたりと、私には縁のな い試練もあったそうです。それでも大熊さんの表情が疲れに曇ることはありませんでした。ばあちゃんたちが元気になっているという実感が、原動力になっているようでした。
地域で働くということは、一見美しく見えるかもしれませんが、「かっこいいところも、苦しいところも全てやる。」泥臭いことなのです。
あとがき

うきはでの2週間は、私にとって「自身の生き方」を見つめ直す時間でした。ばあちゃんたちの言葉や表情からは、年齢を重ねてもなお、誰かとつながりたいという自然な願いがあふれていました。
その思いに応えるために動く大熊 さんの姿には、地域を支える仕事の原点のようなものがありました。大きな仕組みではなく、小さな声に寄り添うこと。その積み重ねによって、社会に本質的な問題提起ができるのだと思います。
千里の道も一歩から。私たち若者は、一夜にして何者かになれる”何か”を探しがちです。SNSを含めたメディアで、一部を切り取られた情報に触れ、羨んでしまうのです。
今日、その羨望を受ける大熊さんに密着し、幾度とない試練に立ち向かった経験を、お聞きすることができました。簡単な道なんて、どこにもありはしないんです。1歩ずつ、積み上げていくしかないのです。
ここで得た学びを、これからの暮らしや働き方の中で生かしていきたいです。2週間本当にありがとうございました!
HONEインターン/森

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