外に開くまち・企業が生き残る『糸島ブランド戦略』に学ぶ、地方の進化論
- 梨沙子 亀元
- 7 日前
- 読了時間: 8分
更新日:4 日前

福岡県糸島市の職員であり、地域ブランディングの第一線で活躍する岡祐輔さんによる著書『地域も自分もガチで変える!逆転人生の糸島ブランド戦略』という本を読みました。
成功事例として挙げられる糸島市。戦略的なまちづくり施策の決定が、データ分析をもとに作られてきたことが分かります。
今回の記事では、この本から読み取れる地方にとっての進化論について本書を抜粋しながら、ポイントに分けてご紹介します。
出典「地域も自分もガチで変える!逆転人生の糸島ブランド戦略」を参考に感想交えて執筆しています。
【著者紹介】岡祐輔(おか・ゆうすけ)さん
福岡県糸島市企画部秘書広報課の現役公務員。仕事をしながら放送大学を卒業後、九州大学大学院でMBAを取得。そこで学んだ知識・技術と現場主義を活かしてさまざまな糸島ブランドづくりをやり遂げる。その実績によってさまざまなアワードを受賞した今最も注目されている地方公務員。現在は九州大学大学院博士課程に在学し、さらに糸島市をパワーアップさせる計画も進行中。
(本書より)
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糸島ってどんなまち?

福岡県西部、玄界灘に面した糸島市は、いまや「移住したいまちランキング」や「福岡の週末おでかけスポット」で必ず名前が挙がる、人口10万人規模の人気地域です。
直売所「伊都菜彩」や海沿いのカフェ、カキ小屋などが全国的に紹介され、観光客は年間680万人超。福岡市から車で30分という好立地に加え、自然の豊かさと都市のアクセス性を両立している点が注目を集めています。
また、農業・漁業といった一次産業が根づく一方で、移住者やUターン人材による新規事業も次々と生まれ、「ブランド化された地域」の先進事例としても評価されています。
地方創生に必要な視点は「データ」と「戦略」
勘や経験に頼るだけでなく、理論やデータの分析を少し加えるだけで、人気の観光地になった要素がわかります。自分のスキルを磨くだけで、仕事も楽しくなります。 ここでひとつお伝えしたいのが、データを分解することの大切さです。
グラフのように、観光客を目的別(行先)という軸で分解しただけで、見えなかったものが見えるようになります。 しかしデータを分解すると言っても、どう分解していいか難しいと思います。実は僕も思いつきで、やみくもにやっているわけではないのです。
著者の岡祐輔さんは、糸島市役所の広報課職員として働きながらMBAを取得し、データと理論に基づくまちづくり戦略を数多く企画・実行してきた方です。
特に印象的なのは、勘や経験だけに頼らず、地域資源や観光客の行動データを分析しながら戦略を立てていること。
たとえば、観光客を訪問目的や年齢層、リピート有無などで切り分け、購買データと照らし合わせることで「どんな体験や導線が必要か」が可視化されていきます。
まちに3C分析を使ってみる

この本には、マーケティングの基本である「3C分析」(Customer/Company/Competitor)の地域版応用が記されています。
一般的に3C分析といえば、企業が市場分析や事業戦略の立案時に使う手法です。
このフレームを糸島市の観光・移住・産業戦略に落とし込んでいきます。
例えば、糸島市では
Customer(顧客):誰が糸島に来ているのか?その目的は?
→ 観光客を「訪問目的」「年齢層」「リピート有無」などで切り分け、購買データと結びつけて解析
Company(自社):糸島市の強みは何か?
→ 自然、食材、直売所、都市近接性、行政・農協・漁協のネットワークなど、地域資源の棚卸し
Competitor(競合):周辺地域や他の観光地との違いは?
→ 福岡市や佐賀県の観光エリアと比較し、「1日でどこを回るか?」という旅行者目線で再設計
3Cの視点で分析することによって、糸島市は思いつきの施策ではなく、地に足のついた戦略の組み立てがありました。
石を投げるから動く
印象深かったのは、訪問する中、百貨店や量販店などを催事販売で全国行脚した経験を持つ人から「あなたがこうやって地域に石を投げてくれるから波が立って何かが動く。何もしないと衰退するだけよ。頑張って」と励ましの言葉をもらえたことです。新しい事業を始めようとしていたのはこの一人だけだったので、うれしくて強く印象に残りました。その後、苦労する度に、何度も何度も思い出す言葉になりました。
何かを変えようとする行為は、時に孤独で、報われないように感じることもあります。 それでも、「何もしないと衰退するだけ」という真っ直ぐな言葉は、意義を思い出させてくれると思いました。
推進するには、計画とか制度とか資金の話が重要ですが、誰かの言葉が、誰かを動かし続けるという見えない連鎖こそが、本当のエンジンなのかもしれないと感じました。
「地元意識」が過剰になると、外部が敵になる
地域に根ざして生きること、地元に愛着を持つこと自体はとても素晴らしいことです。
しかし、その意識が「うちのまちだけで完結したい」「外の人は口を出すな」という方向に働いてしまうと、可能性を閉ざすことにもつながります。
これから発展していくまちは、外にファンをつくらないといけない。だって地元の人口は減るんだから。
地域の人口は確実に減少しています。
それでも地域経済を回し、地域産業を支えていくには、地元以外の人たちにどれだけ応援してもらえるかが重要になります。
外と連携するというのは、外部に地域の価値を伝え、共感者・支援者をつくるという活動の第一歩でもあるのです。
変化を受け入れる力
「これからの地域には多様性と寛容性が必要だ」と何度も繰り返し伝えてきました。異なる価値観や背景を持った人たちが集まり、それを受け止められる土壌がなければ、地域は変わりようがありません。特に、外からの視点や未経験の若者、異業種出身者など、「自分たちとは違う何か」を受け入れる姿勢こそが、地域を進化させる力になるのです。
たとえば、
地域や企業に「ズレ」を生み出し、ときに違和感や軋轢をもたらす。
そのズレこそが、変化の種なのだと思いました。
これからの企業に必要なのは、スキルや知識ではなく、 「違いを歓迎する文化」をどう育てるかという問いかけです。
それはリーダーの姿勢にかかっています。 どんな空気をつくるか、どんな言葉を使うか、どんな採用をするか、どんな雑談を許すか。企業の柔らかさ=しなやかな強さをつくっていくのだと、気づきをもらえました。
地域を変えるということは、自分たちが変わるということ
『地域も自分もガチで変える!逆転人生の糸島ブランド戦略』は、タイトルに「地域」と「自分」の両方が入っています。
それはつまり、「地域を変えること」と「自分(組織・企業)を変えること」は切り離せないということだと思いました。
地域を良くしたい。事業を残したい。会社を大きくしたい。そう願うなら、まずは自分たちの意識や行動を変化に向かって開いていく必要があります。そして、それを支えるフレームや仲間、寛容な土壌が必要です。
各章の終わりには「MBAミニ講座」として、以下のようなフレームワークや手法が紹介されます。
3C分析
VRIO分析
4P(製品・価格・流通・販促)
セグメンテーションとターゲティング
価値共創マーケティング(CSV)
地域資源のブランド化と差別化戦略
それぞれの手法について、講義的な説明にとどまらず、「糸島市ではこのように使った」という実地応用の例が豊富に書かれていました。
また、成功例だけでなく、うまくいかなかったプロジェクトや、著者自身が辞めたいと思っていた新人時代のエピソードも包み隠さず書かれていました。
期待していた関係者との連携が思うように進まなかったこと
提案した企画が「前例がない」と却下されたこと
「なぜ公務員がこんなことを?」という周囲の目に葛藤したこと
こうしたエピソードは、地方で組織の中に身を置きながら変化を起こそうとしている人にとって、非常に共感できる部分ではないでしょうか。
さいごに(糸島ブランド戦略を読んで)
データで事実を見て、戦略を立てること。変化を拒まないこと。 外とつながること。 違いを歓迎すること。
本書で描かれる糸島の挑戦は、まち・企業・個人が「変化とどう向き合うか」というテーマでした。
優秀な若手職員が入ってきては、仕事のやりがいを知らないまま次々と辞めていく姿を見るのは、本当にいたたまれない想いです。 本書を読んでいただき、地域の未来を担う人たちが少しでも希望を持ってもらうお手伝いができたのであれば嬉しいことです。
論理的に分析して進めること、戦略の大切さと変化を恐れず突き進む力が得られる本でした。
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当社では、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。
地方に関する知識とマーケティングの知識を使いデータ(事実)に基づき、戦略設計から実行まで行うことが特徴です。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【記事を書いた人】

株式会社HONE
マーケター 亀元梨沙子