成功する地域おこし協力隊募集とは?―全国の事例から学ぶ、ミスマッチを防ぐ募集のつくり方【研修レポート】
- 桜井 貴斗

- 1月18日
- 読了時間: 12分

今回は、1月15日に静岡県下の自治体の皆さま向けに実施した地域おこし協力隊研修「行政課題から考える協力隊募集のつくり方」を一部抜粋してレポートします。
地域おこし協力隊制度が始まって15年。隊員数は過去最多の約8,000人に達し、2026年には「1万人時代」を目指すなど、制度は飛躍的な的拡大を遂げました。しかし、その輝かしい成長の裏で、現場では深刻な課題も浮き彫りになっています。
「応募者が集まらない」
「着任してみたら『こんなはずじゃなかった』とミスマッチが起きる」
「任期終了後に地域に残れず、帰ってしまう」
私が複数の事例を調べたり聞いたりして感じたこととして、成功している自治体には、共通する「設計思想」が存在します。
本記事では、研修で公開した「事例」と実践できる「募集設計のフレームワーク」のうち、事例部分のみをお届けします。
株式会社HONEでは過去のセミナー資料、お役立ち資料、会社紹介資料がダウンロードできます。
目次
事例①:ターゲットを明確に切り分ける「岡山県真庭市」
事例②:地域の”弱み”さえも価値に変える「北海道喜茂別町」
事例③:世界観とキャリアパスの可視化「福島県西会津町」
事例④:OBOGネットワークと手厚い支援「新潟県十日町市」
第1章:制度は「量的拡大」から「質的深化」へ。現場で起きている4つの「壁」
まず、協力隊を取り巻く現状を整理します。 総務省のデータによると、隊員数は右肩上がりで増えていますが、一方で約半数(50%)の隊員が着任後に「こんなはずではなかった」というギャップ(ミスマッチ)を経験しているというデータがあります。

その原因は、以下の4つの「壁」があります。
募集・確保の壁:来て欲しい人に情報が届かない
定住・定着の壁:任期後の生業が見つからない
ミスマッチの壁:期待と現実にズレがある
地域との関係性の壁:地域コミュニティに馴染めない

特に深刻なのは、「何でも屋」問題です。
抽象的な話が多く、明確なミッションが提示されていなく、日々の事務や雑務に忙殺され、「やりたい仕事ができない」と意欲を喪失してしまうケースが数多く発生しています。
また、任期後のキャリアが見えないまま3年間が過ぎ、結果的に地域を離れてしまう(定着率は約65%、裏を返せば3割以上が流出)という現実もあります。

解決のするためには、「来てから考える」ではなく、「来る前(募集段階)」での相互理解と期待値のすり合わせが不可欠です。
第2章:全国の地域おこし協力隊募集事例に学ぶ「4つの引力」
では、うまくいっている自治体は何が違うのでしょうか?
わかりやすい事例を分析すると、そこには「4つの引力」が働いていることがわかりました。

明確なミッションとターゲット(Will/Canを刺激する)
心を動かす地域の物語(ここで挑戦したいと思わせる)
未来を描く「先輩」の声(任期後の姿が想像できる)
挑戦を支える盤石な体制(安心して飛び込める環境がある)
ここからは、研修で紹介した具体的な事例を深掘りしていきます。
事例①:ターゲットを明確に切り分ける「岡山県真庭市」
岡山県真庭市は、全国平均(約65%)を上回る7割以上(71%)の高い定着率を誇る先進地です。 真庭市の募集の巧さは、ターゲットに合わせて募集テーマを明確に「2軸」で切り分けている点にあります。

ミッション型
地域や行政が抱える課題が明確な場合
「コミュニティマネージャー」「森林組合の経営計画づくり」など、具体的な役割を提示し、スキルを持った即戦力を募ります
提案型
「真庭でこんなことがやってみたい」というアイデアを持つ人材向け
「取り組みたいテーマは自由」とし、起業家精神のある層にアプローチします
このように「誰に」「何を」してほしいかを整理することで、応募者は「自分のスキルが活かせるか」「自分のやりたいことができるか」を判断しやすくなり、結果としてミスマッチが激減します。
また、岡山県真庭市移住定住ポータルサイト「COCO真庭」では地域の説明、移住の流れ、
地域の取り組みや人の紹介など地元ライターと協働して制作しており、移住後のイメージがとてもわかりやすくなっています。

さらに活動拠点として「真庭市交流定住センター」を設け、OBOGや行政職員が日常的に顔を合わせる仕組みを作っている点も、定着率向上の大きな要因だと感じました。

事例②:地域の”弱み”さえも価値に変える「北海道喜茂別町」
地域の課題や弱みを「包み隠さず伝える」ことが、逆に信頼と共感を生むケースがあります。
北海道喜茂別町の「空き家コーディネーター」の募集では、単に「自然豊か」と謳うのではなく、「空き家はたくさんあるけど、活用されていない!」という現状の課題をストレートに記載しました。その上で、「だからこそ、あなたの力が必要です」と接続することで、課題解決意欲の高い人材の心に火をつけました。
実際に掲載されていた内容はこちら↓
その問題とは、空き家問題です。 喜茂別はかつて8000人ほどの人口がいましたが、いまは約1900人。町のいたるところに「空き家」はあります。町には「空き家バンク」があるものの、上手に活用できていないのが現状です。そこで今回、「空き家活用担当」として地域おこし協力隊を募集することになりました。 具体的な業務としては以下のようなことを想定しています。 ▼空き家情報の管理 町が運営している「空き家バンク」制度を活用し、町内の空き家状況の調査や所有者との交渉、情報発信などを行なっていただきます。 ▼地域住民と移住検討者との連携 実際に空き家を活用する多くはこれから移住してくる方たちです。移住コーディネーターと連携しながら、空き家と移住検討者のマッチングを行なっていただきます。 ▼空き家活用の啓蒙 町内には空き家は多いですが「親が存命のうちはまだ売らない」という方たちもいらっしゃいます。思い出の場所なので素敵なことですが、豪雪地帯のため、放置をすると倒壊をしてしまう可能性もあります。そこで、空き家活用に関しての理解を深めるための情報提供などを行なっていただきます。
魅力だけでなく、現状の課題を包み隠さず記載することで協力隊候補の使命感を醸成することも1つの動機づけとなります。
事例③:世界観とキャリアパスの可視化「福島県西会津町」
福島県西会津町は、「西会津国際芸術村」という独自資源を活かし、クリエイティブ人材誘致に成功しています。 特筆すべきは、募集ページ自体のデザインや写真のクオリティです。

「日本の田舎に行こう。」というキャッチコピーとともに、雪景色や古民家の美しいビジュアルを展開し、「自分の感性に合う場所だ」と直感できる世界観を作り込んでいます。
さらに、募集要項では「3年間のイメージ」をサイト内に図示。
「1年目は技術習得」「2年目は活動継続」「3年目は企画・運営」といったステップに加え、現在募集中の分野(事業承継、農業後継者など)を明記することで、応募者は自分のキャリアパスを具体的に描くことができます。


事例④:OBOGネットワークと手厚い支援「新潟県十日町市」
応募者が最も不安に感じるのは「よそ者の自分が、地域に馴染めるか」「3年後に食べていけるか」という点です。
新潟県十日町市は、14年間で定住率7割超、直近3年では88.2%という高い定着率を維持しています。その秘訣は、行政だけでなくNPO等の受入団体が「二人三脚」で隊員を支える体制にあります。
お試し協力隊(インターン)制度を活用し、採用前に最大3ヶ月間のマッチング期間を設けることで、ミスマッチを徹底的に防いでいます。

▼【新潟県十日町市 コミュニティ型 地域おこし協力隊】
新規就農者を育て、地域をつなぐ。隊員とサポート団体との二人三脚(TURNS)
▼十日町市地域おこし協力隊サポート制度について(里山プロジェクト)

第3章:募集成功は「点」ではなく「線」で考える
最後に募集から採用までの流れ(カスタマージャーニー)についてです。
募集要項を公開して終わり、ではありません。「認知」から「応募」までを丁寧にエスコートする必要があります。

1. 認知(知ってもらう):各種募集プラットフォーム活用、広告
2. 検討(興味を持つ):「4つの引力」を盛り込んだ特設ページの制作
3. 体験(確信を深める):お試し協力隊(インターン)、現地の先輩隊員との交流会
4. 応募(決断する):オンライン面談でのカジュアルな相互理解
特に重要なのは「体験」です。
岡山県真庭市や新潟県十日町市のように、応募前に現地に滞在し、地域の人と触れ合う「お試し」期間を設けることで、入隊後のミスマッチは劇的に減少するはずです。
おわりに:地域の「本気」が、人を呼ぶ
今回の研修を通じてお伝えしたかったのは、「優れた人材は、優れた『役割設計』にこそ集まる」ということです。
「地域活性化」という言葉は一見良さそうですが曖昧な表現でもあります。そうではなく、地域の現状(課題や弱み)を直視し、それを解決するための具体的なミッションと、安心して活動できる土台、そして挑戦できる余白を設計した上で外部へ発信していきましょう。
HONEでは、こうした戦略的な募集設計のサポートから、着任後の伴走支援、そして地域の魅力を再発見し言語化する「GHILフレーム」を用いた言語化まで、一気通貫でサポートしています。
「地域の未来」を作るのは、結局のところ「人」です。 自治体の熱意と戦略的な工夫が伝われば、未来を共創する仲間が集まります。今回のレポートが、皆様の協力隊募集の一助となれば幸いです。
もしこの記事を読みながら、「うちの地域の強みってなんだろう」「どんな人をターゲットにすればいいか相談したい」などと感じることがあれば、HONEにお気軽にご相談ください。
HONEは地域に根ざし、現場に足を運ぶマーケティング会社です。
日本の地方には、魅力的な商品・サービスがたくさんあります。
地方に根ざしたブランドの志や文化、人々の誇りや営み。HONEはそうした人たちの想いを価値に変えるべく、現地に出向いてきました。 私たちは、文化と経済の「骨」を設計し、地域の「らしさ」を未来へつなげる仕組みを育てます。 論語と算盤。想いと仕組み。美学と実行力。 その両立を、マーケティングの力で実装していきます。

▼HONEにできること
語られていない価値の「骨」を探す
商品や地域の中にある「想い」や「背景」は、まだ言語化されていないだけかもしれない。 それらを丁寧にすくい上げ、ブランドの芯として翻訳します。 見落とされがちな隠れた価値に役割を与えることが、事業の骨格をつくるはじまりです。
現場に入り、五感を使って「骨」を磨く
戦略も仕組みも、現場を歩き、対話することから始まります。 地形、歴史、空気、人の言葉やまなざし。デスクリサーチでは捉えきれない情報を五感で受け取り、定量と定性、論理と情緒、ロマンとそろばんを掛け合わせて、設計に落とし込みます。
手を動かしながら、「骨」を強くする
支援とは、プランを出して終わりではありません。 現場に入り、泥臭く、時に失敗しながら共につくりあげていきます。 頭で考えて、手足を動かす中で生まれる「実感」こそが、骨を太くし、しなやかに持続する構造を育てていきます。
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目指すのは、ただ売ることではありません。 地域に根ざした文化や営みに芯を通し、事業として持続可能なかたちに育てていくこと。短期的な成果ではなく、関わる人たちの誇りとなり、語り継がれていく仕組みをデザインします。 HONEは、経済と文化をつなぐ骨を共につくり、未来へと残していきます。

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なぜ今、“地方”でマーケティングが必要なのか
マーケティングという言葉には、しばしば「スケールする」「売上を伸ばす」といったイメージが付きまといます。しかし、地方において本当に必要なのは、そうした直線的な成長だけではありません。人口減少、担い手不足、そしてインフラや情報環境の未整備。多くの地域が、さまざまな制約の中で日々の営みを続けています。
制約が多いからこそ、その土地に根ざした価値を継続し、文化や人々の想いを循環させていくための工夫が欠かせません。マーケティングの論理をそのまま持ち込むのではなく、人肌を大切に、想いを大切に、未来へとつなげていく。実装力と創造力を備えた「地方のマーケティング」が必要です。

地方に必要なのは、「地域理解」
こうした現場においてまず必要なのは、「何をどう売るか」よりも先に「この地域には何があるのか」「何を残していきたいのか」を知っていく姿勢。つまり「地域理解」です。ブランド構築の土台を固めるには各レイヤーごとに把握すべきポイントを理解することが重要です。

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【記事を書いた人】

株式会社HONE
代表取締役 桜井貴斗
札幌生まれ、静岡育ち。 大学卒業後、大手求人メディア会社で営業ののち、同社の新規事業の立ち上げに携わる。 2021年独立。クライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営に従事。











