ばあちゃんが“働く”を選べる地域っていったい? 〜「ばあちゃんビジネス」を手がかりに、地域の役割を考える〜
- 森勇人

- 9月19日
- 読了時間: 9分

HONEインターン生の森です。
2025年9月12日、静岡市役所静岡庁舎3階「茶木魚(ちゃきっと)」にて特別トークイベント「ばあちゃんが“働く”を選べる地域っていったい?〜「ばあちゃんビジネス」を手がかりに、地域の役割を考える〜」が開催されました。
講師は、福岡県うきは市で「ばあちゃんビジネス」を展開されている、うきはの宝株式会社代表の大熊充さん。
主催は、静岡に根ざして、新しい学びの場を作る団体「BURICOBA」代表の小林祐介さん。
小林さんが活動する中で、「若者が地域に関わることで、これまで地域を支えてきた方々の役割を奪ってはいないか?」という問いをもとに、世代を超えた「役割」を考える時間として企画されました。
今回のイベントでは、大熊さんのお話を起点に「働く」や「役割」を、私たちの地域でどう考えられるかを深める時間としました。
ぜひ最後までご覧ください。
株式会社HONEでは過去のセミナー資料、お役立ち資料、会社紹介資料がダウンロードできます。
目次
世代を超えた経済活動
書籍のご案内:『ばあちゃんビジネス』(小学館)
登壇者紹介
小林 祐介さん

静岡市を拠点に活動する若手の実践者であり、株式会社県大文化通信の代表として大学内書店の経営や地域文化の発信を行っています。また、一般社団法人草薙カルテッドでは、エリアマネジメントに取り組み、自治会や商店会、大学、行政を繋ぎながら地域活性化を推進しています。まちづくりやキャリア教育の現場にも関わり続け、地域と若者を橋渡しする存在です。
大熊 充さん

株式会社うきはの宝代表取締役。福岡県うきは市出身。デザイン事務所を経営した後、専門学校でソーシャルデザインを学び直し、起業家として活動を始めました。2019年10月、超高齢化の進む地元で「ばあちゃんビジネス」を実践するためにうきはの宝を設立。平均年齢75歳以上のばあちゃんたちが、自らの得意や特性を活かして働ける仕組みをつくりあげています。
桜井 貴斗

株式会社HONE代表取締役。2021年に独立し、現在は「地方に骨のあるマーケティングを実装する」をミッションに掲げ、地域のブランディングや事業支援を行っています。地方に根ざした文化や伝統を大切にしながら、マーケティングの力で地域の魅力を可視化し、次世代につなげていくことを重視しています。今回はモデレーターとして議論を支えました。
「ばあちゃんビジネス」とは何か

登壇した大熊さんが立ち上げた「ばあちゃんビジネス」は、平均年齢75歳以上の女性たちが中心となり、食堂や喫茶店、裁縫や商品づくりといった、ばあちゃんたちが従業員として働くビジネスです。
真ん中に写っているばあちゃんは何歳に見えますか?
78歳や80歳といった声があがりましたが、なんと90歳を超えているそうです。
しかしながら、未だ現役で元気に働かれているそうで、皆さん驚きを隠せない様子でした。写真からわかるように、この事業の特筆すべきは、適度に働くことで老化を抑え、自らの役割や生きがいを取り戻している点です。
例えば、「ばあちゃん喫茶」では、認知症や介護を受けている方であっても、調理や接客を担い、来客に喜ばれる場面が日常的に生まれています。
そこには、「仕事はありがとうを生む」という原点が息づいていました。
高齢者は「守られる人」か「共に働く仲間」か

大熊さんの姿勢は一貫しています。
「高齢者を保護するつもりは全くない。協力して働く仲間だ。」
この言葉は、介護・福祉の文脈で語られがちな、「高齢者=保護対象者」という前提を覆すものです。認知症や身体の不調があっても「人」として、そして「働く仲間」として尊重します。
現場では、ばあちゃんたちを主役に据え、若い世代のアルバイトやインターンの学生たちが、裏方で支える仕組みになっています。全体で60人ほどの規模で、おばあちゃんと孫、ひ孫世代までが一緒に働くというユニークな組織になっています。
もちろん、これは無理を強いることではありません。むしろ、「”適度なストレス”が心身に良い影響を与える。」という研究結果を背景に、仕事を通じた刺激が健康や幸福感を、ばあちゃん達にもたらしているようです。
世代を超えた経済活動
大熊さんは、学生時代から「若者がじいちゃん・ばあちゃんを肩に乗せて苦しんでいる」という社会保障の比喩を目にしてきて、これが"老害"という言葉の出現にもつながっていると指摘しました。その背景には高すぎる社会保障費という現役世代の負担があります。
しかし、実際に高齢者の声を聞くと、「保護されたいわけではない」「若者に迷惑をかけたくない」という意見が多く、必ずしも保護を望んでいるわけではありません。
だからこそ、「保護」ではなく「共に働く」ことを軸に、世代を超えて前向きに経済活動に参加する社会をつくる必要があると語りました。
地域に広がる「ばあちゃんモデル」

この事業は、福岡県うきは市という、高齢化率60%超の過疎地域から始まりました。 当初は「高齢者を働かせるなんて不謹慎だ」と批判され、事業継続は99.9%不可能と言われたそうです。
しかし、ばあちゃんたちの笑顔と成果がすべてを覆しました。 今では福岡都市圏にも展開し、メディアで2000件以上取り上げられ、全国の研究者が注目するモデルケースとなっています。
「この町はもう無理ゲーだ」と言われる状況に抗い、ばあちゃんたちを巻き込み立ち上がった姿は、地域再生の可能性を示しています。
また、地元での取り組みは、うまくいけば強い推進力を持つ一方で、苦情や横やりに悩まされることも多いそうです。その点、都会では周囲から干渉されることがほとんどなく、むしろ事業をスムーズに進めやすいという裏話も教えていただきました。
ばあちゃんビジネスの原点

大熊さんが「ばあちゃんビジネス」を始めたのは38歳の時です。中卒で高校を中退し、社会に出てからも挫折の連続でした。転機となったのは20代のバイク事故です。長期入院で役割を失い、食事や入浴も人の助けが必要な日々を過ごし、絶望の淵に立たされます。
そんな中で出会ったのが、同じ病棟のばあちゃんたちでした。夜中でも気さくに声をかけ、時に鬱陶しいほど話しかけてくれるばあちゃんたちに救われたといいます。
「最後の最後まで生きるっていうのを僕もやろう。」
「死」ばかりを見ていた自分を、「生」へと引き戻してくれたばあちゃんたちは、まさに人生の恩人でした。
その恩返しこそが今の活動の原点です。
「高齢者を保護するのではなく、仲間として迎える」という姿勢は、病棟で出会ったばあちゃんたちから生まれたものです。現在注目を集める「ばあちゃんビジネス」は、大熊さん自身の人生の再生と深く重なっていました。
「世の中のため」は後付けでいい

世の中にとっていいよねは後付けであり、ばあちゃんたちのためにやる。
まずは目の前のばあちゃんたちが喜び、誇りを持てること。
その延長線上に、結果として地域や社会にとってプラスが生まれる。
こうした社会性の強い事業では、社会課題解決や地域活性化といった大義名分が先行しがちです。しかしながら、この“エゴの正直さ”が、むしろ事業を強くし、長く続ける力になっているのでしょう。
高齢者労働と法律の壁

質疑パートでは、株式会社カネス製茶の小松元気さんから「高齢者の生産性の違いや、報酬の配分はどうしているのか」という質問が出ました。小松さん自身が、事業で高齢者の方に力を借りているからこそ分かる、現場のリアルなお悩みです。
大熊さんは現在、業務ごとの委託型で運営しており、それぞれの得意や体力に合わせてタスクを切り分けていると説明しました。
その上で指摘されたのは、憲法にある「労働者の平等」という理念です。現行制度では時給制を前提にしているため、生産性が異なっても報酬は同じになり、不公平感や制度のゆがみを生んでしまうという問題があります。
大熊さんは、「この矛盾を解消するには、現実に即した仕組みへと制度そのものを見直す必要がある」と強調しました。
地域の役割をどう捉えるか

今回の学びを、静岡に生きる私たちの地域に引き寄せるならば、問いはこうなります。 「ばあちゃんが“働く”を選べる地域とはどんな場所か?」
年齢や状態を理由に役割を奪わないこと。
「保護する」でも「放置する」でもなく、仲間として関わること。
適度なストレスや責任を共有することで、生きがいを生み出すこと。
それは決して「福祉政策」だけで実現するものではなく、地域の企業・若者・行政が共に環境を整え、文化として根付かせる必要があります。
おわりに

講演を通じて見えてきたのは、「働く」という営みが人の尊厳や幸福に直結するという事実でした。
適度に働くことは老化を抑える。
最後の最後まで生きる。
仕事は「ありがとう」を生む。
これらの言葉が示すのは、年齢を超えた普遍の人間観です。
「ばあちゃんビジネス」は単なるユニークな地域事例ではありません。そこには、人口減少・高齢化という、日本全体が直面する課題へのひとつの答えが凝縮されています。
効率だけを考えれば、若者や機械に任せた方が早くて正確だし、社会全体のコストも下がります。しかしながら、今回のお話で分かるように、それだけでは社会は続いていきません。
誰もが役割を持ち、生きがいを感じ、健康でいられることこそが、長い目で見れば一番持続可能な仕組みになるのだと思います。大熊さんの「ばあちゃんビジネス」は、そのことを実際に証明していて、私自身、未来の社会の姿を、少し垣間見せてもらえた気がしました。
書籍のご案内:『ばあちゃんビジネス』(小学館)
大熊さんの取り組みをもっと深く知りたい方へ
2025年4月、小学館より著書『ばあちゃんビジネス』が出版されました。本書には、うきはの宝が7年間にわたって積み重ねてきた実践と、75歳以上の高齢者が元気に働く場をどうつくってきたか、その背景やノウハウが余すところなく綴られています。
書籍の購入はこちらから
ばあちゃん新聞WEB版
「ばあちゃん新聞」に、満を辞してWEB版がスタート!
ばあちゃんの知恵や情報をお届けしている「ばあちゃん新聞」に日本全国の皆様が記事投稿で参加いただけます。
HONEについて
HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。
桜井がこれまで会得してきた知識・経験を詰め込んだ「3つのサービスプラン」をご用意しており、お悩みや解決したい課題に合わせてサービスを組んでいます。ご興味のある方は、ご検討いただければと思います。
\こ相談はこちらから/
またサービスのリンク先はこちら↓
その他、気軽にマーケティングの相談をしたい方のための「5万伴走プラン」もスタートしました。詳細はバナー先の記事をお読みください!
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
【記事を書いた人】

株式会社HONE
インターン/マーケター見習い 森勇人
静岡生まれ、静岡育ち。 大学3年次、1年の休学をして全国36都府県を巡る。山形県西川町では3ヶ月の地域おこし協力隊インターンを経験。 復学後、ご縁があり株式会社HONEにてインターン/マーケター見習いとして奮闘中。









