【レポート】「柳川観光の未来を描く」地域と紡ぐコンセプトづくり
- 梨沙子 亀元

- 5 日前
- 読了時間: 12分

2025年11月から12月にかけて、柳川市観光協会(DMO)さま主催の全3回の「柳川観光コンセプト策定ワークショップ」を実施しました。
本プロジェクトの目的は、観光計画やイベント単体にとどまらず、「柳川のらしさとは何か?」を地域の皆さん自身の言葉で再定義し、観光を通じてまちの未来像を共有・実装していくことにあります。
行政やDMOが一方的にビジョンを提示するのではなく、「観光を自分ごととして考える」機会を地域内に広げ、民間や市民の主体性を起点に未来を描いていく、意志ある取り組みです。
柳川市観光協会(DMO)noteはこちら
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ワークショップの全体像


観光戦略や計画は、動かなければ意味がありません。
「観光は、地域に暮らす一人ひとりが主役であってほしい。柳川の観光を自分ごととして考える場をつくりたい。」
この想いを、観光協会の氏家さんが当社代表・桜井さんに相談してくださったことから、今回のプロジェクトが始まりました。
ワークショップでは、地域に暮らす人・働く人が、それぞれの立場や日常の中で感じている「柳川らしさ」や「観光との接点」を持ち寄り、言葉にしていくプロセスを重視しています。
観光とは、舟やうなぎといった名物だけでなく、地域の空気や風景、人の営みそのもので行政が一方的に作るのではなく、地域の皆さんと共に編集します。 次のような3ステップでワークショップを設計しました。
①「らしさ」の再発見(強みの棚卸しとデータ分析)
②「〇〇といえば柳川」の定義(独自性の言語化)
③「どんなときに柳川に行きたくなるか?」(利用シーンの具体化)
この3つを3回に分けたワークショップです。
柳川を訪れた観光客の声から読み解く、現状と課題

ワークショップ開催の前に、直近1年以内に柳川を訪れた全国の旅行者357名を対象に、アンケート調査を実施しました。
調査から、現在の柳川観光の姿と今後の可能性、論点が見えてきました。
訪問形態・同行者
訪問者の多数は「家族連れ(58.64%)」「日帰り(53.78%)」
宿泊は「柳川宿泊(29.41%)」よりも「近隣宿泊(15.69%)」がやや多め
訪問目的・体験内容
最も多い目的は「グルメ(うなぎなど)」(76.54%)
体験コンテンツでは「うなぎのせいろ蒸し店」(64.43%)が最多
消費金額
柳川での1人あたり消費額は「5,000〜10,000円未満」が最多(27.73%)
満足度の傾向
「非常に満足」な層は、川下りや歴史文化、地元の人の温かさなど体験が多い
「不満足」層は、体験数が少なく、主にうなぎ店のみの訪問に留まりがち
特に「近隣宿泊」者に不満足が多く、価格と体験の乖離が課題に
価格と満足度の関係
価格が高く、体験が少ない=満足できない可能性
世帯年収700万円以上から満足度が上昇する傾向あり

事実を知る調査をすることで、リアルな課題と認識合わせができます。
【第1回】柳川らしさの再発見。データと生活文化から輪郭を描く


第1回は、「現状の把握と強みの再確認」がテーマです。
GHIL分析
地域の特徴を Geography(地理)/History(歴史)/Industry(産業)/Life(生活) の4つの切り口で整理するものです。
柳川の場合、以下のような「らしさ」が浮かび上がってきました。
地理(G):掘割に象徴される水のまち。「水郷」として独自の地形を持ち、自然と共にある生活
歴史(H):立花家や北原白秋、掘割文化など、生活と結びついた深い歴史と文化資源
産業(I):うなぎや海苔などの一次産業、そして観光。地域の経済を支える重要な柱
生活(L):スローで穏やかな暮らし、季節の行事やお祭りなど、土地に根ざした営み
これらを整理してみると、観光の表面的な「見る・撮る」だけではない、柳川の暮らしそのものが観光資源になる ということが、改めて見えてきました。



PESTやSWOTなどのフレームを使って外部環境を分析し、分析内容の共有がありました。
地域の特色と観光課題が立体的に浮かび上がっています。
調査結果、外部環境分析を参加者の皆さまと共に、インプットすることで前提の知識と情報を揃えグループワークに臨めるメリットがあります。
グループワーク内容

① 日帰りのお客さま
どのようにして立ち寄ってもらう理由をつくるか
どのようにして柳川に多くのお金を使っていただくか
どうすればまた立ち寄りたい、次は泊まりたいと思ってもらえるか
② 宿泊のお客さま
どのようにして泊まってもらう理由をつくるか
どんな体験をしてもらえるといいのか
どうすればまた訪れたいと思ってもらえるか
この内容でグループワークをしました。
グループワークから見えてきた方向性と前提

議論を通じて、観光のつくり方について複数の軸が提示されました。
重要な観点は、「分岐の判断」と、それを支える「前提条件のすり合わせ」でした。
観光設計の分岐カテゴリ
項目 | 柳川らしさに近い方向 | そうでない方向 |
静or動 | 静的な空間や暮らしの美しさをベースに、必要最小限の動的要素を加える | 派手な演出・にぎわい重視のエンタメ型観光 |
掘割の活用 | 掘割を「まちのプラットフォーム」として再定義 | 川下りの質向上に特化して観光商品化 |
体験の種類 | 文学・文化・人を媒介に深い意味を感じる体験 | 感覚的・発散的に楽しむ体験中心 |
観光と暮らしの関係 | 観光と暮らしがにじみ合い、地域の人も訪れたくなる場づくり | 観光客に限定した“別世界”を設計 |
グループから出たアイデア
参加者からは、方向性を具体化する数多くのアイデアが生まれました。一部抜粋します。
掘割を観光のインフラに:船上カフェ、夜の川下り×光演出、無人舟など多様な移動体験
静けさの演出:朝カフェ、提灯散歩、瞑想や香りイベントなど“静”を楽しむ時間の設計
文化と暮らしの共創体験:さげもん作り、地元食との共食、食×物語イベント
記念日や人生の節目に寄り添うまちへ:プロポーズ、記念日フォト、結婚式などの舞台に柳川を
【第2回】「〇〇といえば柳川」を考えるカテゴリー戦略

カテゴリー戦略とは?

「〇〇といえば柳川」、その“〇〇”をどう設計するか。がカテゴリー戦略です。
既存の競争市場ではなく、自分たちが勝てる独自市場=「カテゴリー」を自ら定義することの重要性を語りました。
香川県の「うどん県」に代表されるように、認知されるフックがあることで、他地域との差別化ができ、旅行者の記憶の中の「棚」を取ることが可能になります。
その中でも禁則事項(やらないこと)もセットで定義していくことで、輪郭がくっきりと浮かび上がります。
▼より詳しい解説はsuswork社の記事をお読みください。
POP・POD・POFで考える「選ばれる構造」

ワークでは、以下の3つの要素を使って、柳川のブランド構造を参加者自身が定義していきます。
POP(Point of Parity):選ばれるための最低条件
POD(Point of Difference):他と違う、柳川ならではの魅力
POF(Point of Failure):これがあると選ばれない理由
グループワークで出たアイデア(抜粋)


①「お舟で〇〇」
舟を使った体験を軸に、朝食・デート・肝試しなど舟上コンテンツを提案。
POD:「お舟が安全で誰でも体験できる」 POF:「アヒルボートなど世界観を壊す演出」
②「水の古都」
大阪などの「水の都」と差別化し、歴史ある水郷としての深みを打ち出す。
POD:「市民が誇りを持ち守る文化」
POF:「景観を壊す行動があると台無し」
③「雨の日」
北原白秋の童謡の世界観と結びつけ、「雨だからこそ行きたくなる町」を打ち出す。
POD:「雨音を楽しむ舟下り・雨ならではの演出」
POF:「雨=マイナス」の先入観
④「ポエマーになれるまち」
北原白秋の詩の文脈を活かし、詩情や感性で浸る観光体験を提案。
POD:「静かで内省できる空気感」
POF:「安価で騒がしいイメージ」
⑤「ゆっくり散歩できる街」
舟に乗る静けさや音の演出、車を排除したまち全体の構想も。
POD:「暮らしに根差した風景と静かな移動体験」
POF:「賑やかで喧騒な観光地化」
見えてきた共通点
今回のワークを通して浮かび上がってきたのは、「舟や水辺といった観光資源が、決して非日常のアトラクションではなく、柳川に暮らす人々の日常の延長にある」という点でした。これは他の観光地との大きな違いであり、柳川らしさの本質でもあります。
【第3回】観光体験の入口(シーンを考える)

2回のワークショップを通してでた、カテゴリーの中から中心とするものを決め、CEP(カテゴリーエントリーポイント)を探します。
6つの評価軸

各案に対して、以下の観点で点数化を実施しました(各5点満点/合計30点満点)。
顧客の課題フィット(ニーズの強さ)
独自性(他地域では真似しづらいか)
想起されるKWボリューム(言語化・検索されやすいか)
マーケットボリューム(対象シーンや母数の大きさ)
実現可能性・運営しやすさ
ブランド整合性(「静けさ×暮らし」との一致)
参加者がそれぞれにスコアをつけ、認識のすり合わせをしました。
スコアリングで見えた、柳川らしさの輪郭

冒頭では、前回のワークショップで出された観光体験の方向性案に対して、参加者それぞれがスコアリングを実施しました。各案に点数をつけてみると、高評価を集めたものには共通点が見えてきました。それは、「静けさ」や「暮らしとの近さ」といった、柳川の観光地化されすぎていない質感を大切にしていることでした。
スコアリングは「お舟で〇〇」が全体としては高い結果となりました。
属性ではなく「状態」に着目した設計

年齢や性別といった属性ではなく、「今どんな気持ち」「どんな状態にあるか」を踏まえて「何があると行動を促せるか」きっかけを作るということに焦点を当てて設計します。
▼未顧客理解の詳しい書籍はこちら
“未”顧客理解 なぜ、「買ってくれる人=顧客」しか見ないのか?
芹澤 連 (著)
想定された主な状態

心身ともに疲れていて、癒しを求めている
日常から一歩離れ、自分と向き合いたい
ひとり旅で静かな時間を大切にしたい
リタイア後、夫婦でゆったりと過ごしたい
都市の喧騒を離れ、静けさを体験したいインバウンド旅行者
このように、「どんな人か?」よりも「どんな気持ちか?」に寄り添う視点が、シーン設計の出発点となります。
提供価値のキーワードをまとめると
デジタルデトックス スマートフォンや日常の情報から物理的に切り離されることで生まれる強制的な余白。
浮遊感 水面に浮かぶ舟のやわらかな揺れによってもたらされる、身体感覚からの安心・リラックス。
スイッチング 舟に乗るという行為を通じて、日常から非日常へと切り替わる「転地効果」。
心を整える装置になり得ることを感じられました。
利用シーンとアイデア

ワークでは、「静けさ」「イベント」「暮らしとの境界」という3つの方向性から、多様なシーンアイデアが出されました。(まとめて記載します。)
静けさ・内省寄りのアイデア
舟上読書:水の音だけが響く中で読書に没頭する贅沢な時間
舟上瞑想:自然音に包まれながら静かに自分と向き合う体験
サイレント舟:会話もスマホも禁止。静寂を味わうための川下り
ヒーリング舟(雨の日限定):雨音と水音が重なり合う音のセラピー
賑わい・イベント寄りのアイデア
水上コンビニ/屋台舟:舟そのものが販売の場になるユニークな体験
ドローン船:未来的な移動や配送体験を舟で演出
「ホリデー(掘DAY)」:毎週水曜にだけ出現する水辺の小さなお祭り
ナイト舟:音楽や照明演出で彩る、夜の非日常体験
暮らしとの境界にあるアイデア
舟での通勤・通学・買い物:舟を生活インフラとして捉える未来構想
舟×ライフイベント:プロポーズ、七五三、お祝いなど節目の体験を舟で演出
舟がもたらすのは、変化
今回のワークを通じて浮かび上がったのは、舟という空間がもつ価値は、人々の感情や意識を変える力を持っているということです。
今後に向けて

今回のワークショップは、地域に暮らす人自身が主語となって未来を描くためのプロセスでした。
事前のアンケート調査によって、柳川観光の現状と課題を事実として共有し、GHIL分析やカテゴリー戦略、シーン設計といった複数のフレームワークを用いながら、「柳川らしさとは何か」「どんな状態の人に、どんな体験を届けたいのか」を、視点を横断させつつ、対話を重ねて言語化していきました。
調査による認識の土台づくりと、複数のフレームを行き来しながら解釈を深めていくプロセスがあったからこそ、思いつきではない、実装を見据えたアイデアが数多く生まれたと感じています。
3回のワークショップを通して一貫して浮かび上がってきたのは、柳川の価値は水とともにある暮らし、静けさ、内省の余白にあるということです。
舟や掘割はアトラクションではなく、日常の延長線上にある「心を切り替える装置」であり、人の気持ちや状態をやさしく変える力を持っています。
また、年齢や属性ではなく、「疲れている」「立ち止まりたい」「静かに過ごしたい」といった人の状態に寄り添う視点が、これからの観光設計において重要な入口になることも、参加者の共通認識となりました。
そして何より、このワークショップの意味をつくっていたのは、柳川に関わる一人ひとりの熱のこもった言葉や想いです。
暮らしの中で感じていることや誇り、「このまちを大切にしたい」という率直な声が交わされたこと自体が、自分ごととして捉え直す大切な時間だったと感じています。
今回描いたコンセプトやシーンは、ゴールではなくスタートです。
これからは、実証と実装を通じて、形にしていくフェーズに入ります。
今後も、地域の声とデータの両方を大切にしながら、
対話を起点とした観光・ブランドづくりを伴走していきます。
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誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。
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マーケター 亀元梨沙子









