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【レポート】静岡茶ブランディングプロジェクト 戦略アドバイザートークセッション【世界お茶まつり2025】

  • 執筆者の写真: 桜井 貴斗
    桜井 貴斗
  • 10月24日
  • 読了時間: 9分
売れる商品をつくるマーケティング実践プログラム 第1回 MVV策定編

2025年10月23日、静岡市にあるグランシップ(GRANSHIP 静岡県コンベンションアーツセンター)にて、世界お茶まつり2025がスタートし、静岡茶ブランディングプロジェクト 戦略アドバイザートークセッション -「ツーリズムと需要開拓ではじまる、茶業の新たなムーブメント」- が行われました


私も静岡出身として、静岡茶を文化として残したい一人として、静岡茶の今後あるべき姿について勉強しに行きました。


ぜひ最後までご覧ください。




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ダウンロード資料




イベント概要


今回のテーマは「ツーリズムと需要開拓で始まる茶業の新たなムーブメント」


静岡県のプロジェクトとして本格始動した「静岡茶ブランディングプロジェクト」に、総合プロデューサーとして佐藤可士和氏が着任したのがニュースとなりましたが、今回のトークセッションは同プロジェクトの戦略アドバイザーの小原嘉元氏と岩本亮氏の2名による「世界に通じるブランドをどうつくるか」について議論しました。



ツーリズムと需要開拓で始まる茶業の新たなムーブメント」
静岡茶ブランディングプロジェクト概要


なぜ、静岡茶は「世界で名乗れていない」のか


静岡茶は、中山間地の山のお茶から平坦地の深蒸しまで多様で高品質。製茶技術も全国屈指です。



それでも、世界では「静岡茶」というブランド人格が十分に伝わっていない。この現状を「自己紹介がうまくできず、名乗れていない状態」と表現しました。


上記の品種一覧にある通り、静岡茶は多品種が生産されており、甘いお茶から渋いお茶、煎茶・抹茶・紅茶・烏龍茶など、好みに応じたお茶を飲むことができます。それが故に、じゃあ「静岡茶とはなにか?」というと一言では名乗れない。


一大ブランドであるがゆえ、さらに複雑さゆえにわかりにくい状態になっていると言えるのかもしれません。



静岡茶ブランディングプロジェクトの目的と体制


今回のブランディングプロジェクトは以下の目的・体制・理念によって進行されています。


  • 目的:静岡茶の本来価値を再定義し、唯一無二の世界ブランドへ

  • 体制:総合プロデューサーに佐藤可士和氏、戦略Adに小原氏/岩本氏

  • 理念:共創。産地を一つに束ねるのではなく、各地域の個性を尊重しながら共通のベース価値を共有し、相乗効果を生んでいく

「当事者として一緒に苦しむ。汗をかく中でこそ、相互理解が生まれる」──岩本氏

まさにここだなと私も思っています。


無理に1つに束ねるのではなく、みんなが当事者として汗をかき、泥を被り、時には血を流していく。そうして相互理解が生まれてくるのだと思います。



セッションの核:ツーリズム×需要開拓


前半は小原さんの嬉野の事例を紐解きながらお茶をどのようにして観光に実装していったか?についてお話は進行しました。



嬉野で生まれた「ティーツーリズム」の発想


2016年、温泉・お茶・肥前吉田焼という三文化が同一市町に揃う稀有な地・嬉野で、地域内の当事者が自ら考え行動する「嬉野茶時」が始動。


無料が常識だった旅館のお茶を一杯800円へ価格設定するところからプロジェクトはスタートしました。「お茶は無料で飲めるもの」といういわば価値が「ゼロ」からイチへ動いた象徴的な一歩だといいます。


国内唯一の3つの地域文化が共存
温泉・お茶・肥前吉田焼という三文化が同一市町に揃う稀有な地・嬉野

やがて提供の舞台を旅館のラウンジから500年の茶畑へ移し、空間・観光体験価値を乗せて1杯1万円へ。この“価格の階段”は、モノ(プロダクト)単体の差ではなく文脈(体験)の差で価値を高めた軌跡だと感じました。


「背伸びしない日常に価値がある。生まれた時から茶農家の人が淹れる一杯には、その人の時間が宿る」──小原氏

「味」より「味わい」を設計する


お茶の味の違いは伝わりにくい。


だからこそ、どこで、誰と、どう飲むかという“味わい”を設計する。古い逸話では、敢えて不快→安堵→満腹という感情のコントラストを設計し、最後の一杯の価値を極大化した話もあるそうです。体験は味を超えて価値を創るわけです。


「味」より「味わい」を設計する
ただ単に高級体験をすればいいという話ではなく、体験にコントラストをつくる


文化と産業の断絶を越える


一方で日本の茶道界と生産現場の間には深い断絶がある、と岩本氏は指摘。茶会の「問答」は形式化し、生産知は共有されにくい。一方で生産者は、高価値な文化の場にアクセスできない。


海外では「茶の思想」と「美味しい淹れ方」への両面の価値が成立している。そこで岩本氏は工場を承継し、現場に入る当事者として橋を架ける道を選びたそうです。


「物質的価値を超えるサービスを提供しよう」──岩本氏


世界的お茶ブームとサプライチェーン再設計


タピオカ→おうち時間→ウェルネスを経て、いまや抹茶ブーム。


ところが需要増に対して、茶筅や茶碗の職人と生産・販売のバリューチェーンによる収益サイクルはなかなか繋がっていません。例えば静岡茶に静岡の器を合わせる――ワインのテロワールのように産地一体の提案が、価値をさらに引き上げることになりそうです。

「コーヒーが嫌いでもスターバックスに行く人が増えた」──岩本氏(ゴンチャ日本社長・角田氏)ブランドはプロダクトだけでなく、体験と販路によって広がるという示唆になります。


「寿司と寿司」モデルで考える、お茶の産業


「高級なお寿司が存在しなければ、回転寿司は存在できない」──小松弥助

高級寿司が権威と憧れをつくり、回転寿司が日常の接点を広げる。両輪があって初めて産業が太くなる。


お茶も同じで高級な茶会(1会で数千万円の価値が生まれる世界)と、日常のお茶のペットボトルは対立概念ではなく相互補完という話は確かになぁと感じました。


ハイエンドと大量消費的なマスプロダクト
ハイエンドとマスプロダクトは対立概念ではなく相互補完


静岡でやる理由:富士山が見える茶畑という“唯一無二”


嬉野で磨いたモデルを、日本の茶生産の中心静岡へどのように実装していくか。


富士山を望む茶畑は、世界が知る日本の風景。ここで一杯1万円の体験を成立させることには、象徴以上の実利があります。



景観への還元設計(フリーライドを防ぐには)


「海の見えるホテルを名乗るなら、海を美しく保つ投資を」

富士山×茶畑の価値は周辺の景観に依存することになります。茶室から見える茶畑を持つ10〜20軒の農家に印税のように分配し、耕作放棄を防ぎ、地域全体で景観を維持する。ブランドが環境に投資するのは必然だと、岩本氏・小原氏は説きます。



観光資源からの価値循環


嬉野温泉では、年間55万人の宿泊客から一人1,000円の「文化代(温泉・茶・酒)」を徴収すれば5.5億円が捻出できる。これを三文化へ再配分すれば、窯元など地域の基盤産業が息を吹き返す――そんな循環の具体像も共有されました。


個人的には観光客にはこれらの税を課してもいいんじゃないかなと思います。



山間地の再生:見えない価値を可視化する


お茶の価値は4層(①土/②茶畑/③茶農家/④茶葉)。


現在、価格がつくのは④だけ。だが本来、①〜③にも価値がある。

山間地は機械化が難しく生産性が低い。だからこそ、茶葉売上を3割に抑え、残り7割をツーリズムで稼ぐ。


畑や農家の営みそのものをサービス化することで、価格交渉力を取り戻せる。嬉野では10軒程度が収入を2〜5倍に伸ばした事例も紹介されました。


地域資源を消費するだけでなく、観光・オフィス誘致・学校の設立など、嬉野では資源を元手にさまざまなビジネスが展開されています。


嬉野の三層ストラクチャー
嬉野の三層ストラクチャー


数字で見る現実と打ち手


日本の荒茶・生葉の市場規模は約688億円、従事する茶農家は約2万人。


一方、観光は桁違いの巨大市場。薄利多売のインバウンドではなく、本質を理解し対価を払う少数に向けた高付加価値体験をつくること。体験を起点に帰国後の継続購買へつなげる設計が、産地を持続可能にします。



まとめ:風土×体験×共創が、静岡茶を「世界で名乗る」ブランドにする


静岡の核は風土。

南アルプスと富士の山々から流れる安倍川・大井川・天竜川が運ぶミネラル、朝夕の霧、起伏ある地形――この土台を物語の中心に据え、体験として翻訳し、当事者(共創)で実装していく。


高級と日常の両輪、見えない価値の可視化、そして景観への還元。この三点が、静岡茶の明日を太くすると感じました。



HONEのサービスについて


当社では、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。


大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。


学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。


誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。


地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。


HONEの流儀

私がこれまで会得してきた知識・経験を詰め込んだ「3つのサービスプラン」をご用意しており、お悩みや解決したい課題に合わせてサービスを組んでいます。ご興味のある方は、ご検討いただければと思います。




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最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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【記事を書いた人】


プロフィール

株式会社HONE

代表取締役 桜井貴斗


札幌生まれ、静岡育ち。 大学卒業後、大手求人メディア会社で営業ののち、同社の新規事業の立ち上げに携わる。 2021年独立。 クライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営に従事。

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