お茶農家はなぜ減り続けるのか?「儲からない構造理解」と脱却の糸口について【マーケティング視点で解説】
- 4月19日
- 読了時間: 13分

はじめに:お茶農家はなぜ減り続けるのか?
「お茶農家の担い手が急速に減っている」——この課題に対して、精神論や地元愛だけで立ち向かうのには限界があります。
事実、農林水産省などの定量的なデータを見ても、お茶農家の減少と産業の縮小は誰の目にも明らかとなっています。
茶栽培農家(経営体)の激減
農林水産省の「農林業センサス」によると、販売目的で茶を栽培する農業経営体数は、2015年から2020年のわずか5年間で約40%も減少し、全国で5,827経営体にまで落ち込んでいます。生産者の高齢化と後継者不足により、現在もこの減少トレンドに歯止めがかかっていません。
栽培面積の縮小
令和7年(2025年)産の茶の摘採面積(※1)は2万2,300haで、前年産に比べ1,200ha(5%)減少。平成10年代には約5万haあった面積が、ほぼ半減に近い水準まで縮小し続けています。 (参考:農林水産省 令和7年産茶の統計)
※1:摘採面積とは、茶を栽培している面積のうち、収穫を目的として茶葉の摘取りが行われた面積をいう
そもそも、ビジネスにおいて「儲かれば担い手は増える」というのは一つの真理だとするならばなぜここまで急激にお茶農家は減り、儲からなくなり、撤退を余儀なくされているのでしょうか?
今回は、お茶農家が直面している「儲からない構造的理由」、そこから抜け出し「儲かるようになるための戦略」、そしてその「実行を阻む根深い壁」の3つの視点から、一次産業と地方マーケティングのリアルを紐解いてみたいと思います。
なぜお茶農家は儲からなくなってしまったのか
お茶農家が苦境に立たされている理由は、単一の要因ではありません。大きく分けて「需要の変化」「流通構造」「コスト構造」の3つが複雑に絡み合っています。
1. 需要の変化:「飲料化」による単価の下落とプレファレンスの喪失
実のところ、日本国内の「お茶の消費量自体」はそこまで大きく減っていません。劇的に変わったのはその飲まれ方です。

急須からペットボトルへの移行
かつてお茶農家の利益源であった、単価の高い「一番茶(リーフ茶用)」が売れなくなりました。代わりに、ペットボトル用の安価な「二番茶・三番茶以降」の需要が中心となっています。
アベイラビリティ(買い求めやすさ)の低下
ペットボトルの台頭により急須を持たない家庭が増えたことで、コンビニやスーパーでの購入が増加。お茶屋さんで購入していたリーフ茶は消費者にとっての「フィジカル・アベイラビリティ(物理的な買いやすさ・使いやすさ)」を失ってしまいました。
プレファレンス(好意度)の欠如
ペットボトルのお茶は「〇〇農家のお茶だから買う」というブランド指名買いではなく、「喉を潤すための機能的な飲料」として消費されています。飲料メーカーのブランドは想起されても、お茶自体はコモディティ化が進み、結果として農家側が価格決定権を持てない状態に陥っています。
2. 流通構造:多重下請けによる「プライステイカー化」
伝統的なお茶の流通構造も、農家の利益を圧迫しています。
「荒茶」の多重構造
農家が作った「荒茶」を、茶市場や問屋(製茶メーカー)が買い取り、ブレンドして小売店に卸すという多重構造が基本となっています。
相場に依存するビジネスモデル
たとえ問屋がブレンドして「〇〇茶」などの地域ブランドとして販売したとしても、個々の農家の顔やこだわりは最終消費者に届きません。結果として、農家は市場の入札価格という「相場」を受け入れるしかないプライステイカー(価格受容者)となり、自ら付加価値をつけて高く売るルートが構造上塞がれてしまっています。
3. コスト構造:重い固定費と高騰する変動費
お茶の栽培は、他の農作物と比べても非常に初期投資と維持費がかかる「資本集約型」のビジネスです。
機械化による多額の投資負担
乗用型摘採機や製茶機械など、お茶づくりのための専用機械を揃えるには数千万円単位の投資が必要となります。
外的要因によるコスト増
近年、肥料代や、機械・製茶工場を動かすための燃料費(重油代)が異常に高騰しています。しかし、前述の通り農家には価格決定権がないため、製造原価が上がっても卸売価格に転嫁できず、利益だけが削り取られる構造になっています。
【まとめ】なぜ担い手は減るのか?
多額の設備投資と維持費(高いコスト)がかかるのに、最終製品はコモディティ化し(安い単価)、価格決定権は自分で決められない(相場依存)状況となっています。
この構造の中で戦い続ける限り、利益を出すには「質より量」で大規模化し、極限まで効率化するしか道がありません。しかし、それは資本力のある一部の大規模農園にしかできない戦い方となっています。
どうすれば儲かるようになるのか?
では、具体的にどうすれば儲かるようになるのか。答えはシンプルで、上記の構造の「逆」を突くゲームチェンジを図ることではないかと思っています。
1. 脱・プライステイカー(卸売からD2Cへの転換)
市場の相場に依存する多重下請け構造から抜け出し、農家自身が最終消費者と直接つながることで「価格決定権」を取り戻すアプローチです。
シングルオリジンでの販売
「〇〇県産のお茶」とブレンドされる前に、自園の畑、品種、製法の個性を前面に出して直販します。
大隅茶全(堀口製茶)さんの「カクホリ|KAKUHORI」という商品は、鹿児島県志布志市の温暖な気候と豊かな黒土に恵まれ育てています。生育や製造へのこだわりはもちろん、主に単一農場を中心に収穫された、単一品種のお茶と製法の組み合わせを吟味し、様々なシーンで楽しめるよう開発したブランドです。
カクホリの 8 種類のお茶は、鹿児島を代表する茶の品種や鹿児島茶の特徴である『深蒸し製法』などを組み合わせ、鹿児島茶の魅力を存分に堪能できる商品です。
「誰が作っているか」の可視化
「ただのお茶」ではなく「〇〇さんが作ったお茶」として販売することで、顧客との間に強固なプレファレンスが生まれます。ストーリーや熱量に共感するファンがつけば、相場に左右されない独自の価格設定が可能になります。
2. 「喉を潤す飲料」から「嗜好品・体験」への再定義
ペットボトル飲料と同じ「水分補給」の土俵で戦うのをやめ、提供価値をズラす戦略も1つの打ち手となります。
新たなメンタル・アベイラビリティの獲得
「喉が渇いた時」ではなく、「仕事の合間にリフレッシュしたい時」「大切な人へのギフト」「週末のキャンプで焚き火を見ながらゆっくりする時」など、別の文脈で想起される商品づくりへシフトしていく方法です。
フィジカル・アベイラビリティの再構築
急須がない現代のライフスタイルに合わせて、ティーバッグやドリップ式、あるいはワインボトルのような高級ボトリングティーにするなど、「買いやすく・淹れやすい」プロダクトへと変容させていく方法です。
体験型ビジネス(ティー・ツーリズム)
茶畑という圧倒的な景観を活かし、茶畑のど真ん中でのティーテラスや、茶葉のブレンド体験、カフェの併設など、「モノ(茶葉)」ではなく「コト(体験)」を売ることで高い単価を実現する方法です。
3. 地域内消費とインナーブランディングの強化
いきなり全国のマス市場や海外を狙うのではなく、足元の「地域」に目を向けるアプローチも有効となります。
地元で愛されるブランドづくり
地域の飲食店や宿泊施設(民泊やホテル)で自園のお茶を出してもらうなど、まずは地元の人々に「自分たちの地域にはこんなに美味しいお茶がある」と知ってもらい、消費してもらう道も考えられます(地産地消)。
地域の誇りになる
地元住民が日常的に楽しみ、他県から人が来た時に「ここのお茶、最高だから飲んでみて」と誇りを持って勧めてくれる状態を作れれば、強力な地盤と持続的な売上が生まれます。
4. アトツギ同士の共創・異業種コラボレーション
単独の農家ではリソースに限界があるため、地域の他のプレイヤーと組むことで突破口をつくります。
ローカルプレイヤーとの掛け算
例えば、地元のアウトドアギアとセットで「キャンプ専用茶」を開発したり、地元のパティシエと組んでお茶スイーツを開発したりと、異業種のアトツギ同士でコラボレーションすることで、互いの顧客層を行き来させ、新たな市場を開拓できるかもしれません。
静岡ではお茶文化とサウナ文化を融合した新体験「お茶サウナ」を広めるプロジェクトが始動。サウナ室いっぱいに広がる茶葉の香りと、サウナ後に味わう香り高い冷茶で、心も体も深く“ととのう”瞬間をお届けしています。
実行を阻む「4つの分厚い壁」
ここまで読んでいただいた方の中には「理屈はわかる。でも動けないんだよな…」という葛藤を抱えている方もいらっしゃるかと思います。
こと一次産業、特にお茶農家となると、単なるスキル不足だけでは片付けられない、根深い構造的・心理的なボトルネックが存在しているのではないかと思っています。
具体的な4つの壁について記載をしていきたいと思います。
① 「作るプロ」であって「売るプロ」ではない
農家の皆さんは、美味しいお茶を作るための情熱と技術を持った「職人」です。土壌を管理し、天候を読み、最適なタイミングで摘採と加工を行うだけで、すでに120%の労力を注いでいるようにお見受けします。
そこに突然「メンタル・アベイラビリティを高めよう」「D2Cで顧客と直接繋がろう」と言われても、「何じゃそりゃ…」となるのは当然だと思います。マーケティングやブランド構築のノウハウがなく、日々の農作業に追われて学ぶ時間もないというのが、最も物理的なハードルとなっています。
② 「関係の質」の悪化と世代間ギャップ(アトツギ問題)
ここが一番根深い問題とも言えます。
意欲のある後継者(アトツギ)が「これからは直販だ!」「体験型ビジネスに変えよう!」と新しい風を吹き込もうとしても、高い確率で親世代(現代表や会長)と衝突します。
親世代には、長年問屋や農協と付き合い、相場の中で生きてきた成功体験とプライドがあるため、新しいやり方を理解しづらい部分があります。ここで家族間・組織内の「関係の質」がこじれてしまうと、新しい挑戦に向かうどころか、日々の業務すらギスギスしてしまいます。結果として組織の成功循環モデルが回らず、変革が頓挫してしまうケースが多く見受けられます。
③ 地域や業界の「しがらみ」(既存の商流からの脱却リスク)
茶畑が広がるような歴史ある産地では、JAや地元の茶市場、昔から付き合いのある問屋との関係が、単なる「取引先」以上の意味を持っています。地域の共同体としての結びつきが強いため、そこを中抜きして自分たちだけで直販を始めることは、「村のルールを乱す」と見なされる心理的・社会的なリスクを伴うと感じています。
「あそこの息子、最近ネットで勝手なことをやり始めたらしいぞ」という同調圧力は、地域で暮らし続ける農家にとって想像以上に重い足かせになります。
④ 実行を支える「右腕」の不在
仮に素晴らしい戦略を描けたとしても、それを実務に落とし込むリソースが圧倒的に足りていません。パッケージのデザインを発注し、SNSを運用し、ECサイトの顧客対応をし、時にはクレーム対応もする。
これらを代表やアトツギが一人で抱え込むのには限界があります。 実務を泥臭く巻き取り、壁打ち相手になってくれるような、信頼できる伴走者や優秀なメンバーが社内にいないため、結局「現状維持(今まで通りただ問屋に卸す)」という選択肢に流れていってしまうのです。
【まとめ】お茶の産業革命は「綺麗な戦略」より「関係の質」から始まる
2026年4月14日、静岡県は「世界で愛されるジャパンブランドへ。静岡茶ブランディングプロジェクトブランドネーム・ロゴ・アクションプラン決定。」をリリースしました。
静岡県では、2025年〜2028年の4年計画として「茶業振興計画」を推進。本計画における施策の3本柱(1.茶業の構造改革による生産力の強化 2.輸出拡大と供給力の強化 3.静岡茶ブランドの構築と文化の継承)の一つとして、 2025年7月「静岡茶ブランディングプロジェクト」を始動し、各種の取り組みを進めてきました。
本取り組みもお茶の産業革命を行う一つの契機となるはずです。
以上、ここまでお茶農家が直面する「儲からない構造」と「ゲームチェンジの戦い方」、そして立ちはだかる「4つの壁」を解説してきました。
需要が変化しコストが高騰する中、これまで通りの「プライステイカー」として相場に身を委ねていれば、衰退していくのは自明の理です。この状況を打破するには、独自のプレファレンス(好意度)を築き、新しい文脈で顧客に価値を直接届ける仕組みへの転換が不可欠です。
また、この記事を通して最もお伝えしたいのは、「素晴らしい戦略を描くこと以上に、それを現場で実行するための『土壌づくり』が何よりも難しい」ということです。
数字の辻褄が合っただけのスマートな事業計画や、最新のマーケティング手法をそのまま現場に持ち込んでも、一次産業の分厚い壁には弾き返されてしまいます。なぜなら、実行を阻むボトルネックの根源は、「親子の対立」や「地域の同調圧力」「右腕不在の孤独」といった、極めて人間臭く泥臭い部分にあるからです。
だからこそ、変革の第一歩は、いきなりECサイトを作ることでも、パッケージをおしゃれにすることでもありません。
まずは、現代表(親)とアトツギ(子)、あるいはチーム内の「関係の質」を高めることから始まります。長年相場で戦ってきた親世代のプライドや不安に寄り添い、対話を重ねていく。そうして「関係の質」が向上して初めて、新しい挑戦に向かう「思考の質」と「行動の質」が前向きになり、最終的な「結果(儲かる農業)」へと繋がる成功のループが回り出すのです。
お茶農家の課題解決は、単なるビジネスモデルの転換ではなく、人を軸にした「人間中心」のアプローチが求められるローカルマーケティングの最前線だと言えます。
効率や短期的な数字だけを追うのではなく、地域や家族の文脈を丁寧に編み直し、実務を泥臭く前へ進める。そんなアトツギ同士の共創や、彼らを支えるローカルプレイヤーたちの挑戦が各地で結実していけば、「お茶は儲からない」という構造は覆り、次世代が自然と集まる魅力的な産業へと変わっていくはずです。
HONEのサービスについて
当社では、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。

大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。
学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。
誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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【記事を書いた人】

株式会社HONE
代表取締役 桜井貴斗
札幌生まれ、静岡育ち。 大学卒業後、大手求人メディア会社で営業ののち、同社の新規事業の立ち上げに携わる。 2021年独立。クライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営に従事。













