【トークライブ】「バラバラ」を武器に変える。観光まちづくりにおける一貫性と多様性の両立(柳川まちづくりのブランド戦略)
- 2 日前
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2026年3月17日(火)柳川観光未来会議 トークイベント「柳川DMO 柳川観光未来会議2026」が開催されました。
マーケティング・地域観光・クリエイティブという3つの異なる視点を持つスペシャリストが集い、まちづくりについてのトークが繰り広げられました。
本記事では、当日の各セッションの内容とクロストークで飛び交った印象的な話題をお届けします。
同時開催されたワークショップ「柳川観光未来会議 第4回」レポート
株式会社HONEでは過去のセミナー資料、お役立ち資料、会社紹介資料がダウンロードできます。
目次
マーケティング視点から読み解く「一貫性」の重要性(桜井さん)
稚内のローカルスーパーが体現する、コンセプト経営
ハイエンドとローエンドが共存するカテゴリーは強い
地域観光の現場における「バラバラ」の難しさとリアル(川口さん)
観光地域マーケティングは、なぜ難しいのか
先進事例から学ぶ、3つのアプローチ
大阪・関西万博の事例に学ぶ、一貫性と多様性の両立デザイン(引地さん)
デザインシステムとは何か
「こみゃく」が広がった理由
共創について
クロストーク|観光まちづくりにおいて、一貫性と多様性をどう共存させるか
「意志」が一貫性をつくる
柳川を外から見る、登壇者3名の第一印象
登壇者紹介

川口 政樹 氏(株式会社デイアライブ)
三重県庁に28年間在籍し、最後の9年間は観光行政・三重県観光連盟に従事。2024年より株式会社デイアライブにてプランナー/コンサルタントとして全国でDMO支援を展開。観光庁の専門家派遣事業にも登録されており、行政の内側を知る実務家として独自の視点を持つ。
引地 耕太 氏(株式会社VISIONs / COMMONs)
クリエイティブディレクター・デザインストラテジスト。大阪・関西万博のデザインシステム設計や東京2020五輪のブランド開発、第76回NHK紅白歌合戦のメインビジュアルなど、国家規模のプロジェクトを数多く牽引。現在は「未来社会の実装」をテーマに、テクノロジーとデザインを融合させ、領域を越えた体験設計を実践している。
桜井 貴斗 氏(株式会社HONE / Astlocal株式会社 代表取締役)
静岡を拠点に、北は北海道・南は鹿児島まで、全国各地の地方事業者のマーケティング・ブランディング支援を手がける。「地方に骨のあるマーケティングを実装する。」をミッションに、現場主義で地域の伝統や文化の継承をサポート。

ファシリテーター 氏家 将利 氏(柳川市観光協会DMO)
2024年より拠点を福岡県柳川市へ移し、DMOの立ち上げに従事。マーケティングリサーチ×AIの会社を創業した経験を活かし、柳川観光の未来を実装するプロジェクトを包括的に推進している。
マーケティング視点から読み解く「一貫性」の重要性(桜井さん)

桜井さんの話は、「一貫性」という言葉の定義から始まりました。
辞書によれば「始めから終わりまで、一つの仕方・考え方を貫き通すこと」。それをマーケティング的に言い換えると、「中心にキーコンセプトがあり、そこからすべての行動が紐付いている状態」のことです。
スターバックスの「第3の場所」という概念が例に出されますが、これはただのキャッチコピーではありません。 「落ち着ける空間」「自宅のようにいられるインテリア」「接客のスタイル」。あらゆる要素がこの一軸に向かって設計されています。それが一貫性を生み出しています。

「コンセプトがあって、周りにそれを体現するアクションが並んでいる。このアクションだけ見ると一見バラバラに見えるけど、中心の軸があれば一貫性になる。そこが地域でも同じだと思っています。」と語られました。
稚内のローカルスーパーが体現する、コンセプト経営

次に紹介されたのが、現在、当社(株式会社HONE)が支援している稚内市の「相沢食料百貨店」の事例です。 札幌からバスで6時間、人口3万人を切る最北の地で創業103年を迎えるこのスーパー。わかりやすい看板商品があるわけでもなく、北海道メインの観光地でもない。
その中で年商10億円の規模をつくり、地域に根付いています。
その軸にあるのが、「北の端から地域の食の当たり前をつくる」というキーコンセプトです。

このコンセプトから生まれた施策は、
うま味調味料を一切使わない無添加弁当
甘くなく・日持ちもしないが体にいい「北のはしベーカリー」
スーパーの一角に設けた角打ち(立ち飲みコーナー)
地元講師を招いたヨガ教室・健康体操
などです。
「スーパーでヨガ?」と感じる方もいるかもしれません。
でも「食の当たり前をつくる」という軸から考えれば、身体を整えることもその一環。軸さえあれば、表面的にバラバラに見えるアクションが一つの方向に向かっていきます。
ハイエンドとローエンドが共存するカテゴリーは強い

桜井さんが提示したのが、「ハイエンド×ローエンド」の考え方です。
回るお寿司と回らないお寿司は市場を食い合っているでしょうか? お茶で言えば、ペットボトルのお茶と茶道の文化は、同じ「お茶」カテゴリーの中で共存している。プチプラコスメとデパコスも然りです。
ハイエンドとローエンドが両方存在するカテゴリーは、市場全体がスケールする。一方、どちらかしかないカテゴリーは顧客を取り合うだけで広がらない。観光まちづくりにおいても、このポートフォリオを意識した設計がヒントになります。
地域観光の現場における「バラバラ」の難しさとリアル(川口さん)
観光地域マーケティングは、なぜ難しいのか
元三重県庁職員として9年間観光行政の現場に立ってきた川口さんは、「観光地域マーケティングは、一般的なマーケティングとは特性がまるで違う」という話から始めました。
その違いは、以下の4つあります。
①対象範囲の広さ

自社の商品・サービスだけを扱えばいい一般企業と違い、地域全体のブランドイメージから個々の事業者の商品・サービス、観光資源まで、すべてが対象となります。
②コントロールの難しさ

企業なら自社で決定できることも、地域では関係事業者だけでなく、住民も含めてステークホルダーが多いため、コントロールが難しい。
その中で旅行者は「柳川に来た」という一つの体験として評価をします。駅に着いた瞬間から帰るまでのあらゆる接点が、地域全体への評価につながります。
③多様なステークホルダー

ステークホルダーが多いということは、なにかの施策を実行する際の合意形成のハードルもおのずから高くなります。
④マーケティング活動が混在

自治体・DMO・個々の事業者…それぞれが自分たちにとってベストな活動をしている中で、一貫性を保つことは並大抵ではないのです。
このように、観光地域マーケティングは難易度が高いうえに、住民のニーズに合わせて全国のチェーン店が地方に出店してくるので、放置すれば自然と画一化してしまいます(ロードサイドがどこも同じような景観になりがち)。
地域らしさは、意識して守らないと生まれません。
先進事例から学ぶ、3つのアプローチ
川口さんが紹介した地域事例は3つです。
それぞれ異なるアプローチで「地域らしさ」を守っています。
京都市|行政主導の「景観防衛」

京都の景観づくりの柱となっているのは、2007年に導入された厳格な景観政策。建物の高さは最高31メートル(約10階建て)に制限され、屋根の形や外壁の色にも和風の意匠が求められます。
また、屋外広告物の規制は全国チェーン店であっても例外ではありません。そのため、おなじみの店舗も、京都の景観基準に合わせて看板の色やデザインを落ち着いたものに変更して出店しています。その徹底ぶりは、全国でも例を見ないものです。
一方で「高い建物が作れないと供給室数が減って家賃が高くなる」というトレードオフも生んでしまっているところも難しさを感じます。
興味深いのは、大阪での余談です。
橋下知事の時代に「大阪でも京都のような景観政策を」という話が上がったものの、「大阪のギラギラしたネオン、これこそが大阪らしさだ」と知事が一蹴したというエピソードがありました。
地域らしさに唯一の正解はなく、その土地の哲学が問われるということが印象的でした。
野沢温泉村|コミュニティ主体の資源管理

江戸時代から続く住民自治組織である「野沢組」が源泉の権利を所有・管理し、外部資本からの撹乱や行政の統廃合から地域資源を守り抜いてきた事例です。昭和の市町村合併ブームの中でも独立を保ち、地域住民が「湯仲間」という仕組みで外湯の清掃や管理を無償で担い続けています。
コミュニティの強固な結束が、地域アイデンティティを守る砦になっています。ただし昨今は外部資本の流入が新たな課題にもなっており、「これからどうするか」が現在進行形の議論になっています。
長門湯本温泉(山口県)|外部資本との戦略的協調

山口県の長門湯本では温泉街に、市が廃ホテルを撤去して星野リゾートを誘致しました。星野リゾートに温泉街全体のマスタープランを策定してもらい、その計画に沿って行政がハード整備を進めた事例です。
紹介されたのは「80回以上のワークショップ」です。
星野リゾートに全て任せるのではなく、地元側が80回以上にわたって対話を重ね、「自分たちで街をつくる」という当事者意識を醸成してきました。「他人事」という空気を打破して、住民の意識が、ワークショップでの対話を経て変わっていきました。
未来の羅針盤をつくる、まちの共通言語にする、官民一体で守る仕組みをつくる。
この3つが、地域らしさをつくるために大切なことと話されました。
大阪・関西万博の事例に学ぶ、一貫性と多様性の両立デザイン(引地さん)
デザインシステムとは何か

引地さんのトークは、大阪万博2025「デザインシステム」の設計の話から始まりました。 デザインシステムとは、「誰がどこで何を作っても、同じ世界観になるようにつくった仕組み」のことです。 ガイドラインとも呼ばれますが、今回の万博で挑戦したのは、従来のトップダウンで一貫性を押しつける形ではなく、「多様な人たちが参加できる余白」をデザインシステムの中に組み込むこと。国家プロジェクトでここまで踏み込んだのは、おそらく世界初でした。
「こみゃく」が広がった理由

万博のキャラクター「ミャクミャク」の二次創作として、SNS上で「こみゃく」と呼ばれる作品が次々と生まれたことを覚えている方も多いのではないでしょうか。
引地さんは、これらはデザインシステムが持つ「開かれた余白」から自然発生したムーブメント表現されています。
「目玉さえあれば何でもいい」という緩やかなルールのもと、子どもからアーティストまで、思い思いの解釈でこみゃくをつくりました。
「ルールを決めると創造性がなくなってしまうのではないか?」と思われがちですが、実は逆。核となる文化や価値基準が共有されているから、ルールを厳しくしなくても秩序が保たれる。変な絵を描いてくる人はいなかったとのことです。
私も日々の活動の中で、コンセプトや「らしさ」が地域に根付いていれば、事業者一人ひとりが「これは柳川らしいか」を自分で判断できるようになることが伺えました。細かい規制や調整ではなく、共有された哲学が、地域の多様性を束ねる力になるのだと感じます。
共創について

トップダウンとボトムアップを融合させる「共有地(コモンズ)」という考え方です。
制度や仕組みに一貫性を持たせるためには、どうしてもトップダウンの要素(デザインシステムにおける「プロトコル」)も必要です。
しかし、万博の事例で起きたのは、そこに市民が自発的に参加していくことで、トップダウンとボトムアップの間に、誰もが関われる「余白」としての共有地が生まれたということでした。
そして、この構造はデザインや万博といった枠組みを超え、私たちが日々直面するまちづくりや行政、組織・企業運営にも当てはまります。
ボトムアップだけに頼っていても、草の根の動きにとどまり、地域全体を巻き込むような大きなうねりには発展しにくいのが現実です。
だからこそ、両者をハイブリッドに組み合わせることが求められます。
「一貫性」というブレない軸を保ちながら、いかにして地域の人々が参加できる「多様性」の余白を設計していくのかが、これからの観光まちづくりにおいて、非常に重要な問いを投げかけられたように感じます。
クロストーク|観光まちづくりにおいて、一貫性と多様性をどう共存させるか

「意志」が一貫性をつくる
相沢食料百貨店の話に戻ると、「ヨガ教室がスーパーの一貫性を体現している」という説明は、一見すると矛盾しているように聞こえます。
引地さん: 「視覚的なこととかじゃなくて、ある種その意思とか意義とか、そういったところが一貫性として大事であって、それ以外は別に無理やり同じにしなくていいんじゃないか。アクションだけ見るとバラバラと言ったらバラバラだけど。」
川口さん: 「観光はあくまで地域を盛り上げるための手段。地域の方々に観光がどれだけハッピーにつながるかを伝えていくことが、まず大事なんだと思います。」
引地さん: 「『ブランドってこれだよね』って言った時に、入り口としては分かりやすいですよね。入り口は多様性がめちゃくちゃありすぎると、結局何なんだっけってわからなくなる。でも、そこから入っていった時に、こんなにいろんな種類があるんだっていう多様性をどう担保するかの設計を先にしとくと、初めて出会ったその人のいろんな側面を見ていくことで愛に変わっていくと思います。それが、地域ファンになる構造なんです。」
桜井さん: 「静岡茶で言えば、一つのグローバルブランドとして売っていくっていう方向性もあるけど、県内には産地によって全然品種も味も違うお茶があります。その多様性こそが静岡っぽいとも言える。一つの入り口から入ってもらって、奥に多様性の豊かさがある構造って、観光でも同じだと思うんですよね。」
入口は一貫性、奥行きに多様性 議論が深まる中で浮かび上がってきた一つの構造が、「入口は一貫性、奥行きに多様性」という捉え方です。
ここで、ファシリテーターの氏家さんから「全員の意見を聞こうとすると、街のコンセプトが薄まる問題」が問いとして投げかけられました。
引地さん: 「みんなの意見を全部聞いて全部やると薄くなる、角が取れていく。これはよく言われることです。核となる哲学はしっかり握った上で、ただそこに固持するわけでもなく、その哲学をベースに皆さんと対話していくというプロセスをどう設計するか、が大事だと思います。全員聞くわけでもないけど、しっかり対話をしていく姿勢だと思います。」
柳川を外から見る、登壇者3名の第一印象

イベントの終盤、会場から「柳川に来てみてどんな印象を持ちましたか?」という質問がありました。
引地さん: 「堀割がプラットフォームというか、あれ自身が人を繋げている役割になっているし、町の血管のように張り巡らされて、あれが生き生きとしていることで、この町は生き生きするんだろうなと。都市化していくことと人間との話を考えると、自然と人間の関係性がいいバランスでここにある。柳川モデルになり得る可能性があるんじゃないかなと感動しました。うなぎも美味しいですよね。」
川口さん: 「電線の地中化がきちんと取り組まれているなと。行政がこれを残していこうという意思を感じました。地中化は金もかかる大変な事業だけど、それをやってるってことは、他のところと違う。これを売りにしていけるのではないかと思っています。」
桜井さん: 「川下りって倉敷にもあったりする。関東の人がわざわざ柳川に川下りに来る理由って、明確に何だろう。そこの独自性が多分まだ伝わってない可能性があります。堀割なのか、水に触れるということなのか、もう少し解像度を高めて伝えていく必要があるなと感じています。」
まとめ
3人のスペシャリストが異なる角度から語っていたのは、 「一貫性とは、見た目を揃えることではなく、中心となる意思・哲学・コンセプトを共有すること」だという点でした。
スーパーがヨガ教室を開くことや、万博のキャラクターが二次創作されること。
一見すると異なる取り組みでも、中心の軸が共有されていれば、それは一貫性を持った多様性として成立します。
一方で、見た目だけを揃えようとすると、輪郭は整っても魂が宿らず、愛着は生まれません。
柳川でのワークショップを重ねる中で感じたのは、多様な方が参加しながらも方針がぶれない背景には、単に回数を重ねているからではなく、「はじめに何を議論するのか」という設計と対話が生まれる場づくりの大切さです。
地域というコントロールが難しい場においては、中心となる軸を定めながらも、誰もが参加できる余白を設計すること。時間をかけて対話し、ともに作り上げていく過程そのものが、本物の一貫性と多様性を両立させる道なのだと思いました。
地域の人たちの誇りを繋ぎ、同じ言葉で語れるようになること、その土台をつくることこそが、後の行動力と変化につながると信じています。
マーケティングやまちづくりにおいて本当に大切なのは、共に進めるための土壌と関係性を育てていくこと。あらためて実感できたプロジェクトでした。
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【記事を書いた人】

株式会社HONE
マーケター 亀元梨沙子








