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「熱狂的なファン」を追わない。地方ブランドの成長を左右する「ダブルジョパディの法則」とは?

  • 執筆者の写真: 桜井 貴斗
    桜井 貴斗
  • 7 日前
  • 読了時間: 11分
POP・POD・POFとは?「なぜ選ばれるのか」「なぜ選ばれないのか」を言語化する。

地方での事業は都市部とは異なり、マーケティングの専門部署がないことが多く、経営者や担当者の経験や勘に基づいて商品・サービスが提供されている場合が多いのが実情かと思います。


集客や売上が伸び悩む時、私たちはつい「熱心なファン(ロイヤルティの高い顧客)をさらに囲い込もう」と考えがちです。しかし、この「ファンを育成する」「ファンを醸成する」に重点を置く考え方こそが、実は地方ブランドの成長を妨げる「落とし穴」になっているとしたら、どうでしょうか?


今回、地方ブランドが持続的な成長を遂げるために不可欠な、マーケティングの根幹をなす法則「ダブルジョパディの法則(Double Jeopardy Law)」と、それに紐づく実践的な戦略について解説します。




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目次


第1章:ダブルジョパディの法則とはなにか?を紐解く


まず、ダブルジョパディの法則とはなにか?どんな状態のことを指すのか?というところから説明していきたいと思います。



1. ダブルジョパディとは「二重の危機」


ダブルジョパディの法則は、


マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティもやや低い。(Sharp, 2010/2018, p.8)

と定義づけされています。


ダブルジョパディとは「二重の危機」
ダブルジョパディとは「二重の危機」

つまり、「ロイヤルティを高めればブランドが成長する・売上が上がる」と思われているが、向きが逆。浸透率を増やさずにロイヤルティを高めたりはできない、と言われてます。


よく「2割のファンが売上の8割をつくってくれている(パレートの法則)」、「ファンを大切にすることで売上のベースができる(ファンベース的思考)」といったように、ファンにアプローチすることは「良いこと」とされがちですが、ダブルジョパディの法則では浸透率(新規アプローチ)を増やさずにロイヤルティを高めたりすることはできないと定義づけされています。


さらに、この法則が示すのは、「市場シェアの小さなブランドは、市場シェアの大きなブランドに比べて、二重のペナルティを負う」という厳しい現実も示しています。この「二重のペナルティ」とは、以下の2点です。


ダブルジョパディの法則
小さな企業は二重苦を被る

マーケットシェアが低いブランドは購買客数も非常に少ない。またこれらの購買客は行動的ロイヤルティも態度的ロイヤルティ(※)もやや低い(Sharp,201/2018,p.8)。


小さなブランドは売上を構成する顧客数(浸透率)と購入頻度(ロイヤルティ)の両方が小さくなる、売上が二重にペナルティを受けるということ。


  • 大きなブランドと小さなブランドの主な違いは顧客数であり、ロイヤルティの高さはそこまで変わらない(大きなブランドのほうがやや高くなる)


  • 顧客数が増えればロイヤルティも高まるが、ロイヤルティを高めたからと言って顧客数が増えるわけではない(むしろ、ロイヤルティだけを高めたりはできない)


売上は「顧客数(浸透率)× 購入頻度(ロイヤルティ)× 価格」で構成されますが、小さなブランドはこのうち「顧客数」と「購入頻度」の両方が低い状態、すなわち「二重の危機」に直面する、ということです。


※行動的ロイヤルティとは、実際に商品・サービスを購入したり、他者に勧めたりする習慣のことを指します。態度ロイヤルティとは、企業やブランド、商品・サービスに対して抱く「共感・愛着・信頼」など感情面のロイヤルティのことを指します。



2. 成長の源泉は「ロイヤルティ」ではない


つい「ロイヤルティ(ファン度)を高めればブランドが成長する」と考えがちですが、ダブルジョパディの法則は、原因と結果の向きが逆であることを示しています。


真実は「浸透率(顧客数)が高いから、結果としてロイヤルティも高くなるように見える」というものです。


顧客数が増えれば、ブランドの規模が拡大し、相対的に購入頻度も安定するという見え方になるのです。逆に、ロイヤルティを高めたからといって、顧客数が自然に増えるわけではありません。


なぜならロイヤルティの高いユーザー=ヘビーユーザー(と呼ばれる層)はずっとロイヤルティが高いわけではないからです。


平均への回帰
平均への回帰

多くの場合、ブランドのヘビーユーザーというのは個人の“普遍的な特徴”を表しているわけではなく、個人の“状態”を表している。


  • 同じ人でも、時期によってヘビーユーザーになったりライトユーザー(あるいはノンユーザー)に戻ったりという“波のようなもの”がある


  • 期間を区切って集計すれば、購買頻度や利用額が上振れする人が一定数出てくる。しかし、それは確率的に起こる現象であり、熱狂やロイヤルティと言った心理的な変化によるものとは限らない


つまりロイヤルティとは変化するものであるため、一度ロイヤルティ(ファン)になったからといって半永久的にその状態である、ということにはならないわけです。



3. 「ヘビーユーザー」の正体は「状態」


ではヘビーユーザーとはなんなのか?どんな人たちがヘビーユーザーと言われているのか?


多くの場合、ヘビーユーザーとは、そのブランドを心の底から愛している「属性」ではなく、「たまたま集計期間中に購入頻度が高かった人」という「状態」を表しているにすぎません。


ヘビーユーザーの正体
ヘビーユーザーの正体

ヘビーユーザーは購買頻度が多い、利用額が高そうと思われていることが多いですが、「ヘビーユーザーだから購買頻度が高い(利用額が高い)」のではなく、「集計期間中に購買頻度が高かった(利用額高かった)」人をヘビーユーザーとしてカウントしているだけ」ということも十分あり得る(因果の向きが逆)のです。


さらに重要なのは、カテゴリーに対する知識や関心が少ない「ライトユーザー」こそが、失敗を避けるために有名なブランドを選び、結果として同じブランドをリピートすることが多くなるという現象です。


ロイヤル顧客だからリピートする?
「ライトユーザー」だからこそリピートする

「そのブランドが好きだからリピートする」のではなく、「よく知らないし特に興味もないから、失敗しない有名なブランドで済ませる」という可能性も十分にあり得ると思います。


地方ブランドが目指すべきは、この「無関心なライトユーザー」に対して、いかに自分たちの存在を知らせ、試してもらうか、つまり「浸透率をいかに拡大するか」に注力するか?に尽きるのだと思っています。



第2章:実践編 地方ブランドが「浸透率」を最大化する方法とは?


ここまでダブルジョパディとはなにか?について説明をしてきました。


ダブルジョパディの法則から導き出される戦略とは、ロイヤルティ強化ではなく、浸透率(顧客の総数)の最大化です。


これを実現するためには、顧客にとってのいかに思い出してもらうか、手の届く場所にあるか?=「アベイラビリティ(手に入れられる度合い)」を高めることが不可欠です。


このアベイラビリティには、次の2種類があります。


2つのアベイラビリティ
2つのアベイラビリティ

1. メンタルアベイラビリティ(想起のされやすさ)の確保


メンタルアベイラビリティとはお客様が「商品やサービスが必要だ」と感じた瞬間、その地域やブランドを思い出すことができる状態を指します。


重要なのは、競合との「商品のスペック」の違いを訴える「差別化」ではなく、「利用シーン(文脈)」と結びつけることです。極端な話、差別化できていなくても、購入時に想起されれば選ばれる、ということです。


地方のブランドがこの想起のされやすさを高めるには、「誰に」というターゲティングだけでなく、「いつ、どこで、どんな気分で」商品や地域が想起されるのかという「文脈(利用シーン)」を明確に定義し、ブランド体験と結びつける必要があります。



【実践例:用宗(もちむね)の観光戦略】


私たちが民泊を構える静岡市の用宗地域は、京都や伊豆のような有名観光地と「観光資源の多さ」で真っ向勝負しても勝ち目はありません。


用宗海岸

静岡市の小さな港まち「用宗」。用宗地域は静岡市の中心部から電車で2駅7分、駿河区の西南端に位置する小さな町です。 駿河湾に面した用宗の浜は海水浴場として賑わいを見せ、シンボルでもある漁港はシラス漁が有名で、現在でも多くの人々が新鮮なシラスを求めて訪れています。海と山が織りなす自然景観と細い路地のある街並みはどこか懐かしい感じを漂わせ、静岡市の他の場所にはない独特の景観を楽しむことができます。

しかし、用宗は「静岡駅から電車で7分」という都市近接性や、300年の伝統に根ざした「しらす漁法」、天然温泉、クラフトビール醸造所といった独自の資源を持っています。


これら資源を活かし、「東京と大阪の狭間(ゴールデンルート)」という地理的優位性を利用した「外国人観光客にとってのふと立ち寄りたくなる日本のローカル」という、新しい利用シーン(文脈)を設定することができます。


これにより、従来の王道観光客ではない、新たなライトユーザー層に対して、「静岡市に泊まる理由」として想起される状態を作り出し、広範な浸透を促すことができるのです。


静岡市の関係資源
静岡は「東京と大阪の狭間(ゴールデンルート)」


2. フィジカルアベイラビリティ(買い求めやすさ)の確保


フィジカルアベイラビリティとは、顧客が「いつでも、どこでも手軽に手に入る状態」にあることを指します。


物理的なアベイラビリティの条件には、手軽に手に入る状態であること、価格の納得感があることなどが含まれます。



【実践例:ブロッコる?の商品開発】


静岡県牧之原市でのブロッコリー商品開発の際、農家さんの課題は「販路がない」ことでした。市場調査の結果、ブロッコリーの顧客は「味」よりも「栄養価の高さ」と「調理の手軽さ」を求めていることが明確になりました。


ブロッコる?
ブロッコる?

具体的な打ち手として、「袋のままレンジで3分、洗わずにそのまま食卓へ」利便性と時短の価値に設定。これにより、競合が「国産の鮮度」を訴求する中、ライトユーザー層が「簡単に高栄養を摂れる商品」として日常的に手に取りやすい状態(物理的アベイラビリティ)を確立し、浸透率の拡大に成功しました。


事例はこちら



【実践例:RAKU OIMO(持ち運びできるほしいも)】


調査の結果、さつまいもの商品開発(RAKU OIMO)では、多くの人が「ほしいもを持ち歩いていない」(85.5%)という事実(ファクト)が見えました。


RAKURAKU OIMO
RAKURAKU OIMO

そこで、ほしいもを従来の「自宅での間食」という文脈から外し、「持ち運び可能な無添加おやつ」として再定義しました。


この文脈は、子どもやダイエット中の人が、外出先や仕事中に罪悪感なく食べられる「アメやグミの代替品」という新しい文脈(利用シーン)に商品を置き換えることで、物理的に持ち運びやすく、結果として様々なシーンで買い求めやすくなる状態を目指した戦略です。


事例はこちら



結論:地方に「骨のあるマーケティング」を実装するために


ダブルジョパディの法則は、地方ブランドの成長戦略において、「ファン依存」からの脱却と、「ライトユーザー」の獲得という方向性を示唆していると考えています。


  • 戦略の転換:ロイヤルティ(頻度)ではなく、浸透率(顧客の総数)を最大化すること


  • 実行の原則:「想起のされやすさ」と「買い求めやすさ」を、競合に比べて優位な形で設計すること


私たちHONEが目指す「地方に骨のあるマーケティング」とは、「現場主義・戦略戦術の一貫性・自立自走」であり、お客様の役に立つ成果を出すための議論を真剣に行うことです。


地方が直面する本質的な課題(人口減少、事業承継、地域経済の弱体化など)に対し、文化的な資源を守りながら、経済活動と両立させることをミッションとしています。


この戦略を成功させるための最初のステップが、市場とお客様の「ファクト」を知るリサーチです。お客様が何を価値と感じ、どんな基準で商品や地域を選んでいるのかという「心情・行動の実態」を正確に把握しなければ、新しい利用シーンを設定したり、利便性を高めるための具体的な打ち手を見つけたりすることはできません。


私たちHONEは、これからも地方に特化し、地域の可能性を最大限に引き出し、持続的な成長を実現していきたいと思っています。



HONEのサービスについて


当社では、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。


大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。


学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。


誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。


地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。


HONEの流儀

私がこれまで会得してきた知識・経験を詰め込んだ「3つのサービスプラン」をご用意しており、お悩みや解決したい課題に合わせてサービスを組んでいます。ご興味のある方は、ご検討いただければと思います。



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最後までお読みいただき、ありがとうございました。


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【記事を書いた人】


プロフィール

株式会社HONE

代表取締役 桜井貴斗


札幌生まれ、静岡育ち。 大学卒業後、大手求人メディア会社で営業ののち、同社の新規事業の立ち上げに携わる。 2021年独立。 クライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営に従事。

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