GHILフレームで地域資源を価値に変える編集実践法【まちづくりに関わる方へ】
- 桜井 貴斗

- 8月16日
- 読了時間: 9分
更新日:9月27日

以前の記事では、宮副謙司氏(青山学院大学ビジネススクール)の研究論文『地域資源に着眼し地域価値へと編集するためのフレームワーク考察』をもとに、地域資源を発見し、4つの視点(Geography・History・Industry・Life)で整理する「GHILフレーム」の基本構造を紹介しました 。
今回はその続編として、「編集(価値変換)」に特化した実践手法を深掘りします。
自治体職員や地域活性化の担当者向けに、住民参加型で資源を編集し、「伝わる価値=地域ストーリー」に変えるための具体的なプロセスです。
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目次
付箋と共感シール
異なる視点を横断する組み合わせで、資源を「文脈化」する
「付箋」と「共感シール」が再び活躍
ワークショップでも使える!C-GHILの進め方
「見立て」が地域を輝かせる
アナロジー発想事に使えるチェックリスト
Q‑GHIL分析:量×質で重要資源を見極める

地域資源の発見と整理を終えたあとに取り組むのが、Q‑GHIL分析(Quantity × Quality)です。
これは、発見された多様な地域資源の中から、「地域らしさ」や「象徴性」が特に高いもの=重要資源を見極めるための評価手法です。
Q-GHILでは、量(どれだけ多くの人がその資源を挙げたか)と、質(どれだけ誇りや共感を集めるか)の2軸で、資源の価値を可視化していきます。
Q‑GHIL分析は、発見した資源に対して「量」と「質」で評価を行う手法です。
評価軸 | 内容 | 実施例 |
量的評価 (Quantity) | 多くの住民や参加者が「その地域らしさを表している」と感じているか | ワークショップで出た付箋の枚数をカウント、話題に上がった回数を記録 |
質的評価 (Quality) | 資源が持つ象徴性・独自性・誇りの強さ | 「これは残したい」「この町といえばこれ」という声の多さ |
この「量 × 質」の評価により、共通認識と誇りの両方を備えた地域の核となる資源を特定することができます。

付箋と共感シール
付箋:住民の気づきを見える化する
ワークショップでは、参加者が思いついた資源を一枚ずつ付箋に書き出し、模造紙やボードに分類して貼っていきます。このステップは、参加者の多様な感覚や知見を可視化するための基盤となります。また、同じような内容をグルーピングすることで、特定のテーマや地域らしさが浮き彫りになっていきます。
共感シール:価値ある資源を直感的に評価する
参加者は、他の人の付箋を読みながら「これはいい」「大切にしたい」と思った資源に、共感シール(小さな丸シール)を自由に貼っていきます。 この直感的な評価によって、象徴性・誇り・共感度の高い資源が可視化されます。
例
地域資源 | 量(付箋枚数) | 質(共感シール) | コメント例 | 評価 |
山の湧水 | ◎(多数) | △(やや少なめ) | 「身近だけど特別感は薄い」 | 多くの人に親しまれているが象徴性が弱い |
郷土芸能 | △(一部) | ◎(強い共感) | 「自慢できる。町外にも伝えたい」 | 認知は低いが誇りが強く象徴性が高い |
直売所の手づくり惣菜 | ◎ | ○ | 「うちのおばあちゃんが作ってる」 | 身近で共感も高め、生活資源として有望 |
「山の湧水」は多くの付箋が出る=量は多いが、シールは少ない → 当たり前すぎて象徴性が弱い
「郷土芸能」は付箋は少ないが、共感シールが多い → 認知は低いが誇りの対象として重要
「直売所の手づくり惣菜」は量・質ともに高評価 → 地域生活に根差した伝える価値のある資源
といった、立体的な理解と優先順位づけが可能になります。
C‑GHIL分析:掛け合わせで新たな価値コンテキストを創る

Q‑GHIL分析で地域資源の「重要度(量と質)」が可視化されたあとは、次のステップへと進みます。それが「C‑GHIL分析(Cross-GHIL分析)」です。
Q‑GHIL分析の目的は、単体では見過ごされていた地域資源同士を「掛け合わせ」て、新たな価値やストーリーの文脈を創出すること。
資源が持つ意味を再編集することで、より深く・伝わりやすい「地域らしさ」の表現が可能になります。
地域資源は、それ単体で魅力を放つものばかりではありません。
複数の要素が重なり合う関係性の中にこそ、その土地ならではの個性が宿ることが多いのです。
異なる視点を横断する組み合わせで、資源を「文脈化」する
C‑GHIL分析では、GHILの4視点(Geography・History・Industry・Life)に分類された資源の中から、2つ以上の異なるカテゴリを横断して組み合わせることを基本とします。
例えば:
Geography(地理) × History(歴史) → 駿河湾 × 持舟城(用宗城)
=富士山×海!絶景古城アドベンチャー
Industry(産業) × Life(生活) → シラス漁 × 漁師飯
=獲って、作って、食べよう!用宗シラス漁体験
こうした視点の掛け合わせによって、単なる名所や特産品としての情報を超えた、生活や時間の積層を含んだ価値文脈が生まれます。
「付箋」と「共感シール」が再び活躍

C-GHIL分析では、Q-GHILで使用した道具を「素材」として再利用するのがポイントです。
付箋は、組み合わせるパーツになる
地理に関する付箋、歴史に関する付箋、を眺めながら、「この2つをつなげたら?」と自由に編集。 組み合わせ例を模造紙やホワイトボードに貼り出していくことで、文脈のアイデアが視覚的に整理されます。
共感シールは、新たなアイデアへの評価軸として使える
組み合わせて出てきた価値文脈(ストーリー案)に対し、「これは伝わる」「やってみたい」と感じたアイデアにシールを貼ることで、住民や関係者の共感度を計測。これらは、施策の実行性や広報での訴求力を評価するヒントにもなります。
ワークショップでも使える!C-GHILの進め方

Q-GHILで分類・整理した付箋をGHILの4象限に貼る
チームで自由に異なる視点の資源を掛け合わせてみる
生まれた「価値文脈」を簡潔に言語化(例:○○な○○ など)
他のチームが共感シールで評価し合う
このようなプロセスは、ワークショップや住民参加型計画、コンセプト設計の初期段階などで特に有効です。
アナロジー発想:外部事例や比喩を通じた価値転換
Q-GHIL分析で「重要な資源」を見極め、C-GHIL分析で「資源の掛け合わせ」による文脈を創出したあと、さらに価値の幅を広げたいときに有効なのが、「アナロジー発想」です。
アナロジーとは、「類推」「比喩」とも訳される考え方。
地域の資源を、別の場所・別の分野・別の文化と見立てて捉え直すことで、新たな意味や魅力を浮かび上がらせる手法です。
「見立て」が地域を輝かせる
アナロジー発想は地理だけでなく、都市の性格や人口規模の近さからも活用できます。
似たような課題感や生活リズムを持つ自治体は、施策の参考として現実味が高いからです。
【例1】静岡市 × 岡山市(人口70万人前後)
静岡市:観光・農業・製造のバランスが取れた地域
岡山市:晴れの日が多く、果物王国としてのブランド形成
→ 静岡市が「お茶と観光」の新しい組み合わせを考える際、 岡山のフルーツパフェのまち構想が参考になる
【例2】小都市圏の観光地 × アイスランドの観光モデル
自然資源が強みだが、資源が分散している
観光の「導線設計」「時間の使わせ方」の設計が課題
→ 「地球の鼓動を感じる旅程設計」というアイスランドの事例から 温泉や景観を時間で編集する切り口が得られる
似たような地域や、役割が似たものを探し
アナロジー発想=「たとえて考える」ことで、地域資源に新しい意味を見出していきます。
アナロジー発想時に使えるチェックリスト
① 地理・自然・環境
山、川、湖、海などの自然が似ているか?
地形に特徴があるか?(平野、丘陵、段々畑、火山地帯など)
気候はどうか?(積雪、温暖、乾燥、多雨など)都市と自然の距離感はどうか?(コンパクトか、広域か)
② 人口・都市規模・距離感
自治体の人口規模は?(政令市・中核市・小規模自治体)
他都市との距離感は?(都市圏に近い or 離島・山間地)
観光地としての訪問者数と定住人口のバランスは?
③ 歴史・文化的背景
歴史的な転換点やエピソードがあるか?(戦、災害、偉人など)
伝統芸能・信仰・年中行事などは地域独自のものか?
④ 産業・経済・働き方
主な産業は?(農業・製造業・観光業・工芸など)
産業と地域の暮らしはどう結びついているか?
副業・関係人口・起業支援などの仕組みがあるか?
まとめ
地域資源の「発見」から「整理」までは、多くの自治体がすでに取り組んでいる段階です。 しかし、そこで止まってしまい、「伝わる形」へと昇華できずにいる事例も少なくありません。
今回ご紹介した Q‑GHIL分析・C‑GHIL分析・アナロジー発想 は、地域資源を「見える化」し、「つなぎ」、さらに「語れる文脈」へと転換するための編集技術です。
住民の気づき(付箋)に共感を重ねる
異なる視点を掛け合わせて意味をつくる
他地域の「似ている」から着想を得て再解釈する
地域の魅力は、資源の数やスケールの大きさだけで決まるものではありません。
どう捉え、どんな文脈で語るか。この「編集力」こそが、地方活性化の鍵を握っています。
そして、そこにマーケティングの視点が加わることで、その価値はさらに多くの人に届く力を持つようになります。
なお、ワークショップとマーケティングを掛け合わせた「文化経済戦略」ワークショップもご用意しております。地域の可能性を一緒に言語化・可視化したいという方は、ぜひお気軽にご相談ください。
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【記事を書いた人】

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