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【本の紹介】企業が「社会に必要とされる存在」になるためのPR。〜「あたりまえ」のつくり方—ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書〜

  • 16 時間前
  • 読了時間: 13分
あたりまえのつくり方

PRというと、プレスリリースやメディア掲載、SNSでの発信を思い浮かべがちです。しかし本書が描くPRは、もう少し大きなものです。


まだ社会に存在していない考え方や行動を、さまざまな立場の人たちとの対話を通じて、新しい「あたりまえ」として定着させていくプロセスを解説されています。


つまりPRとは、単なる発信ではなく、企業と社会の関係をつくる仕事なのだと思います。

「自社の商品をどう売るか」だけでなく、自分たちは社会の中でどのような役割を担うのか。そんな問いを持つことも必要なのではないでしょうか。

今回は、本書の言葉を抜粋しながら、企業が「市場で選ばれる存在」から「社会に必要とされる存在」になるためのPRについて考えてみます。


※この記事は『「あたりまえ」のつくり方——ビジネスパーソンのための新しいPRの教科書』/嶋浩一郎(著)を参考に、執筆者(亀元)の私見を加えて執筆しています。




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PRとは、新しい「あたりまえ」を社会に定着させる仕事


パブリック・リレーションズとは

本書の冒頭には、著者が長年PRの仕事に携わる中でたどり着いた、PRの定義が書かれています。


(本書より) あたりまえの普及を加速させる技術は、さまざまなステークホルダーと合意形成を生み出すパブリック・リレーションズ(PR)の技術そのものです。 日本におけるPRは、企業や自治体の広報部や広告会社やPRエージェンシーに所属するPRパーソンが担ってきました。 PRは「企業とステークホルダーとの良好な関係維持」などさまざまな定義が可能ですが、30年以上PR業界に身を置き、PR発想のアイデアでクライアントや社会の課題解決をしてきた自分が、やってきたことを振り返ってみると、PRは今までなかった新しい「あたりまえ」を世の中に浸透させるお手伝いをする仕事なんだと考えるようになりました。 (中略) PRは今までなかった新しい「あたりまえ」を世の中に浸透させるお手伝いをする仕事なんだと考えるようになりました。次の図のように、新しい「あたりまえ」について各ステークホルダーと「合意形成」を進め、社会に定着するための補助線を引く仕事です。 PRパーソンはステークホルダーとの間に合意点、つまり握手できることを探り、対話を通じて新しい「あたりまえ」を定着させていくのです。

PRの仕事は、企業の考えを一方的に広めることではありません。企業、顧客、従業員、メディア、行政、地域住民、専門家など、それぞれ異なる価値観を持つ人たちとの間に、「ここなら握手できる」という地点を探すことが前提と本書は唱えています。


そして、対話を重ねながら、企業が提案する考え方を社会の中に定着させていく。ここで重要なのは、「社会に必要とされる存在」は、企業が自分で宣言してなれるものではないということです。「私たちは社会に必要な企業です」と発信したところで、社会がそう認識していなければ、必要とされていることにはなりません。


顧客が選び、社員がその仕事に意味を感じる。地域の人が「この会社がなくなると困る」と思う。行政や専門家が、その事業の価値を認める。ほかの企業が、自分たちも参加したいと考える。


そうした第三者の認識や行動が積み重なって初めて、企業は「社会に必要とされる存在」になっていくのだと思います。PRは、まず自分たちの価値を大きな声で発信することではなく、社会との間にある接点を探すことから始まるのだと思いました。



広告は「違い」を見つけ、PRは「同じ」を見つける


広告は「違い」を見つけ、PRは「同じ」を見つける

本書の第2章には、印象的なタイトルがつけられています。

「違いを見つけるとほめられる『広告』、同じを見つけるとほめられる『PR』」。


その違いについて、本文では次のように説明されています。


(本書より) つまり広告は自分で発信し、PRは第三者が発信するというふうにざっくり言うことができます。 さまざまなスキルや専門性を持っている人たちが世の中にたくさんいるわけだから、自分でやらずに彼らの力を借りて新しい「あたりまえ」を広めていくわけです。 この違いは多くの人が指摘するのですが、ぼくはもう1つ、広告とPRの違いで重要な点があると考えています。 それは、ひと言で言うと、広告は人と違うところを見つけるとほめられる仕事で、PRは人と同じところを見つけるとほめられる仕事だということです。

本書では、広告とPRの違いをとてもシンプルに整理しています。

広告は、競合との「違い」を見つけ、その違いを伝えるものです。一方でPRは、社会の中にいるさまざまな人たちとの「同じ」を見つけていきます。


ここでいう「同じ」とは、全員が同じ意見になることではありません。企業、生活者、行政、メディア、地域住民では、それぞれ立場も目的も異なります。

それでも、

「この未来は一緒に目指せる」「この課題は、自分たちにも関係がある」

と思える共通点は見つけられるかもしれません。


図の左側の広告は、自社と競合との違いを明確にし、「なぜ自社を選ぶのか」をつくるアプローチです。

一方、右側のPRは、自社だけで完結しません。生活者や行政、取引先、メディアなどを単なる「情報を届ける相手」として見るのではなく、同じ課題や未来に関わる仲間として捉え、関係をつくっていきます。


つまりPRにおける合意形成とは、価値観を一つにそろえることではなく、立場の違う人たちが、それでも同じ方向へ進める共通項を見つけることなのだと解釈しました。

地方企業にとっても、「誰に売るか」だけでなく、誰とどんな未来をつくるのかを考えることが、PRの出発点になるのではないでしょうか。



合意形成の評価基準


合意形成の評価基準

PRの成果というと、メディア掲載数やSNSでの露出量など、「どれだけ知られたか」に目が向きがちです。


しかし本書では、合意形成の評価を、認知の獲得 → 認識の変化 → 行動の変化という3段階で捉えています。


たとえば環境問題であれば、まず「気候変動は深刻な問題だ」と知ることが認知です。

次に、「環境に配慮した暮らしは大事だ」と考えるようになる。これが認識の変化です。

さらに、「省エネ家電に買い替える」といった具体的な行動が生まれる。ここまで進んで、社会の「あたりまえ」が変わり始めます。


つまりPRで重要なのは、どれだけ情報を届けたかではなく、その結果として人の認識や行動がどう変わったかを見ることです。

新しい「あたりまえ」をつくるのであれば、認知を獲得するだけでは十分ではありません。


「知っている」から「そう考えるようになった」へ、そして「実際に行動するようになった」へ。社会の中にどんな変化が起きたのかまで追うことが、PRの成果を考えるうえで重要なのだと思います。



従来のマーケターとPRの守備範囲


従来マーケターとPRの守備範囲

(本書より) 次のPRの原則は、PRパーソンは市場の視点でものごとをとらえるのではなく、社会の視点でものごとをとらえるということです。つまり「市場の中の私の役割」を語るのではなく、「社会の中の私の役割」を語るということです。 (中略) 社会視点でものごとをとらえることで、その商品・サービスの導入を応援する味方が増えるのです。

本書では、「従来のマーケター」は市場や消費者を中心に見る存在として整理されています。ただ、事業づくりや事業推進という観点では、マーケティングもPRも、顧客理解や競合分析、ステークホルダーとの関係づくりだけにとどまるものではないと思います。


事業そのものをどうつくるか。誰と価値を生み、社会にどんな変化を起こしていくのか。そこまで考えることは、どちらにも共通する役割です。大切なのは、マーケティングとPRを役割で分けすぎることではなく、市場と社会の両方を見ながら、事業の価値を考えていくことなのだと感じました。


そのうえで必要なのが、視野をさらに広げることです。図にあるように、消費者だけでなく、従業員、株主、行政、自治体、学会、NPO、近隣住民、競合他社など、事業を取り巻くさまざまなステークホルダーとの関係まで捉えていきます。


つまり社会視点とは、単に「社会課題らしいことを語る」ということではありません。自分たちの事業が、社会の中で誰と関係し、誰にどんな影響を与えているのかまで視野を広げることなのだと思います。


ただし、社会を見るからといって、市場を見ることも飛ばしてはいけません。まず市場を知り、生活者が何に困り、なぜ商品を選び、実際にどんな変化が起きているのかを見る。その事実をもとに、自社の価値を社会の文脈まで広げて考える。


そうすることで、顧客だけでなく、行政やメディア、他企業、地域住民など、その価値を一緒に広げてくれる「味方」が見えてくるのだと思います。



企画のポイント「まだ言葉になっていない欲望を見つける」


インサイトの発見者は愛される

(本書より) 人間の欲望は氷山のようです。言語化できている、つまり顕在化した欲望は水面上の少しの部分でしかありません。大半は水面下にかくれた言語化できていない潜在的な欲望です。 (中略) つまりインサイトを発見した人は愛され、フォロワーがつくのです。 (中略) 「あ、今までの価値観だとちょっと説明できない行動をしているな」と違和感を覚えたら、それは新しい「あたりまえ」を実践する人たちの最初の行動なのかもしれません。

生活者は、自分が何をほしいのかを、いつも明確に言葉にできるわけではありません。


「なんとなく不便」「今のやり方に違和感がある」「もっとこうだったらいいのに」


そんな感覚はあっても、本人自身がまだ欲望として認識していないことがあります。

だからこそ、すでに表に出ているニーズに応えるだけでなく、行動や習慣、違和感を観察しながら、まだ言葉になっていない欲望を見つけることが重要になります。


誰かがその潜在的な欲望を言葉にすると、「それ、自分も思っていた」と感じる人が現れます。さらに、その言葉に共感する人や企業が増えることで、個人の違和感だったものが社会で共有される価値観へ変わっていき、話題になるというアプローチです。

つまり、インサイトを見つけることは、新しい「あたりまえ」の種を見つけることでもあるのだと思います。


▼インサイトについてはこちらの記事をお読みください。




社会記号はどうやって生まれるのか


本書では、新しい「あたりまえ」を社会に広げるための補助線の一つとして、「社会記号」という考え方が紹介されています。


社会記号とは、まだうまく言葉になっていなかった欲望や行動、価値観に名前をつけ、社会の中で共有できるようにした言葉のことです。

たとえば、「コギャル」「草食系男子」「朝活」「終活」「推し活」などです。


こうした人や行動は、その言葉が生まれる前から存在していました。 けれど、名前がつくことで、

「こういう人、いるよね」「自分もそうかもしれない」「最近こういう行動が増えているんだ」と、多くの人が同じ現象を認識できるようになります。


本書では、まずその前段として、まだ言葉になっていない欲望を見つける「インサイト」が重要だとされています。

生活者自身もまだ明確に言葉にできていない感覚(インサイト)を見つけ、それに名前を与える。

その名前が、多くの人に「それ、自分も感じていた」と受け入れられたとき、個人の感覚だったものが社会で共有される言葉へと変わっていきます。

そして社会記号が生まれると、その言葉を使う人や、その行動を実践する人が増えていきます。

本書では、そこから「社会が行動を許容する」「報道量が激増する」といった現象につながっていくと整理されています。


言葉が広がることと、考え方が社会に定着することは、切り離せないのだと感じました。



PRは「コントロール」ではなく「マネージメント」


市場の外にでて社会の役割を考える

(本書より) PRは世の中の第三者や環境を相手の意見を問わず「コントロール」するのではなく、新しい「あたりまえ」の普及のために対話を通じて第三者の力を引き出すように「マネージメント」する思考と技術です。

企業が社会を動かそうとするとき、つい「どう伝えれば動いてくれるか」「どうすればこちらの意図どおりに理解してもらえるか」と考えてしまいがちです。しかしPRでは、相手を自分たちの意図どおりに動かすことを目指すのではありません。


図のように、市場の中だけで自社と競合を見るのではなく、視野を社会まで広げながら、自分たちと同じ「あたりまえ」を目指す仲間を見つけていきます。


生活者、行政、メディア、地域住民、他企業など、それぞれ立場も目的も違います。それでも対話を重ねることで、「ここなら一緒に進める」という共通点を探すことはできます。

大切なのは、第三者を企業の意図どおりに動かすことではなく、その人自身が納得できる理由で参加し、それぞれの力を発揮できる状態をつくることだと思います。


市場の中では、「誰に勝つか」を考えることが多くなります。

一方で社会の中では、「誰と進むか」を考える必要があります。

PRとは、社会をコントロールすることではなく、同じ未来を目指す人たちの力を引き出しながら、一緒に進める関係をつくっていくことなのだと感じました。



まとめ|社会に必要とされる企業へ


本書を読んで、PRとは「いまある価値をうまく伝える仕事」だけではなく、これから社会に必要になる「あたりまえ」をつくる仕事なのだと感じました。

ただし、新しい「あたりまえ」は、企業の理想や思いつきだけで生まれるものではないと思います。ここで重要になるのが、マーケティングや事業づくりの考え方だと思います。


誰が、何に困っているのか。 市場では何が起きているのか。 生活者の行動はどう変わっているのか。 その仮説を裏づける事実はあるのか。 など、これからの「あたりまえ」を提案するためには、まず今の市場と生活者を知る必要があると思います。

マーケティングには、感覚だけではなく、データや調査、観察などのエビデンスをもとに市場を捉える、科学的な側面があります。そうした事実をもとに、「もしかすると、これからはこちらのほうが自然なのではないか」と未来を描き、さまざまな人と対話しながら社会に開いていくことが今後も必要になるのではないでしょうか。


市場の中で選ばれるだけでなく、自分たちの商いが社会の中でどんな役割を持ち、これからどんな「あたりまえ」をつくっていくのか。地方で事業に関わる私たち自身も、持ち続けたい問いです。



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