top of page

地方の小規模ビジネスは誰に届けるべきか?コトラーとシャープから考える「集客」について。

19 時間前
読了時間: 12分
地方の小規模ビジネスは誰に届けるべきか?

コトラーとシャープから
考える「集客」について。

「ターゲットを絞った方がいい」と聞く一方で、「ブランドを成長させるには、もっと多くの人に買ってもらう必要がある」とも言われます。


地方でお店や事業を営んでいると、この二つをどう受け取ればよいのでしょうか。

商圏も予算も限られているなかで、誰に届けるかは、売上だけでなく仕入れや人員配置にも関わります。


私は、誰のどんな用事に応える事業なのかを具体的にしたうえで、その用事を持つ人に十分届いているかを確かめることが必要だと思っています。


この判断に役立つのが、フィリップ・コトラーとバイロン・シャープの考え方です。今回は両者の違いを入口に、カフェ、地域産品、宿泊事業で、何を見直すとよいのかを考えていきます。




HONEでは、ブランドを思い出すきっかけや、見分ける手がかりを解説した「DBAs-CEPs-ブランドエクイティを理解する」などの資料を公開しています。


HONEのお役立ち資料ダウンロード

目次




コトラーとシャープから何を学ぶか


コトラーのSTPは、市場を分け、対象を選び、その人たちにどのような価値を提供するかを考える枠組みです。商品や価格、売り方を決めるときに、誰のための事業なのかを整理できます。


ただし、コトラーの議論にも、市場全体を対象にする選択肢があります。対象の広さは、自社の資源や商品の性質、競争環境などによって判断するため、「とにかく細かく絞ればよい」という話ではありません。[1]


シャープらの研究が問い直したのは、ブランドが実際に成長するとき、何が起きているのかという点です。


購入者の広がりを重視し、普段はあまり買わない人も含めて、購入の場面で思い出してもらい、買いやすくする必要があると説明しています。思い出されやすさを、メンタル・アベイラビリティと呼びます。常連客の存在や再購入を否定しているわけではありません。[2]


また、両者には違いもあります。コトラーの枠組みが競合との価値の違いを考える一方、シャープらは、消費者がブランド間に感じる違いの役割を問い直し、どのブランドか見分けられることに注目しています。


ここから私が地方の実務に引き寄せて考えたいのは、次の2つです。


  • その商品やサービスは、どんな用事に、どのような条件で応えられるのか

  • それを利用できる人が、必要なときに思い出し、実際に買える状態になっているか


私はこの2つの問いを行き来しながら、商品や売り方のどこに手を入れるかを考えています。




カフェのターゲットを決めるときは「必要な客数」まで考える


例えば、地域のカフェで「30代女性をターゲットにする」と決めたとします。ただ、その情報だけでは、何を提供する店なのか?はまだ見えてきません。


仕事の合間に短時間で昼食を取りたいのか、友人とゆっくり話したいのか。

利用する場面が違えば、必要な席、メニュー、提供時間も変わります。同じ人でも、平日と休日では店を選ぶ理由が違うはずです。


まずは「近隣で働く人が、昼休みに無理なく食事を終えられる店」のように、応える用事を具体的にします。そのうえで、年齢や性別が想定と違う人でも、その用事を持っているなら利用の候補になります。


商品やサービスの軸を定めることと、買ってくれる可能性のある人を狭く見積もることは、分けて考えたいところです。


ここで、目標売上から客数を確認してみます。

以下は説明のための仮の計算です。1人の1回来店を1回として数えます。


項目

仮の条件と計算

月の目標売上

140万円

平均客単価

1,400円

必要な月間来店回数

140万円 ÷ 1,400円 = 1,000回

月25日営業の場合

1日平均40回の来店

常連200人が月2回来る場合

200人 × 2回 = 400回

目標までの差

月600回の来店


常連さんに支えられていても、この条件では常連さんだけでは目標に届きません。


常連さんだけでは埋められない「月600回の差」を、常連さんの来店頻度を上げることで埋めるのか、しばらく来ていない人や初めて来る人からも積み上げるのかを考える必要があります。


また「600回」は600人という意味ではありません。同じ人が複数回来る場合もありますし、客単価が変われば必要な回数も変わります。また、40回という平均だけでなく、昼のピークに提供できるかも確認が必要です。


地方では、来店できる範囲に住む人や働く人の数が、最初の条件になります。

そこから年齢、性別、趣味などで対象を絞っていくなら、事業が成り立つだけの利用を見込めるかまで確認したいところです。


「ターゲットが明確になった」で終わらず、その人たちの利用で、店を続けられるのか?まで考えていく。ここまで来ると、ターゲット設定が経営の判断につながります。



地域産品は「こだわり」と「買う場面」をつなげる


お茶や焼き菓子などの地域産品では、原料、製法、作り手の想いを丁寧に伝えている商品があります。そこで、もう一つ考えたいのが、お客さんはいつ、その商品を必要とするのかということです。


例えばお茶なら、産地や品種に関心のある人だけでなく、職場で飲み物を用意する人や、帰省先への手土産を探している人も購入の候補になります。


このような購入の場面で記憶を呼び起こす手がかりを、CEP(カテゴリーエントリーポイント)と呼びます。時間や場所だけでなく、目的や気持ちも含まれます。ブランド側の特徴ではなく、買う側の状況から考える概念です。[4]


参考:カテゴリーエントリーポイント(CEP)とはなにか?事例、参考になる本/書籍を紹介



以下は、地域のお茶を販売する場合の設計例です。


お客さんの用事

商品や売り方で確かめたいこと

職場で手軽に温かいお茶を飲みたい

急須がなくても淹れられるか。片付けに手間がかからないか

帰省先に地元のものを持っていきたい

持ち運びやすいか。包装や価格が贈る相手に合うか

家族との食事に合わせて飲みたい

どんな料理や味わいと合わせやすいか。用意する量が分かるか


同じお茶でも、買う目的が変われば、伝えるべきことも変わります。製法の説明に「どんなときに役立つか」がつながると、お客さんは自分の生活に置き換えて考えやすくなります。


ただ、場面を思いつくたびに新商品を増やせば、製造や在庫の負担も増えます。今ある商品で応えられる用事を確認し、売場の説明や写真を変えるところから始める方法もあります。


候補を選ぶときは、購入した人に「今日は何に使う予定ですか」と聞いてみると具体的です。常連さんだけでなく、初めて買った人や、買わずに帰った人の理由も拾えると、売る側では気づきにくかった用途や不便が見えてきます。


聞けた数人の声は仮説の材料です。実際にどの用途の商品が買われたかも確認しながら、伝え方を調整していきます。



差別化を考え直す前に「自分の店だと分かるか」を確認する


売上が伸びないと、「もっと独自のコンセプトが必要なのでは」と考えたくなることがあります。


そこで、商品の違いとは別に確認したいのが、見た人が自分の店や商品だと分かるか?という点です。シャープらが重視する識別性は、ここの問題に関わってきます。[3]


例えば、SNSで見た焼き菓子の写真を覚えていても、売場で同じ商品を見つけられなければ、その記憶は購入につながりにくくなります。

投稿ではブランド名が小さく、店頭では別の表記を使い、包装も毎回変わっている。こうした状態なら、まずブランドの認知と商品の接点をつなぐ必要があります。


具体的には、投稿、看板、包装、商品ページで、名前やマークの見せ方を確かめていきます。以前から親しまれている包装や看板があれば、作り直す前に、お客さんが何を手がかりに見分けているのかを聞いてみたいところです。


ロゴや色は、決めただけでブランドの資産になるわけではありません。人の記憶のなかで、その店や商品と結びついている必要があります。[5]


小規模事業では、一度の接点を次の接点につなげられるか?も考えていきたいところです。写真を見たとき、店の前を通ったとき、売場に並んでいるときに、同じ店や商品として気づいてもらえるか。コンセプトを変える前にも、確認できることがあります。




宿泊や観光では予約までの「不」を確認する


私自身、HONEでの事業支援に加え、Astlocalで静岡の民泊事業に取り組んでいます。宿泊のように、利用する日や人数が決まっている事業では、魅力と一緒に、利用できる条件を伝える必要があります。


例えば、友人家族と泊まる宿を探している人なら、写真の雰囲気だけでなく、寝室の分け方、駐車できる台数、総額なども判断材料になります。興味を持っても、必要な情報が見つからなければ予約を決めにくいはずです。


ここで役立つのが、シャープらのいうフィジカル・アベイラビリティ、つまり買いやすさの視点です。販路に存在することに加え、その場所で見つけられ、必要な条件の商品を買えることまで考えます。[6]


以下は、宿泊・観光事業での確認例です。


お客さんが迷う場面

見直す内容

自分たちの人数で泊まれるか分からない

定員だけでなく、寝室、寝具、人数別の料金を示す

旅程に体験を組み込めるか分からない

開始時刻、所要時間、集合場所、移動時間を示す

予約を決めたいが空きが分からない

空き状況や問い合わせ先への導線を確認する

追加費用があるか分からない

清掃費などを含む総額を判断できるようにする


こうした情報を整えることも、地方ビジネスのマーケティングだと思っています。発信量を増やす前に、今見てくれている人が、申し込むところまで進めるかを確認できます。


ただし、ページを見て予約しなかった理由は一つとは限りません。

価格や日程、競合施設との比較もあるため、問い合わせの内容や予約までの動きを材料にして、どこを直すか判断します。


私たちの民泊事業の背景や、地域との関わりについては、Astlocalの講演レポートでも紹介していますのであわせてご覧ください。



地方の事業では商圏と供給量に合わせて優先順位を決める


ここまでを読むと、「もっと多くの人に届けるために、広告を増やすべきなのか」と感じるかもしれません。


ただ、広く届ける範囲は、事業によって違います。近隣で利用するカフェなら、そのエリアに住む人、働く人、訪れる人が候補になります。配送できる地域産品や、遠方から訪れる宿泊施設では、地域外にも購入の可能性があります。


実際に利用できる人の範囲を見定め、そのなかで見落としている人や場面を探す、という考え方です。


供給量も判断に入ります。職人が月に作れる数が決まっていて、すでに注文で埋まっているなら、次に確かめたいのは単価、利益、納期、製造の負担かもしれません。宿泊施設でも、週末は満室なのに平日に空きがあるなら、全体の認知を増やすことだけでは課題を捉えきれません。


購入者を増やすという成長の視点と、今の事業で何を優先するかという判断は、一緒に持っておきたいと思っています。


最初に取り組むことは、次のように整理できます。


今の状態

最初に確かめること

来店はあるが、商品が選ばれない

用途、価格、量、選ばなかった理由

常連の利用はあるが、客数が増えない

初回利用や久しぶりの利用につながる接点

店を知っている人はいるが、利用場面が伝わっていない

どんな用事のときに使えると伝わっているか

閲覧や問い合わせはあるが、購入に進まない

在庫、日程、総額、注文・予約の手順

注文や予約が供給の上限に達している

利益、納期、稼働の偏り、運営負担


すべてを同時に変えると、何が効いたか分かりにくくなります。まず一つの用事や時間帯を選び、売場の説明や予約導線などを見直して、変化を記録してみてください。


カフェなら、同じ曜日・時間帯の来店回数と、初回・再来店の内訳。ECなら、用途別の販売数と、販売にかかった費用。宿泊なら、平日と週末を分けた予約数や、1泊あたりに残る金額が材料になります。小さな母数や季節要因もあるため、短期間の増減だけで施策の効果を決めつけないようにします。


指標の選び方や記録の考え方は、まちづくりのKPIを解説した記事でも整理しています。



まとめ


コトラーとシャープの考え方を地方の事業に活かすなら、自分たちが何に応えられるのかと、その価値が購入につながる状態になっているかを、両方から確かめたいと思っています。


ターゲットを決めるときは、年齢や性別に加えて、利用する場面と必要な客数まで考える。地域産品では、こだわりを買う人の用事につなげ、宿泊や観光では、予約を決めるための情報や手順を整えます。店名や包装など、見分ける手がかりも見落とせません。


まずは、自分の事業で「この用事がある人に、まだ十分届いていないのでは」と思う場面を一つ挙げてみてください。その人が商品を知り、選び、買うまでをたどると、次に手を入れる場所が具体的になります。


地方には、すでに良い商品や、長く使われてきた店があります。それらが役立つ場面を捉え直し、まだ使ったことのない人にも届くようにする。その工夫に、地方でマーケティングを実践する面白さがあると思っています。



出典と参考資料


本文中のカフェの数値は仮の計算です。お茶、焼き菓子、宿泊・観光の改善案は、理論を地方の事業へ応用するための設計例であり、特定の支援先で得られた成果を示すものではありません。


1. Philip Kotler, Gary Armstrong, Sridhar Balasubramanian『Principles of Marketing』第19版。出版社公開抜粋、ターゲティングとポジショニングの章。Pearson公開資料

2. Byron Sharp「Answering critics」。購入者の広がりとロイヤルティの関係について。Ehrenberg-Bass Institute

3. Jenni Romaniuk, Byron Sharp, Andrew Ehrenberg(2007)「Evidence concerning the importance of perceived brand differentiation」。知覚された差別化と識別性を扱う研究。論文の概要

4. Jenni Romaniuk(2022)「Category Entry Points in a Business-to-Business (B2B) world」。B2B・B2Cに共通するCEPの定義を参照。Ehrenberg-Bass Institute

5. 「Brands of Distinction」。ブランドの識別要素が記憶と結びつく条件について。Ehrenberg-Bass Institute

6. Magda Nenycz-Thiel, Jenni Romaniuk(2025)「Easy to Find: Being Where B2B Buying Happens」。買いやすさを構成する観点を参照し、本文の店舗・宿泊例は筆者が応用したもの。Ehrenberg-Bass Institute




地方の事業のマーケティングをHONEと考えませんか?


HONEでは、地域の企業や自治体とともに、市場・顧客調査、ブランド戦略、施策の実行・検証を支援しています。


「誰に届けるかは決めたが、売上につながっていない」「SNS、売場、商品、予約導線のどこから直すべきか分からない」といった段階からご相談いただけます。今の販売状況や運営体制を伺い、取り組む順番を一緒に考えます。



HONEの流儀

大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。


HONEサービス一覧

voicyはじめました。

youtube はじめました

5万併走


記事を書いた人


株式会社HONE 代表取締役 桜井貴斗

桜井 貴斗|株式会社HONE 代表取締役


大手求人メディアで営業、マーケティング、新規事業開発を経験し、2021年に独立。地方の企業や自治体に対して、現場に入りながらマーケティング・ブランディングを支援。Astlocal株式会社の代表として、静岡で民泊事業にも取り組んでいます。

bottom of page