【第2回/地方ブランドが活かすべき視点】思い出されないブランドは、選ばれない。『ブランディングの科学4』より考える、メンタル・アベイラビリティとCEP
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前回の記事では、地方ブランドの課題は「良いものがないこと」ではなく、「良いものが選ばれる状態まで設計されていないこと」だと解説しました。
▼参考:【第1回/地方ブランドが活かすべき視点】地方ブランドの「売れない理由」を健康診断してみる-『ブランディングの科学4 ブランド健康診断篇』より-
第2回で取り上げるのは、その入り口となる「思い出される」という状態です。
『ブランディングの科学4 ブランド健康診断篇』では、ブランドの健康状態を測るうえで、メンタル・アベイラビリティとCEPが重要な指標として整理しています。
メンタル・アベイラビリティとは、生活者の頭の中でブランドが思い出されやすい状態のことです。CEP(カテゴリーエントリーポイント)は、生活者がそのカテゴリーを必要とする入口のこと。
例えば、「仕事中に一息つきたい」「手土産を探している」「食後にさっぱりしたい」といった生活の中のシーンが想像できるようなものが具体的なCEPにあたります。
人は、いきなりブランド名を思い出して買い物をするわけではありません。先に、生活の中で必要な「用事」や「気分」があり、そのシーンで思い出されたブランドが、購入候補に入るようなイメージです。
地方ブランドに必要なのは、名前を知ってもらうことだけではありません。どんなシーンで思い出されたいのかを決め、そのシーンとブランドを結びつけていくことです。
全4回、『ブランディングの科学4 ブランド健康診断篇』を手がかりにしながら、地方の中小企業・アトツギ・自治体・支援機関などが、ブランドをどう点検し、どう育てていくべきかを考えていきます。
目次
認知されていても、買うシーンで思い出されなければ選ばれない
認知されていても、買うシーンで思い出されなければ選ばれない
「ブランドの状態」を測るとき、まず認知度(知られているか)を確認することが多いと思います。
名前を知っているか。商品を見たことがあるか。聞いたことがあるか。もちろん、認知は重要です。知られていないブランドは、そもそも選択肢に入りません。
ただし『ブランディングの科学4』では、単なる認知だけではなく、カテゴリーを購入するシーンでブランドが想起されるかどうかが重視されています。ブランド名を知っていることと、実際に買う瞬間に思い出されることは別です。
例えば、地元では有名なお菓子があるとします。
名前も知っているし、昔からあることも知っている。しかし、生活者が友人への手土産を探すときに、そのブランドが頭に浮かばなければ、駅の中のお店で売っていなければ、当然ながら購入候補には入りません。
お茶でも同じことが起こります。地域の人がそのお茶屋さんを知っていたとしても、仕事中に一息つきたいとき、食後に一服したいとき、夏に冷たい飲み物を常備したいときに思い出されなければ、買われる機会は増えません。
さらには観光地も同じです。地名として知られていても、週末に家族で出かける場所、友人と写真を撮りに行く場所、静かにひとりで過ごす場所として思い出されなければ、旅先の候補にはなりにくい。
これらの例はとても当たり前のことを書いていますが、つまり、知られているだけでは選ばれないのです。
大切なのは、生活者が何かを必要としたシーンで、そのブランドが自然に浮かぶことです。
事例:キットカット
有名ブランドの例では、キットカット(KitKat)が分かりやすいと思います。キットカットは長年、休憩の時間とブランドを結びつけてきました。公式にも、1958年に導入された 「Have a break, have a KitKat」というフレーズが、休憩やリラックスのシーンと結びついて広がったことが紹介されています。

単にチョコレートの品質を伝えるよりも、どんな時に食べるのか?という食べるシーンをつくった事例です。甘いものが欲しいときだけでなく、少し休みたいときに思い出されるブランドになったとも言えます。
地方ブランドも、この視点から考える必要があります。
良い商品であることを伝えるだけではなく、どんな瞬間に思い出されるべきかを決める。そのシーンに合わせて、発信、商品名、パッケージ、売場、ECの見せ方を逆算して整えていくようなイメージです。
ただ「知っている」という認知を増やす前に、まずは想起されるシーンを決めること。ここが、メンタル・アベイラビリティを考える第一歩となります。

関連記事:メンタルアベイラビリティ・フィジカルアベイラビリティとは?具体的な定義と考え方を解説します。
CEPとは、人が商品・サービスを必要とする入口である
『ブランディングの科学4』では、CEPはメンタル・アベイラビリティを構成する重要な要素として扱われています。
CEPとはCategory Entry Point の略のこと。直訳すると、カテゴリーに入る入口です。もう少し自然に言えば、人がその商品・サービスを必要とするきっかけです。
例えば、「お茶」というカテゴリーに入る入口はひとつではありません。
食後に口をさっぱりさせたい
仕事中に集中したい
甘いものと一緒に飲みたい
来客用に出したい
健康を意識して飲み物を変えたい
夏に水出し茶を常備したい
海外の友人に贈りたい

など、同じお茶でも、入口が違えば選ばれる理由は変わります。
本書で示されているCEPの考え方は、ブランドがどのような購買シーンと結びついているかを見ていくものとして扱われています。単にブランド名を知っているかではなく、どの入口で思い出されているかを確認しましょう、と書かれています。
ここで重要なのは、ブランド側が言いたいことから始めないことです。
例えば、歴史があります。素材にこだわっています。職人が丁寧につくっています。地域性があります、などという言葉です。もちろん、それらはとても大切で、ある種ブランドのアイデンティティにもなっていると思います。
ただし、生活者はその特徴や説明を読む前に、まず自分の生活のシーンに照らし合わせ、「本当に必要だろうか?」と考えるはずです。
つまり、何を買うかより先に、なぜ今それが必要なのか?を指し示してあげることが必要となります。CEPを考えるとは、生活者にとってのシーンとリンクさせていくことが大切なのです。
事例:コカ・コーラ
コカ・コーラの Share a Coke も、CEPを考えるうえで参考になります。Coca-Cola公式キャンペーンがオーストラリアで始まり、名前入りボトルを通じて人とのつながりや共有のシーンをつくったことが紹介されています。
商品そのものを説明するのではなく、誰かに渡す、分かち合う、会話が生まれるというシーンをつくって話題となりました。ここに単なる商品の特徴を訴求していないコミュニケーションをとっていることがわかります。
地方ブランドも、商品説明だけに寄せすぎると、入口を逃してしまいます。
ただおいしいお茶です、で終わらせず、どんな時に飲むお茶なのか?を訴求する。良い器です、で終わらせず、どんな食卓や贈り物に合う器なのか?まで伝える。歴史ある温泉です、で終わらせず、どんな疲れや気分に応える場所なのか?まで謳ってみる、ということが必要となります。
CEPは、ブランドの言いたいことを、生活者の必要なシーンに翻訳するための考え方とも言えます。

関連記事:カテゴリーエントリーポイント(CEP)とはなにか?事例、参考になる本/書籍を紹介
誰に売るかだけでなく、どんな時に選ばれるかを考える
マーケティングでは、ターゲットを決めることが重要だとされています。
30代女性、子育て世帯、観光客、富裕層、地元住民、首都圏在住者など、誰に届けるかを考えることは、もちろん大切だと言われてきました。
ただし誰に売るかだけで考えると、打ち手がぼやけることがあります。それはなぜか?
同じ30代女性でも、「平日の仕事中に飲むお茶」と、「休日に友人へ渡す手土産」では、選ぶ理由が違ってきます。同じ観光客でも、「家族旅行、ひとり旅、接待、視察、推し活」では、行きたい場所が変わります。同じ地元住民でも、普段使いと贈答では、買う商品が変わります。
このように、ターゲットを単なる「人物像」で分けるだけでは不足してしまう、ということです。どんな時に選ばれるか?までイメージをしておかなければ、ブランドは生活者の中に入っていきません。
例:地方の食品ブランドの場合
地方の食品ブランドが若い女性向けに売りたいと考えたとします。
パッケージをかわいくし、SNSを強化しようと試みてみる。それ自体は悪くありません。ただ、その人がどんなシーンで買うのか?が決まっていなければ、単なる発信内容だけを議論することになってしまいます。
自分用の夜のおやつなのか
職場で配る小分け菓子なのか
帰省時の手土産なのか
推し活の差し入れなのか
旅行後に思い出を持ち帰るためなのか

シーンが違えば、量も価格も言葉も売場も変わってきます。
『ブランディングの科学4』では、ブランドは購入者の記憶構造の中でさまざまなCEPと結びつくことで、想起される可能性が高まると整理されています。つまり、ひとつの強い理由だけでなく、いくつかのシーンで思い出されることが重要ということです。
CEPは、ターゲットを否定する考え方ではありません。誰に届けるか?に加え、その人がどんな時に商品・サービスを欲しくなるか?という視点を持つための考え方です。
地方ブランドは、人口も商圏も予算も限られています。だからこそ、すべての人に向けて発信するのではなく、思い出されるべきシーンを絞るほうが効率も良く、成果も高まりやすいはずです。

関連記事:地方ブランドが「クラファン止まり」になる理由とは?スモールビジネスの罠から救う「4つのリンク」
関連記事:選ばれる観光地はどう作られるのか?『DBAs・CEPs・エクイティ』3つのリンクで読み解く地域ブランディング
思い出されるシーンを増やすことが、選ばれる理由を増やす
最後に思い出されるシーンについて深掘りをしていきます。自分たちの商品や地域が、どんなシーンで思い出されるべきか?を整理する必要があります。
先ほどと同様に、お茶なら、食後、仕事中、手土産、来客、健康、夏の水出しなど、さまざまなシーンがあります。観光地なら、家族の半日旅、雨の日の行き先、学びのある体験、夜の楽しみ、静かな滞在などなど。
こうしたシーンをいくつかピックアップしたなら、次はそのシーンに合わせてブランドを整えていきます。
SNSやブログなどの発信の際には、そのシーンが想起されるような訴求を心掛けていきます。商品名では、どんなシーンで使えるか?が分かるようにするのも一つです。パッケージデザインでは、贈る相手や用途を想像しやすくするのも手です。
大切なのは、CEPと生活者へのコミュニケーションを一致させることです。
CEPは、発信、商品設計、売場、EC、広告、接客に落とし込んではじめて意味があります。どんなシーンで思い出されたいかが決まれば、何を言うべきか、何を削るべきかも見えてきます。
地方ブランドは、言いたいことが多くなりがちです。歴史もある。素材もある。技術もある。地域性もある。人の想いもある。どれも大切です。
ただし、それを全部そのまま伝えると、生活者にとっては選ぶ理由が見えにくくなることがあります。思い出されるシーンを決めることは、ブランドを小さくすることではありません。生活者の行動・思考の中に入りやすくすることです。
このシーンなら、このブランド。そう思われる入口が増えるほど、ブランドは選ばれやすくなります。
『ブランディングの科学4』で示されているブランド健康診断の考え方は、測定可能なものとして捉えようとする点に価値があります。どのCEPで思い出されているのか。購入者と非購入者で違いはあるのか。競合と比べて、どのシーンで強いのか。こうした問いを立てることで、ブランドの伸ばしどころが見えてきます。
地方ブランドに必要なのは、認知を増やすことだけではありません。生活者の生活の中に、自分たちが思い出される入口をつくることです。
文化を残すために、経済をつくる。そのためには、想いを語るだけでは足りません。想いが思い出されるシーンを持つこと。そこから、選ばれる理由が生まれていきます。

次回予告(ブランディングの科学4まとめ)
次回は、思い出されたブランドがきちんとブランドとして見分けられるか?について深掘りしていきます。ロゴ、色、パッケージ、言葉づかい、店構え、発信者の顔など。地方ブランドが育てるべき目印、「DBA」について考えていきます。
第3回は、見分けられる地方ブランドをつくる — DBAs・ブランド資産篇です。
▼【第1回/地方ブランドが活かすべき視点】地方ブランドの「売れない理由」を健康診断してみる-『ブランディングの科学4 ブランド健康診断篇』より-
HONEは地域に根ざし、現場に足を運ぶ地方マーケティング会社です。
日本の地方には、魅力的な商品・サービスがたくさんあります。
地方に根ざしたブランドの志や文化、人々の誇りや営み。HONEはそうした人たちの想いを価値に変えるべく、現地に出向いてきました。 私たちは、文化と経済の「骨」を設計し、地域の「らしさ」を未来へつなげる仕組みを育てます。 論語と算盤。想いと仕組み。美学と実行力。 その両立を、マーケティングの力で実装していきます。

▼HONEにできること
語られていない価値の「骨」を探す
商品や地域の中にある「想い」や「背景」は、まだ言語化されていないだけかもしれない。 それらを丁寧にすくい上げ、ブランドの芯として翻訳します。 見落とされがちな隠れた価値に役割を与えることが、事業の骨格をつくるはじまりです。
現場に入り、五感を使って「骨」を磨く
戦略も仕組みも、現場を歩き、対話することから始まります。 地形、歴史、空気、人の言葉やまなざし。デスクリサーチでは捉えきれない情報を五感で受け取り、定量と定性、論理と情緒、ロマンとそろばんを掛け合わせて、設計に落とし込みます。
手を動かしながら、「骨」を強くする
支援とは、プランを出して終わりではありません。 現場に入り、泥臭く、時に失敗しながら共につくりあげていきます。 頭で考えて、手足を動かす中で生まれる「実感」こそが、骨を太くし、しなやかに持続する構造を育てていきます。
文化となる「骨格」を、未来へ残す
目指すのは、ただ売ることではありません。 地域に根ざした文化や営みに芯を通し、事業として持続可能なかたちに育てていくこと。短期的な成果ではなく、関わる人たちの誇りとなり、語り継がれていく仕組みをデザインします。 HONEは、経済と文化をつなぐ骨を共につくり、未来へと残していきます。

▼HONEの強み
01/一貫サポート
戦略設計から実行〜検証まで。経営課題の整理から、現場を動かす具体的な仕組みづくりまでを、一貫して支援します。リサーチ・企画・実装・振り返りのすべてに伴走し、商品・サービスの価値を再定義しながら、現場に根づく事業を共につくります。目指すのは、短期的な成果だけでなく、文化が息づき、長く続く事業と地域のかたちです。
02/現場主義
デスク上、リモートワークでは見えない、地域の空気や人の温度に触れる。HONEは現地に足を運び、実際に現場の風景・人の営みに向き合いながら、これまでの現場で得た経験則を元に戦略・戦術に反映していきます。現在起こっている事実に基づく分析はもちろんのこと、解釈に現場の五感で得た気づきを重ね合わせ、実装へとつなげていきます。
03/全国実績
北は北海道、南は沖縄まで、一次産業から観光、教育、行政、ベンチャー、スタートアップ、アトツギなど、多種多様なプロジェクトに携わってきました。たくさんの地域を見てきたからこそ、それぞれの良さに気づくことができます。そして土地に根付くその事業の「らしさ」を、より鮮明に見つけることができます。全国各地で積み重ねた知見を、次の挑戦に活かします。
04/産学官連携
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なぜ今、“地方”でマーケティングが必要なのか
マーケティングという言葉には、しばしば「スケールする」「売上を伸ばす」といったイメージが付きまといます。しかし、地方において本当に必要なのは、そうした直線的な成長だけではありません。人口減少、担い手不足、そしてインフラや情報環境の未整備。多くの地域が、さまざまな制約の中で日々の営みを続けています。
制約が多いからこそ、その土地に根ざした価値を継続し、文化や人々の想いを循環させていくための工夫が欠かせません。マーケティングの論理をそのまま持ち込むのではなく、人肌を大切に、想いを大切に、未来へとつなげていく。実装力と創造力を備えた「地方のマーケティング」が必要です。

地方に必要なのは、「地域理解」
こうした現場においてまず必要なのは、「何をどう売るか」よりも先に「この地域には何があるのか」「何を残していきたいのか」を知っていく姿勢。つまり「地域理解」です。ブランド構築の土台を固めるには各レイヤーごとに把握すべきポイントを理解することが重要です。

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【記事を書いた人】

株式会社HONE
代表取締役 桜井貴斗
札幌生まれ、静岡育ち。 大学卒業後、大手求人メディア会社で営業ののち、同社の新規事業の立ち上げに携わる。 2021年独立。クライアントのマーケティングやブランディングの支援、マーケターのためのコミュニティ運営に従事。











