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最期は家で過ごしたい。静岡で在宅医療に挑む、若き医師の想い。【静岡県静岡市】

公開日:

2026年6月23日

最終更新日:

2026年6月23日

最期は家で過ごしたい。静岡で在宅医療に挑む、若き医師の想い。【静岡県静岡市】

少子高齢化、人手不足、そして莫大な固定費の削減。今、日本の医療業界は、構造改革の分岐点に立たされています。国の方針として進められているのは、病院の統廃合と入院期間の短縮です。一昔前であれば、1ヶ月入院できたような状態であっても、今や数日で退院を余儀なくされるケースも珍しくありません。


病院から地域へ。国が掲げるその方針のしわ寄せは、地域医療の現場、なかでも在宅医療へと押し寄せているのが現実です。今回は、そんな状況の中で、「すんぷ在宅クリニック」を開業された、大石龍之介先生にお話を伺ってきました。



すんぷ在宅クリニックとは


「すんぷ在宅クリニック」は、静岡県静岡市を拠点に、ご自宅・施設に訪問して診察する、在宅診療クリニックです。院長の大石龍之介先生は、在宅での診療を通じて、患者が住み慣れた「家で過ごす穏やかな日常」を守ることを理念に掲げています。


すんぷ在宅クリニック
すんぷ在宅クリニック

同クリニックが対象とするのは、病気や障害によって通院が難しくなった方々です。


医師が自宅や施設を直接訪問し、採血やエコー検査などの各種検査、点滴管理といった、病院の外来や入院に匹敵する医療処置を、患者さんの住まいで提供しています。

最大の特徴は、24時間365日いつでも対応できるオンコール体制と、緊急往診体制を整えている点です。利用者の約7割を、がん末期の患者さんが占めており、余命数ヶ月という限られた時間の中で「最期は自宅で過ごしたい」という願いに寄り添っています。




24時間365日対応。大石先生を突き動かす原動力。


患者さんをご自宅で看取るということは、医師が24時間365日、いつ鳴るかわからない緊急電話を待ち受け、夜間であっても即座に駆けつけるということです。時代に逆行する働き方が求められるこの領域は、担い手が圧倒的に不足しています。


大石龍之介先生
大石龍之介先生

特に静岡県は、人口規模に対して医師数が十分とは言えず、人口10万人当たりの医師数は全国39位と、下位に位置しています。全国平均を大きく下回る医療提供体制のなかで、地域医療をどう維持していくのかが大きな課題となっています。

(出典:静岡県健康福祉部「静岡の医師偏在の状況について」


若手医師の多くは、東京や名古屋へ流出してしまい、静岡市内で在宅専門クリニックを新規開業する例は極めて稀で、むしろ撤退する動きすらあるのが現状です。


静岡の厳しい医療情勢のなか、36歳で在宅クリニックの開業を決意した大石先生。原動力となったのは、医師として直面した現場の苦悩と、幼少期に経験したある出来事が、強く関係していると話します。


実は大石先生自身、長期入院を経験した過去があるそうです。8歳のとき、自転車事故で大怪我を負い、肝動脈からの出血により、長期間の治療を余儀なくされました。2週間もの間、寝返りすら許されない生活のなかで、ゲームボーイを握りしめて過ごした記憶。だからこそ、「人間、誰しも病院ではなく家にいたいものなのだ。」という、当たり前のことが分かるのです。


「すみません、うちはもう一杯です。」


また、大石先生が、医師としてのキャリアを積む中で痛感したのは、人手不足によって早期退院せざるを得なかった患者さんたちの、行き場が失われている現実でした。施設やクリニックから受け入れを断られ、適切なケアを受けられないケースを、数多く見てきたといいます。


その一方で、「病院のベッドで死ぬのは嫌だ。最後は穏やかに我が家で過ごしたい。けれど苦しいのは嫌だ。」という、患者さんの声も、毎日のように耳にしていたそうです。


すんぷ在宅クリニック
すんぷ在宅クリニック

私は、今回の取材を通して、昨今の医療業界の実態を知りました。その後に、患者さんの抱く、「最期は穏やかに家で」という願いを聞くと、少しワガママのようにも思えました。しかしながら、もし自分自身がその立場に置かれたとしたら。それは、特別な望みではなく、人として普通のことで、尊重されるべき想いであるとも考えました。


思い返せば、癌で帰らぬ人となった母方の祖父も、脳出血で倒れ、今も施設での生活を余儀なくされている父方の祖父も、同じ言葉を繰り返していました。


「家に帰りたい。」


断られ続ける患者さんの現実と、家に帰りたいという声。医師として知識も経験も成熟した今、大石先生は「医療という形で故郷に恩返しができるなら、これしかない。」と、自分のリソースを全て注ぐ覚悟を決めたのです。



家族に言えない「孤独」と、信頼のコミュニケーション。


また、在宅医療の現場に足を踏み入れると、外来の診察室では決して見えない「孤独」が浮かび上がってくると大石先生は話してくれました。


「今まで当たり前にできていたトイレに行けなくなった。」といった、身体の衰えに直面したとき、高齢の患者さんは強い不安に包まれます。男性の患者さんは特に、大切な家族だからこそ「迷惑をかけたくない」「弱音を吐きたくない」と、一人で痛みを我慢してしまいがちです。家族の前では「痛くない」と気丈に振る舞い、誰もいなくなってから静かに泣いていることも少なくないそうです。


診察をする大石先生
診察をする大石先生

だからこそ、大石先生の診療は、ご家族が席を外した瞬間に本番を迎えます。 「本当のところ、どうですか?」


ひっそり声をかけると、患者さんは「実は夜も眠れないほど痛いんだ。」と、家族に言えない本音を漏らしてくれます。この孤独に寄り添い、本当の身体の状況を引き出すコミュニケーション能力こそが、在宅医に最も求められるスキルだと、大石先生は話します。


さらに、年齢が倍以上離れた高齢の患者さんや、ご家族から信頼してもらうために、的確な医学的解説を大切にしています。


外来の主治医が忙しくて説明しきれなかった、今飲んでいる薬の意味を丁寧に解説すると、「そういう意味の薬だったんだ。胃薬だと思ってたよ。」と深く納得してもらえます。素人だから分からないと片付けるのではなく、説明を尽くす。ご家族それぞれの悩みや不安に向き合うことで初めて、ご家族全員から安心と信頼を寄せていただけるようになると、大石先生は教えてくれました。



チーム医療と、次世代を見据えた「全体最適」


とはいえ、強い覚悟と信念があったとしても、医師一人の24時間365日には限界があります。患者さんやご家族にとっても、「こんな些細なことで、お医者さんに電話してもいいのかな。」という心理的ハードルは高いものです。


そこで、すんぷ在宅クリニックでは、地域の訪問看護ステーションと連携した「2段構え」の体制をとっています。


まずは、より相談しやすい存在である訪問看護師さんが電話を受け、現場へ駆けつけます。看護師さんが状態を精査し、「これは大石先生を呼ぶべきだ」「これは薬の調整で様子を見よう」と、判断を下します。この仕組みがあるからこそ、患者さんは「いつでも相談ができる」という安心感を得られ、同時に医師の過労を防ぐ、持続可能な医療が成り立っています。


さらに、大石先生は目の前の患者さんだけでなく、遠く離れたご家族の不安までケアしています。


大石龍之介先生
大石龍之介先生

今、静岡で一人暮らしをする高齢者の息子世代は、名古屋や東京、あるいは北海道など、県外で暮らしているケースが非常に多いのが実情です。「遠くにいるお父さん、お母さんは大丈夫だろうか」と、彼らもまた深い不安を抱えています。


大石先生は、採血結果や日々の様子を、遠方にいる息子さん娘さんにも、こまめに連絡されているそうです。


 「今は安定していますから大丈夫ですよ。」


 その一言があるだけで、子どもたちはどれほど救われるでしょうか。


「安心してもらうことで、次の世代が自分の仕事や生活に集中できるようになる。それもまた、地域医療が果たすべき『全体最適』の形だと思うんです。」


大石先生のこの言葉からは、患者さんやご家族だけでなく、その先にある地域社会全体の最適化まで見据えていることが強く伝わってきました。



愛する静岡のために


静岡出身だからこそわかる生活導線。「車がないとあのスーパーには行けないな。」「あのバス停からは地味に坂道が続くな。」という、地元民にしか分からない土地勘。さらには、過去に培った不動産の知識まで総動員し、介護保険を使った手すりの設置位置まで的確にアドバイスします。


というのも、大石先生はお医者さんであると同時に、不動産投資や空き家再生にも取り組む実業家としての顔を持っています。弊社代表の桜井とともに、空き家を活用した民泊事業も推進しています。



取材の様子
取材の様子

これまでの人生で得た知識と経験のすべてが、パズルのピースのように噛み合い、静岡の在宅医療の現場で役に立っている。年齢を重ねて、一本の線として繋がっていくことを、大石先生は「おじさん現象」だと、冗談まじりに笑います。しかし、その目には「自分の持てる全てをもって、故郷の生活を守り抜く」という、愛と覚悟が宿っています。


「家に帰りたい」という当たり前の願いを、当たり前に叶えられる街にするために。 すんぷ在宅クリニックは、今日も誰かの我が家のドアを叩いています。




あとがき


静岡の街並み
静岡の街並み

今回、すんぷ在宅クリニックの大石先生にお話を伺い、私が普段気にも留めていなかった、医療の最前線に触れることができました。


24時間365日、いつ呼ばれるかわからない、気の休まらない環境。それを支えているのは、単なる義務感ではなく、先生が現場で見てきた「行き場をなくした患者さんたちの現実」と、幼少期の原体験、そして何より「故郷・静岡へ恩返しをしたい」という地元愛でした。


印象的だったのは、大石先生が「医療は今を守る領域。未来は作れない。」と言い切りながらも、遠く離れて暮らす子ども世代の不安を解消することで、結果的に「次世代の地域社会」を支えているという視点です。


医療の枠を超え、不動産の知識や地元だから分かる土地勘を活かして、患者さんの生活そのものをリデザインしていく姿は、まさに地域に根ざした新しいドクターのあり方だと感じました。すんぷ在宅クリニックは、これからの静岡にとって、なくてはならないセーフティーネットになっていくはずです。


HONEインターン/森



ほねろぐとは


AIの急速な台頭により、私たちの世界は、目紛しい変化を遂げています。効率化が進むその影で、古きよき日本の文化や風景、人との繋がりが失われつつあるのも、悲しい現実です。


そんな時代だからこそ、我々株式会社HONEは地方に足を運び、先人たちが紡いできた伝統や、未来に残したい景色を記録します。


いつのまにか、地方の「ほんと」の姿が見えてくる。


町の暮らし。人々の想い。仕事の姿勢。

忙しない日常で忘れ去られた豊かさが、そこには息づいています。


気づけば、地方が近くなる。


現場でしか得られない骨太な体験を、お届けしていきます。



株式会社HONEについて


HONEの流儀
HONEの流儀

HONEでは、地方企業さまを中心に、マーケティング・ブランド戦略の伴走支援を行なっています。事業成長(ブランドづくり)と組織課題(ブランド成長をドライブするための土台づくり)の双方からお手伝いをしています。

大切にしている価値観は「現場に足を運ぶこと」です。土地の空気にふれ、人の声に耳を傾けることから始めるのが、私たちのやり方です。


学びや知恵は、ためらわずに分かち合います。

自分の中だけで完結させず、誰かの力になるなら、惜しまず届けたいと思っています。

誰か一人の勝ちではなく、関わるすべての人にとって少しでも良い方向に向くべく、尽力します。地域の未来にとって、本当に意味のある選択をともに考え、かたちにしていきます。

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