
人は、なぜ焚火に集まるのでしょうか。
焚火の前では、会話が途切れても不思議と気まずくありません。揺れる火を眺め、時々空を見上げる。それだけで、ゆっくりと時間が過ぎていきます。
2026年8月12日と13日、熊本県南関町の交流拠点施設〈ukara〉で、「星空と焚火の夕べ」が開かれました。広場の外灯を消し、焚火を眺めたり夜空を見上げたりしながら過ごす、二夜限りのイベントです。
今回は、焚火イベント「TOMARIGI」を通して、なぜ人は火に集まり、そこでどのような時間が生まれるのかを考えました。
(執筆:西脇彩子)
元温浴施設が、人と本の交流拠点に

南関町交流拠点施設〈ukara〉は、温浴施設として親しまれてきた「うから館」を改修した交流拠点です。現在は、南関町図書館〈このみch-i〉、カフェ〈キツネノボタン〉、貸室、芝生広場が一つになり、子どもから大人まで楽しめる場所へと生まれ変わりました。
施設名は、母の実家がある南関町で生まれた詩人・北原白秋の詩に由来します。「うから(族)」は、家族や仲間、つながりを表す言葉です。
かつて人々が湯に入り、くつろいでいた場所が、今は本や食、イベントを通じて人と出会う場所になっています。形は変わっても、人が集い、ひと息つく役割は受け継がれているように感じました。
本と焚火。正反対に見える二つのもの
日が落ちると、暗がりの中で火の存在感が増していきました。
図書館のそばで焚火をする(紙と火)という、一見すると相反する組み合わせには、思わず目を引かれます。
「本を読む時間が、自分の中に言葉や考えを取り込む”インプット”だとすれば、焚火を囲む時間は、浮かんだことを誰かに話し、外へ出す”アウトプット”の時間とも言えると思います」と、イベントを運営する森山さんが語ってくれました。
当日の取材では、図書館の蔵書と焚火を結びつけ、館内と 広場を行き来してもらうイベントの可能性についても話が広がりました。
図書館で本を手に取り、広場へ出て火を囲む。そこで交わした会話をきっかけに、また本棚へ戻る。蔵書とイベントを行き来する流れが生まれれば、図書館と広場を備えた〈ukara〉ならではの過ごし方になりそうです。

積み重ねの先に生まれた「TOMARIGI」

焚火イベント「TOMARIGI」を手がけるのは、福岡県柳川市の水門メーカー・株式会社乗富鉄工所です。
同社は、水門づくりで培った職人の技術を生かして焚火台などのアウトドア用品も開発しています。「焚火を柳川の夜のコンテンツにできないか」という発想から、地域の人たちと月に一度、火を囲む活動が始まりました。
最初の活動は、2022年に三柱神社前で始めた「焚き火部やながわ」です。発起人は、乗富鉄工所代表の乘冨賢蔵さん。月に一度の開催を2年以上重ね、安全に焚火を扱ってきた実績もあり、2024年から駅前で開催したタイミングで「TOMARIGI」と改名してイベントを続けてきました。
「TOMARIGI(止まり木)」とは、鳥が羽を休める木のこと。通りがかった人が休憩し、思い思いに過ごせる場所になってほしいという想いが込められています。
公共の場所で火を扱うには、防火への配慮と、周囲からの信頼が欠かせません。当日の取材でも、これまでの開催で得た経験を活かし、安全面に気を配りながら運営していることを伺いました。
誰でも気軽に立ち寄れる和やかな時間は、こうした地道な積み重ねに支えられています。
イベントの運営は現在、若手メンバーたちも様々な形でイベントに関わっているとのこと。
焚火をきっかけに会社のことを知った人も多いそうで、地域イベントが採用につながる素敵な事例だと思いました。
乗富鉄工所

